三題噺02 「2度と会えない」「幼い頃の思い出」「失恋」
「今日はね、パパとママの小さいときの思い出を聞くって宿題が出たんだ。なにかある?」
団欒を兼ねた夕食の時間、娘がそのようなことを聞いてきた。幼い頃の思い出か……
「あの頃は、俺達も幼いながらの大恋愛をしたよな」
「大恋愛だなんてそんな……」
そう照れるなよ。俺達は小学校の頃から付き合い、そのまま結婚した。なかなかそんな仲の二人もいないだろうということで、皆からはおしどり夫婦だなんてからかわれたりもした。
「中でも一番大変だったのは……」
「待って! ノート取ってくる!」
風のように部屋から飛び出していった。ノートを取ってくる間、俺は当時のことを思い出していた。
「ごめんなさい……」
最初で最後の失恋相手は、将来、いや、今現在俺の妻となっている存在だ。誰にも見つからない校舎に裏に呼び出した。なけなしのお小遣いで買ったおもちゃの指輪を持って告白した俺は、断られたショックで放心状態になった。どこかに潜んで観察していたのか、突然彼女の双子の妹が駆け寄って来て俺達の間に割って入ってきたような覚えがある。
「お姉ちゃん、そんなに気に病まないで。君も、きっと次があるよ」
ピンクの髪留めをしたその子――見分けがつかないので髪留めの色を変えている――は俺達を慰めた。妹の方によしよしされていると、すぐ目の前にあったおでこの傷に気がついた。
「……あれ、お前その傷」
「これはね、お姉ちゃんと喧嘩したときにできたものなの」
こんな双子姉妹でも、喧嘩をするときはとても激しいらしい。今でもなぜかその傷を鮮明に覚えていた。その数日後に妹の葬式があったのは衝撃だった。通学路の途中、不注意で用水に落ちて溺死したそうだ。当時の俺はなんだかわからなかったが、忌引から帰ってきたときのその子は、寂しそうに俯いて顔さえも見れなかった。それからしばらくして、今度は逆に彼女の方から俺に告白してきた。
「あのときは断ってごめんね。でも、きっとあの子も見守ってくれてるはずだから」
振られたと思っていた俺は舞い上がってそのまま付き合い始めた。なんだか不思議な体験をしたな……
「パパ! 持ってきたよ、続き聞かせて!」
娘の声ではっと我に返った。
それから数日後、妻がひどい高熱で倒れた。38℃超えだった。妻が心配だと会社に連絡し、有給を取って看病をした。
「冷えピタ持ってきたから、そのまま横に寝ていろよ」
安静にさせたまま、冷えピタをでおでこを冷まそうと前髪を上げたとき。
「……? どうしたの?」
俺が本当に2度と会えない人だったのは……