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風を描く〜絵師・英一蝶異聞〜  作者: 紫波吉原 ※5000PV超え感謝
第一章 人間の谷を渡る風
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第20話 胡蝶の疑念

多賀朝湖の画名披露のための「狩野派大博覧会」という壮大な企画が動き出す中、胡蝶は松尾芭蕉から、その詳細を聞かされる。芭蕉は胡蝶を誘うが…

◇吉原

 昼の吉原の茶屋、松尾芭蕉が「五月雨(さみだれ)や 集めて早し 富士の川」と高らかに歌い上げると、胡蝶は「(つわもの)どもが 夢のあと」とすぐに返す。


 芭蕉は「くーっ、やっぱ胡蝶ちゃんはいいね」とうなる。胡蝶は表情を崩さず「どうも」とだけ言って少し頭を下げる。

 

 芭蕉は「というわけで、来月の大俳句大会あらため狩野派大博覧会もよろしく頼むよ」と軽く言う。


 胡蝶は「女将から満月の前の日に、珍しく芭蕉先生が夜の俳諧の集いをされることくらいしか聞いておりませんが」と眉をひそめる。


 芭蕉は「あれー?言ってなかったっけ。単なる俳諧の集まりでなくて、大俳句大会、でもなくて、狩野派大博覧会だよ!」と駄々っ子のように言う。


 胡蝶は「全く話が見えませんが」と首をかしげる。



 胡蝶は「…多賀朝湖(ちょうこ)の画名披露が、狩野家宗家と探幽の臨席のもと、狩野永徳はじめ歴代の狩野派の絵が並ぶ中で行われる…」と、芭蕉から詳しく説明された後に、声を震わせて二度繰り返す。


 芭蕉は「あれあれ、なんで泣き声なの?あと、そこに、オイラの俳句会もちゃんと入れて!」と言うと、胡蝶はキッとした目で見返し、芭蕉は「すみません。それでいいです」とへこむ。


 胡蝶は「その場に私を()げてくれるのですか?」と聞くと、芭蕉が「そうだよ!朝湖のご指名だし」と言う。


 胡蝶は「朝湖先生が、なぜ私を?」と問うと、芭蕉は「なんか知らないけど、オイラが胡蝶ちゃんとの連歌は楽しいよって一度言ったからかなぁ」と言うと、胡蝶はばっと芭蕉の手を掴み、目を潤ませながら「芭蕉様、ありがとうございます。胡蝶は芭蕉様との句のやり取りも楽しうございますが、なにより絵について朝湖先生と語りとうございます」と言う。


 芭蕉は「なんか、微妙な言い方だなぁ」と首の後ろを掻く。


 胡蝶は「多賀朝湖先生とは、どんなお方なのですか?どちらのご出身で?」と尋ねる。


 突然の積極的な質問に芭蕉はちょっと焦り、「あれ、どこだったかな? ()だから、浜名湖(はまなのうみ)? そうそう確か遠江(とおとうみ)出身かも」と適当なことを言う。


 胡蝶は「やはり多賀朝湖は多賀一郎とは別人か」と考える。狩野派の若手ということも思い込みで、吉原でも有名な狩野探幽と宗家との兄弟げんかを取り持つくらいだから、あるいは芭蕉よりも遥かに上の年齢なのかしれないとも思う。



 吉原の昼の部では、格子女郎以上になれば、身体の関係は求められない。胡蝶は、茶屋からの足取りも軽く妓楼へと戻った。


 女将は「芭蕉先生は昼しか来ないね。まったく金にならんよ、俳諧師ってやつは」と毒づく。


 続けて「満月の前夜の予約が入ってるよ、大丈夫かい?」と聞くと、胡蝶は「ええ、もちろん」と浮き浮きと答える。女将が「予約は金沢屋からだよ。多賀朝湖様御一行だと。あと、この間の覗き野郎が落としていった帳面を渡すよ、思い当たるやつがいたら教えて、出禁にするから」と帳面を渡す。


 胡蝶は「金沢屋」と聞いて少し顔を曇らせる。



 胡蝶は二階の自分の部屋に戻ると、文机の前に座り、帳面を(めく)る。最初の頁に「一郎へ」と女性の字で書いてある。はっとして、次々に頁を捲る。


 食事の作り方など一人暮らしの息子に母親が宛てたありきたりの内容と読み取れるが、最後の頁の連絡先として、淀藩石川憲之家臣侍医多賀白庵とあり、確信する。


 あのとき目が合った男は多賀一郎。


 胡蝶は筆を取ると短い手紙を書き、禿(かむろ)を呼び、すぐに届けるように伝えた。


 宛先は金沢屋丸木五郎。

多賀朝湖の画名披露が、狩野派の重鎮たちを巻き込む大博覧会となることを知り、さらに朝湖が自分を指名したことに驚きと喜びを感じる胡蝶。だが、妓楼に帰った胡蝶に一抹の疑念が浮かぶ。胡蝶は金沢屋を呼ぶ手紙を書く。

次回 第21話 吉原のルール

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