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南十字星  作者: AUTHOR
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道標

 人間は争いすぎた。あまりにも愚かで迂愚であった。何度も世界を粉々にし荒廃させた。その度に平和を願い表面で手を取り合ったが、抉られた傷は深く、自分の失ったものと得たものだけを思い、また利益を求めて他を傷つけ世界を絶望に落とした。その繰り返しだ。いつまでたっても。これはそんな世界を変えたいと願った男の話だ。

 アフリカの超貧困国、マラカール共和国の小さな村、ホシュアドルで生まれたアルハダブは天真爛漫な母エルジャシャと威厳のある勇敢な父アルファッフル、無垢な弟のアルマラルのもとで貧しいながらも心豊かに育った。昼はエルジャシャの手伝いをしに川へ行き、水を汲み、ジリジリと肌を刺す太陽の光と喧嘩した。

 アルハダブが育った村は小さな村だったので人も少なかった。その中でアルマラルは弟であり友達であった。アルハダブが行くところにアルマラルも着いていき、アルハダブがすること全部アルマラルも真似した。お互いがお互いを必要とし、二人の絆は親密というありきたりな言葉で言い表すのは失礼なほどだった。

 父アルファッフルは足が悪い。その昔、隣国と戦争になり、徴兵されたアルファッフルは戦地に赴いたが、味方の不手際で敵軍に捕まってしまった。その時に逃げないようにと、左足の脛の辺りに銃弾を一発撃ち込まれてしまったらしい。しかし数十年経ったからだろうか、今、本人は特に気にしてない様子だ。いつも夜は薪を焚べ、アルファッフルと星を数えた。アルファッフルは教えてくれた。

「ほら、あの明るく輝いている四つの星をみてごらん。あれは南十字星といってたくさんの航海者に導きを与えてきた星たちだ。お前が大きくなったらいつか道に迷う時が来るだろう。怖くなって不安になるかもしれない。そんな時はこの日を思い出して南十字星を見上げてみるといい。差し伸べてくれる手がいつもそのにあるのだから。」

 十五歳になったアルハダブはマラカール軍に入隊した。家族との日々を胸に勉学、訓練に励み十八歳で士官学校を卒業した。ちょうどその時ぐらいだったであろうか。隣接するサール国が地下資源を求め、攻め込んできた。もともとこの国とは仲が良くなく、たびたび衝突があり、父アルファッフルが負傷したのもサール国との戦いだ。しかし今回は規模が違う。ある伝来は500両の戦車が攻め込んできたと伝えた。アルハダブが育った村も危ないかもしれない。本当はすごく怖かった。不安で仕方がなかった。しかし、家族を守るため、悪を許さないため、アルハダブは一歩を踏み出す。歩兵小隊の一隊員となったアルハダブは神妙な面持ちで早速戦地に派遣された。

 その日は乾いた日だった。風で流れる砂埃が頬をかすめる。暑いのか寒いのかよくわからない。まわりには二、三十人の仲間たちがその時をまって張り詰めている。奥にはサール国軍だろうか。大きな黒い影が広がる。左腕に巻いたバンダナを強く握りしめた。そのときだった。鈍い音が弾けた瞬間に仲間の一人が殪れた。あまりに一瞬で単調としていた。それを旗切りに両軍がいりみだれた。鉄の塊が空を舞い、耳が弾け飛ぶような音で旋律を奏で、地面がだんだんと淡い赤色に塗られていく。アルハダブは怖かった。不義を許さないという意思はまるでジェンガのように少しの揺れで崩れてしまう。ちょうどさっきまで横にいた仲間がもうここにはいない。ここはそんな世界なのだ。

「突撃ー!!」

上官の声が響く。バックミュージックのせいか、あまりにもその状況と合っていてどこかで見たことあるような光景だ。そんなことを思っていたら、アルハダブの耳元を風に運ばれた砂埃のように銃弾が駆け抜けた。やられる前にやらなければ。そうしてアルハダブは屍を踏み越え、前へ進んだ。東側の川の近くには砲弾でやられたのか、傾いたビルがある。そこに負傷した一人のサール国兵士が逃げていくのをアルハダブは目撃した。そいつを追ってアルハダブもビルへ入るがそこにヤツはいない。2階なのか。そう思って階段を登ると、暗闇の中からドンっと花火のような、しかし美しさのカケラもない音がした。そこには負傷した兵が銃をこちらに構えていた。バンダナが熱い。いや撃たれたのだ。それを理解するまでに、時間がかかった。相手はもう1発を打とうとして引き金をひく。砂で乾いた首筋に、汗が一滴流れる。サール国兵の人差し指が動いた。しかし、まるで映画のような展開だが、もう弾が残っていなかったようだ。かすれた音だけがビルの一室で響きわたる。運がいいのか。まずは、自分の処置をしなければ。アルハダブは応急措置としてバンダナで負傷箇所を強く押さえ、止血した。なぜ自分はこんなにも冷静なのだ。アルハダブは思った。当然撃たれたことなどなかったがいまはそんなことどうでもいい。そして自分がもっている45口径のピストルをサール国兵にむけた。どうやら、敵はかなりの重症らしい。左足の先がない。その他もぼろぼろだ。アルハダブには人を殺した経験が無かった。これが正しい行動だとは思わなかったが、家族と国を守るためだ。やるしかない。引き金は重い。正義の炎が揺れる。何のためにサール国は攻めてきて、どうして人の命を奪うのか。無数の糸で絡まり合ったその亀裂の塊は、まだ十五才のアルハダブには到底理解できるようなものではなかった。二人の静寂を破ったのはサール国兵の方だった。

「今からと言う時に、、、」

今にも掠れそうな声で呟いた。

「何を企んでいる」

「いや、別に何も企んじゃいないさ。もう俺の命はここまでってことだよ、、。」

アルハダブはまだ今なら助かると分かった。リュックの中にも予備の医療キットはある。しかし敵を助かる義理はなかった。

「最後に話をしていいか?」

敵は言った。アルハダブは首を横にはふらなかった。

「5年前、おれは病気にかかった。しかもただの病気じゃない。医者からはもってあと8年と告げられた。絶望した。とてもしんどかったよ。こんなにきついなら死んだ方がマシだと何度も頭をよぎった。でも、それでも、周りの人が支えてくれたから生きることをやめなかった。辛くても生きたんだ。そして奇跡が起こった。原因となっていた腫瘍が小さくなってるってよ。そしてまだ奇跡は終わらなかった。愛する人ができたんだ。子どももできた。今も国では、妻と子どもが首を長くしておれの帰りを待っているよ。でも、このザマだ。おれはお前を殺そうとしたし、別に命乞いはしない。でも、必死に生きて、奇跡を願った日々はなんだったんだろうか。ようやく見えた光はこうもすぐに消えてしまうのか。」

大粒の涙を流しながらサール国兵は語った。アルハダブの胸の奥の炎が完全に鎮火した。同情じゃない。同情じゃない。と思いながら、おもむろに医療キットをとりだした。

「何をしてるんだ。助けて欲しくて言ったわけじゃない。敵軍を助けたとなったら、お前は反逆者になってしまうぞ。」

「助けてあげてる訳じゃない。お前を捕虜にするためだ。これは命令だ。従わなかったらいつでもおれはお前を殺せる。」

一通りの作業がおわった。サール国兵は俯きながら言った。

「ありがとう。おれは奇跡に恵まれている。」


「•••」

 

 アルハダブは無言のまま、背を向け部屋を出ようとした。時が止まったような感覚になった。視覚以外のすべての機能が失ったような、そんな不思議な気分。夢のようで気持ちいいようだが、その酔いがさめてほしくない、いや醒めてはいけないと直感で感じた。速く動きたいけど動けない、そんなもどかしさを覚えながら、それでもそのとき出せる最高の速度で、できるだけ速く振り返った。そこには、黒と白のモノクロの世界に鮮やかな赤い花が咲いてある。生気がない画材に活気のある生き生きとした絵の具で、一輪の綺麗な赤い花。いや、生き生きとしていたと表すべきか。もうそこには希望の光がない。まず戻ったのは聴覚だ。何事もなかったかのように、外では銃撃戦の音がする。次にもどったのは嗅覚だ。焦げた火薬の匂いが鼻をさす。触覚が戻ったのはその後だった。風で流れる砂埃がアルハダブの頬をかすめる。その乾いた頬に生命の潤いを与えるように、雫が垂れる。誰が殺したのか。アルハダブは振り返る。

 

そこにはアルマラルが立っていた。世界は愚かで迂愚で美しい。

 読んでいただきありがとうございました。実を言うと、僕は小説を読んだことがなく本を読むのが苦手です。そのため文章には疎く、上手く繋がらないところもあるかと思いますが、どうぞ温かい目でご精読ください。もし、評価がよろしいようでしたら続編も考えております。

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