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異世界に転生……って言ったかこのじいさん。
ガチでよくわからないことを言いやがるな。
「もういいよ、そんな意味のない嘘までついて。気持ち悪い慰めなんかいらないから。俺はもう死んだんだ。これも何かの夢だろ。それにあいつがいない未来なんて、生きてる価値は……」
「そうしょぼくれるな。お主は過去でも最大級、いや、宇宙スーパー最高級の逸材なのじゃぞ。なんとか話だけでも聞いてくれんか? 実はじゃな、今とある世界がとんでもないことになっておってな」
おい、このじいさん速攻で語り始めたぞ。俺まだ返事してないよね? 耳がないのかな?
「『グランシェリア』という世界なんじゃがの、その世界はいわゆる剣と魔法の交錯する世界で、元々かなり血気盛んな感じはあったんじゃが、最近になり世界の均衡が傾き始めた」
おい、ガチで本格的に語り出しだぞ。俺まだ何も言ってないのに。
「その世界は元はと言えば人間と魔族との派閥争い、陽と陰の衝突をテーマに設計された世界だったんじゃが、最近になり魔族軍が優勢になり始めた。それも魔王と呼ばれる超凶悪な存在が出現したのだ。これまでにも魔王はいた……しかしこれほどまでに強力な個体はいなかった。その魔王はただちにバラバラだった魔族たちを統一し、団結させた。そして人間の領土に侵攻を開始した。人間の中にもそれなりに強い者はおる、しかし魔王の勢いを止められるほどではない。じゃからこのままだと確実に人間陣営は押され、やがて、滅びる……。じゃから、そうなる前に歯止めを利かさねばならぬ――世界情勢の軌道を修正し、再び均一な関係の世界に戻す必要がある。『でも別に魔族だけの世界になってもいいんじゃ……』などと簡単に思うかもしれんが、そういうわけにもいかん。この世界は儂が管理を任されておる。その世界がかつてのコンセプトから大きく逸脱するとなれば……儂の立場がやばい。場合によっては今の役職を追われるかもしれん。じゃからそうなる前に、なんとかする必要があるのじゃ! 神の掟により儂が直接手を加えることはできん。儂は血眼になった。必死に探した。そして見つけた! お主じゃ! お主はかつてこの世界に送り込んだ転生者の誰よりも適正がある! 底しれぬポテンシャルを秘めておるのじゃ! じゃから頼む! どうか、どうか儂のクビのためにも勇者となって世界を救っては貰えんか!?」
気づいた時にはおじいさんは土下座していた。
なんでこんなことになっているのだろう。やばい話もほぼ聞いてなかった。
「訳わかんねぇよ。結局勇者になれみたいな話なのか? なんで一度死んだ俺がそんなことしなくちゃならないんだ。もうほっといてくれ」
「そ、そう云うな。死んだままじゃと、本当に死んだままになるのじゃぞ? 意識も何もない、本当に存在ごとすべて消え去る。今お主がここにおるのも、儂が最後の最後で魂をつなぎとめて呼び寄せとるだけじゃ。手放せばすぐに輪廻に回され消滅する。やられたままで悔しくないのか?」
「だったら地球に返してくれよ」
「無理じゃ。同一の魂が再び同じ世界に転生することはできん決まりじゃ」
はぁ、マジで呆れたわ。
「じゃあもういい、俺は闇の中で日向ぼっこでもしてるよ」
「闇の中ではできんじゃろう。ほ、ほら、異世界じゃぞ? お主の世界でいうファンタジーの世界じゃ。地球にはおらん色んな生物や、食べ物なんかもある。興味もそそられるじゃろう」
「興味ないとはいえんが、あいつのいない世界で生きる意味もない」
「そ、それじゃ! その友人の仇をとらず死んでいいのか!? お主が転生しすごい偉業を成し遂げる。それを友人への贈り物にしてはどうかの!」
「あいつへの贈り物ッ!?」
その考えはなかったかもしれん……確かに俺が死ねばあいつの記憶は全部なくなる。思い出が消えてしまうんだ。それをすっかり失念していた。あいつは元の世界で危篤状態になってしまった。もしかしたらもう……でも、だからこそ俺が覚えていたい。これはむしろ奇跡に近いチャンスだろ。少なくとも俺の記憶の中であいつを活躍させ、ヒーローにさせるんだ!
「そうじゃ! 贈り物じゃ!」
「じいさん、俺は大事なものを忘れていたかもしれない。ネガティブになってたって仕方がないよな。俺がくよくよすることをあいつが臨んでいるわけがない」
「うむうむ、そうじゃ贈り物じゃぞ。魔王を討伐し、人間を絶滅の危機から救い、再び安寧をもたらす。それはお主じゃ。頼めるか?」
おじいさんは期待の眼差しで尋ねてくる。
そうだな、俺が頑張らないとな。正直神様やら異世界やら半分くらい意味がわかってないけど、とにかくあいつの分まで、生きる! 俺があいつがすごいってことを、とにかく証明するんだ!
「ああ、暴れてやるぜ。すべてを崩壊させてやるぜ。こっぱみじんにな」
「その意気じゃ! ほう……なんとかなったか……おほん、じゃがくれぐれも暴れすぎぬようにな。あくまでも討伐対象は魔王じゃぞ。まさかとんでもないようなことはしでかすんでないぞ」
「当たり前だろ。誰だと思ってる。俺を信じろ。世界を救うのは俺さ!」
そうして俺はなんやかんやで異世界に転生することになった。
あーあ、なんでこんなことになっちゃったんだろうな。
そもそも本当に転生とかできるのかもよくわからないが、とにかくやるしかない!
異世界で大暴れしてやる!




