第15話 十一年ぶりの再会
初めての吉原を過ごす多賀一郎は酔い覚ましに外にでる。その頃、胡蝶は、板倉重常の倒錯的な責めに耐えていた。
胡蝶は太夫の美しい着物を纏ったまま、荒縄で縛られて、畳を返した板の間で転がされている。
胡蝶は身体がバラバラになりそうな苦痛を感じて「うぐぐぐ」とうめき声が口から自然と漏れるが、頭では「今夜はいつもよりも楽かも。動かなくていい…」と冷めて考える。
板倉は器用に胸と股の部分だけは押し開いて晒した状態で縛りあげた胡蝶を見下ろす。
「苦しかろう。これは五年前に盗賊改に任じられた水野殿から直々に教わった緊縛術じゃ」と嬉しそうに言う。
胡蝶は常連の一人、水野小左衛門守正のことを思い出している。水野が寛文五年(1665)に「関東強盗追捕の事」(盗賊改)を任じられたことも知っている。水野本人が胡蝶の膝枕で頭を撫でられながら猫のような甘えた声で、自分語りをしていたからだ。
確か、その話は板倉への定期報告で伝えたはずだ。胡蝶が見つけた板倉の唯一の弱点は、才能があり仕事・勉強熱心で自信家ゆえに、いつの間にか身につけた知識は自らの力だけで手にしたと思ってしまうことだ。やがて水野から教わったことも忘れるだろう。
ぐいっと板倉が自身を押し込んでくる。板張りの床がギシギシと音を立てる。
いくつかの体位を試したあと、板倉は縛られたままの胡蝶を抱きかかえる形で行為を続ける。
「真面目で勉強家」の困った点は、以前よりもさらに持続する時間が長くなっていることだ。
胡蝶は「それは私が慣れた反応だからかも…」と考え、加虐の快感で赤くなる男の顔の先に焦点を合わせる。
閉じられた襖に、指をねぶって貫いた小さい穴が開いており、そこから覗く何者かの眼。
「あっ、覗かれてる」
目と目が合う。
多賀一郎、岡本胡蝶十九歳。十一年ぶりの再会。だが、二人とも互いを知らない。
板倉重常に責められる胡蝶は、襖の穴から覗く男の視線を感じる。その男は、一郎だった。十一年ぶりの再会は、最悪の形で訪れた。二人の運命が、再び交錯し、大きく動き出す。
次回:第16話 天国の地獄




