閑話 あいつ、マジでやったんだ!?
ある日の午後、公爵邸のテラス。
さわやかな風が吹き抜ける庭を見下ろしながら、私はリオさんと向かい合ってお茶をしていた。
「でさでさ、この間のデートどうだったの?」
カップを置いたリオさんが、にやにやしながら前のめりになる。
「え? うん。すっごく楽しかったよ〜。チケット、ありがとうね」
「そういうのじゃなくてさ〜! なんかあったの? 進展的なやつ!」
「っ……!」
私は思わず言葉に詰まり、湯気の立つカップに視線を落とした。
「……おや〜? おやおや〜? 今、顔赤くなったね? ミツキちゃん? ミ〜ツ〜キ〜ちゃ〜ん?」
「もう、いいでしょ、べつに……!」
頬を押さえながらそっぽを向いた私だったけど、ふと思い出して口を開く。
「あ、でもリオさん……レオンさんになんか吹き込んだでしょ?」
「へ?」
「エスコートのたびに変な顔してたし……その、あの……帰りの馬車で……エスコートから、そのまま……手、繋いでくれたんだけど……そのときもリオさんのこと、なんか怒ってた」
私が赤くなりながら話すと、リオさんは「ん?」という顔をして少しだけ首を傾げた。
「……エスコートから手……?」
ぽん、と手を打つ。
「——あーーっ、あれか!!」
「え?」
「…………ぷっ」
「えっ?」
リオさんの肩が、小さく震えた。
「……っ、あっははははははは!!!」
「ちょ、ちょっと!? なに!? なんでそんなに笑ってるの!? なんか知ってるんでしょ!? リオさん!!」
私は思わず立ち上がって身を乗り出す。
「いや……あはは、うっ……あいつ……マジでやったんだ……!! いや〜〜〜〜、最高、想像以上!!」
「えっ、えっ!? なに!? なにそれ!? どういうこと!? リオさん〜〜!!」
「ふふ……内緒」
そう言ってリオさんはにこっと笑った。
「でも、ありがと。いいこと聞いたよ〜」
「???」
紅茶の湯気がほわほわと上がるなか、私は頭の中にハテナを浮かべたまま、
向かいで大笑いしている金髪キラキラ王子を、ただただ見つめるしかなかった。