表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔法が使えない私を選んだのはあなたです

作者: 夏華

貴族の子女が集う王立魔導学園に、ひとりの少女が通っていた。

名はエリーゼ。

平民出身でありながら、その“知識の深さ”と“礼儀正しさ”で、王太子カリスの婚約者として選ばれた稀有な存在だった。


だが、エリーゼには“欠陥”があった。

彼女は魔力が極端に弱く、魔法が一切使えない「魔法盲」とされていたのだ。


それでも彼女は黙々と学問に励み、裏方として王太子の政務を支え続けた。


――しかし、学園三年目。

王太子カリスは、突如、学園内に編入されてきた聖女候補の少女セラ=マリンと親しくなり、エリーゼを遠ざけ始める。


そして、校内パーティの場にて、

カリスはエリーゼに向かってこう宣言した。


「エリーゼ。君との婚約はここで解消させてもらう。

君は、王妃にふさわしくない。魔法すら使えぬ者に、王の傍に立つ資格はない」


会場はざわめき、セラは勝ち誇ったように微笑んだ。

エリーゼは、ただ静かに一礼して立ち去る。


その背中を見ながら、誰もが思っていた。


(これで“平民のくせに婚約者だった女”も終わりだ、と)


──だが、誰も知らなかった。


エリーゼが魔法盲といわれる真の“理由”を。




数日後。

学園を魔獣が襲うという前代未聞の事件が起こった。


学園結界が破られ、逃げ惑う生徒たち。


だがそのとき、魔獣の前にひとり立ったのは――エリーゼだった。


「“制限解除”。出力30%で十分ですわね」


静かにそう呟いた彼女の指先から、圧倒的な魔力が解き放たれる。


誰もが信じられなかった。

あの“魔法盲”が、巨大な魔獣をわずか一撃で無力化したのだ。


その後の調査で判明したこと。


・エリーゼは、古代種の魔力干渉体質であり、魔力が暴走するため自己封印していた

・魔法の才能は国家最高等級。しかも精密な魔術理論と戦略的理解を併せ持つ

・かつて王国の禁術理論書を解読した“匿名の学者”が、実は彼女だった


そしてもう一つ、彼女が「魔法が使えない」とされたまま、その誤解を訂正しなかった理由も明かされた。


「もしも力の存在を知られれば、王太子や周囲の者たちは“私の力”を求めるようになるでしょう。

私は、誰かに使われるためにここにいるのではありません」


それが、彼女が長らく沈黙を貫いた理由だった。

力を誇るためでも、見返すためでもなく、

ただ「自らの意志で動くため」に――エリーゼは真実を隠し続けたのだった。


魔獣の脅威を鎮めた功績とあわせて、

彼女は王国より【第一魔導監察官】に正式任命される。


── 一方、王太子とセラは、学園内で冷たい視線に晒されていた。


「侮辱していた婚約者の方が、実は“国家の要”だったそうですね」


「セラ様、魔力制御どころか初歩魔法すら失敗されてましたが……本当に“聖女”ですか?」




数週間後。

王太子カリスは、急速に悪化する外交と政務の混乱の中でようやく悟る。


──エリーゼこそが、本当に自分を支えていた存在だったのだと。


宮廷に呼び出されたエリーゼに、カリスは頭を下げる。


「すまなかった。俺は君を見誤っていた。……どうか、再び私の傍に……」


しかし、エリーゼは淡く微笑むだけだった。


「不思議ですわね。

あなたが私を“選んだ”ことも、“捨てた”ことも、どちらもあなたの自由。

でも今さら“戻ってこい”なんて……まるで、子どもの駄々ですわ」


「エリーゼ……!」


「私を選んだのは、あなた。

私を捨てたのも、あなた。

そして今、私が“ここにいない”という現実も、あなたの選択の結果ですのよ」


王太子は何も言い返せなかった。


そして、彼女は静かに踵を返す。




その後、エリーゼは正式に王直属の魔導師団を率い、国の安全と発展を担う重要な地位へ就く。


彼女の冷静な判断と、人に媚びない誠実さは国中で評価され、民衆からは「真の王妃」と称えられるようになる。



一方、カリス王太子は、その後も王宮内で孤立。


聖女セラは“異邦の魔道具による偽装聖印”を使っていたことが露見し、国外追放。


王太子も“人を見る目を持たぬ”として王位継承順位を落とされた。


──エリーゼは、その報を聞いた夜、ただ静かに日記を閉じてこう呟いた。


「私が魔法を使えないと信じた人たちには、見えなかったのでしょうね。

“知識も、努力も、誇りも、魔力と同じくらい強いものだ”って」


そして、彼女は今日もまた、魔導書を手に取る。


誰かに見せるためではなく、

ただ自分自身のために、明日を進むために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まぁ上の方は知ってたんだろうね_(┐「ε:)_ だからこそ平民が王太子の婚約者になれたんだろうし? ーーーーーーーーーーーーーーーーー 王太子も“人を見る目を持たぬ”として王位継承順位を落とされた…
カッコいいな! 変にスパダリとかが出てこないとこも良い
なんで王家にも黙ってたんです?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ