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風を描く〜絵師・英一蝶異聞〜  作者: 紫波吉原 ※5000PV超え感謝
第二章 日ノ本を変える芸術
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第44話 忍者のヒミツ

多賀一郎と金沢屋丸木五郎が、日ノ本を変える計画を立てていると、狩野探探の葬儀から戻った松尾芭蕉が「忍者」の依頼をされたと言う。

 忍者という言葉に大きく驚いた多賀一郎と金沢屋に対して、松尾芭蕉は首をかしげ、「なんか忍者のこと、勘違いしてない? 二人はどんな印象もってんの?」と聞く。


 その質問に、一郎と丸木は、また互いの顔を見合わせる。座敷にわずかな沈黙が落ち、行灯が二人の顔に思案の明かりを灯す。


 先に口を開いたのは、丸木だった。彼の低い声が、静かな室内に響く。


 「厳重な大坂城の豊臣秀吉の寝所に一人潜り込んだ忍者が、暗殺しようと顔を眺めていたら、香炉の千鳥(ちどり)が鳴いたため、秀吉が目を覚まして難を逃れたと聞いたことがあります」と真剣な表情で答える。


 芭蕉は「ふーん、一郎くんは?」と、一郎の顔を見る。


 一郎は待ってましたとばかり、身を乗り出す。


 「伊賀の上忍の一人は、巻物を口に(くわ)えて、仏像みたいな印を結ぶんだ。すると煙がドロンと上がって巨大な蝦蟇(がま)が現れて、それを操縦するんだよ!」と身振り手振りで話す。


 芭蕉は「蝦蟇? カエルってこと?」と肩をぷるぷるさせながら聞く。


 ウンウンと一郎はうなずき、さらに熱を込めて話す。

 

 「その忍者が忍術を唱えると、蝦蟇が炎を吐くんだよ!」


 芭蕉は、一郎の熱弁に笑いを堪えきれないといった様子で、くっと顔をそむけ、「…金沢屋さんによると、忍者は暗殺者。一郎くんによると、忍者はドロンと摩訶不思議な術を使う…」とまで言って、「ぷっ」と吹き出す。


 その笑い声に誘われ、丸木も「ぷっ」と吹き出し、二人は腹を抱えて「わはは」と笑い出す。それまでの重い空気を吹き飛ばすかのような、快活な笑い声が響き渡る。


 一郎は「な、なんだよ、二人して。本当なんだから、信用できる人に聞いた話なんだから!」とむきになる。


 芭蕉は「ひぃ」と腹を抱え、涙を拭いながら聞く。「それ、いつ聞いたの?」


 一郎は憮然として、「十五年前…」と言う。


 丸木は口を押さえて笑うのを我慢するが、その大きな身体は震えている。


 芭蕉は遠慮せず、顔を真っ赤にして笑いながら、「誰よ、信用できる人って?」とさらに聞く。



 その頃、大門の中の吉原の妓楼二階の自室で、胡蝶は文机に肘をつき、物思いにふけっていた。


 十五年前、八歳の時に鈴鹿で一郎と過ごした、夢のような十二日間。


 「色んなことを話したなぁ」と微笑むと、「くしゅん」と小さくくしゃみをする。


 「寒くなってきたわね。もう寝ないと」。そう独りごちて、胡蝶は布団に入り、「おやすみなさい、一郎さん。夢で会えるといいな」とつぶやいて目を閉じる。



 「そ、それは…」と一郎は口籠(くちごも)る。


 芭蕉は、笑い過ぎの涙を拭いながら、丸木に目を向ける。


 「オイラたちに秘密ごとは無しでしょ。ねぇ金沢屋さん」


 丸木は禿頭を茹で蛸のように真っ赤にして、「芭蕉先生、勘弁してください」と笑いを必死で堪えている。


 一郎は、観念したように大声を上げた。


 「あぁ、そうですよ! 胡蝶から聞いたんですよ。だって、鈴鹿は伊賀の隣でしょ。今の今まで信じてましたよ!」


 丸木が我慢できず、「ぶはっ、もう無理です!ガハハハ」と腹を押さえて笑いだす。


 芭蕉も「やっぱりー。ギャハハ」と身体をひっくり返して、手足をバタバタさせて笑い転げる。

一郎の純粋な忍者観は、胡蝶との幼い絆の証だった。芭蕉が持ち込んだ「忍者」の依頼は、彼らの壮大な計画に、新たな一歩を踏み出させる。

次回 第45話「絵師のさが

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