5
その翌日のことだ。
俺を見て逃げる人間を二人見た。
一人は中年の男性。もう一人は女子高生だった。
先輩は相変わらず消息不明。
そして家に帰ると、母が倒れていた。
慌てて救急車を呼んだ。
診断の結果は心臓の発作だそうだ。
命の危険は今のところはないようだ。
しかし母は心臓に問題があったことなど今までなかったのだが。
この三日間で飼い犬が死に、父がひきにげにあい、母が発作で倒れた。
そして俺を見て逃げる見知らぬ人たち。
どう考えても普通ではない。
それはあの廃病院へ行った次の日から始まっているのだ。
いろいろと考えて、次の日は会社を休んだ。
父と母の看病と言うことで。
もちろんそれもあるが、もっと大事なようがある。
少し離れたところに有名なお寺があるのだ。
朝から出かけた。
寺に着き、住職につないでもらった。
出てきた住職は俺を見るなり言った。
「これはこれは、とんでもないものにとりつかれておりますなあ」
言いつつ、住職の顔には警戒と恐怖の色があった。
俺は聞いた。
「やっぱり、幽霊とか悪霊とか、そんなものでしょうか」
「違います。幽霊ではないですね」
「幽霊ではない。それじゃあなんなんですか」
「それはわかりません」
「わからない」
「ええ、わかりません。とても邪悪で恐ろしく強力な力を持っている存在なのはわかりますが、それがなんなのかはさっぱりわからないのです」
「……」
「あなたが大変なのは見ればわかりますが、私ではどうしようもありません」
住職は頭を下げて、奥に引っ込んだ。