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「あー、何か良いこと起きないかなー」


 高校の帰り道。

 俺は通学路を歩きながら、空を見上げなんとはなしにひとりごちた。

 俺がひとりごちてしまったのは、それほどまでに人生がつまらないという現れだ。


「まぁ、そう言うなって、生きてれば良いことあるって! そう悲観的になるなよ」


 となりを歩く幾三いくぞうが励ましてくれる。

 優しいな幾三は。

 こいつは俺の大親友で、幼きころから何かとつるんできた腐れ縁の捨て置けないやつだ。


「そうかな。もう今月発売の『まじょまじょおつかれオムライス』も読んじまったし、この後どうやって生きていけばいいか分からないんだよ。それに大学どこ行くかも決まってない」


「グウはそこそこ勉強できるからまだいいだろ、俺なんてな、こないだの期末317人中317位だったんだぜ! どうだ? 控えめに言ってやばいだろ?」


「はは」


 俺は幾三のカミングアウトに苦笑いで返した。

 これが俺の精一杯だった。

 これに深く関わらないようにするには、こうするに他はなかった。


「もういい! こうなったら俺は走るぜ! どこまでも走って、全てを忘れることにするぜ!」


 そう言って幾三は走り出してしまった。


「お、おい幾三、どこ行くんだよ」


「走るんだ! 風に煩悩を振り払って貰うんだ!」


 幾三はそう言って先に突っ走っていってしまう。

 ああ、アホだ、なんであんなのが俺の親友なんだ。


 でも、と俺は思う。

 まぁ全て忘れるってのは悪くないか。

 確かに俺の人生は何もないかもしれない。

 でも生きてる以上、自然を感じることはできる。そうだ、俺は生きてるんだ。重たいことは全部忘れて、俺も走ろう!


「幾三おおおお! 待てよおおおお!!」


 俺も後に続いた。

 気づけば満面の笑みになっている自分がいた。

 ああ、やっぱり走るのは気持ちいい。これ以上に気持ちいことは他にないんじゃないかと思えるほど。



「おりゃおりゃおりゃ、追いついたぜ!」


「おいおいやるじゃねぇかグウ。お前、マジで最高だよ。じゃあ俺も負けるわけにはいかねぇなあ! ほらほらほらほらほらほら!!」



 幾三はそう言ってさらにスピードを上げた。

 やばい、このままだと、引き離される!

 いやだ、それはだめだ、絶対に負けるもんか!



「おりゃあああああああああああ!!」



 俺は根性で追いついた。



「ほらほらほらほらほら!!」


「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃああああ!!」



 そこから俺たちはデットヒートを繰り広げた。

 一進一退の攻防だった。

 そうして二人で交差点に飛び出し、ちょうど来ていたトラックに思いっきり轢かれてしまった。

 最後に見た光景は、赤にともった歩行者用信号だった。

 ああ、アホだなぁ、俺たち。でもこんな人生も……悪く……ない…………











「目覚めよ、少年」


 そんな声が頭に響いた気がした。

 あ、あれ、ここ、どこだ……俺の部屋じゃ、ない……?


 俺はゆっくりと体を起こした。

 そこは白い世界だった。

 白い床が永遠と広がっている。

 上を見上げても、どこまでも突き抜ける白が覆っているだけだった。


「えっと、どこだここは……それにあなたは……」


 そしてこの場に唯一あるもの。

 目の前に一人の老人がいた。

 しわがれていて、間もなく死んでしまいそうな老いぼれだ。




「ようやく目覚めたか。お主が西城具宇さいじょうぐうで間違いないな?」


「は、はぁ」


「儂はあらゆる世界を管理しておる、俗に言う神じゃ。お主のような逸材を見つけるのはだいぶ苦労したぞい」


「逸材? どういうことですか。それに神様なんて、そんなこと信じられるわけない。早く家に返してください」


「それはできぬ相談じゃな。なぜならお主は前世……地球にて死んでしまったからな」


 は? 俺が死んだだって? どこからどう見ても生きてると思うんだが。冗談は見た目だけにしてくれ。


「頭が狂われたのですか? 僕はぴんぴんしていますよ」


「思い出さんか? デカい車にがっつり轢かれておったぞう」


「いやいや……」


 ……やべ、思い出した。そういや俺トラックに轢かれたんだっけ……記憶に嘘はつけない。痛かったなあれ……え? てことは俺本当に死んだのか? マジで?


「思い出したようじゃのう。これで本題に入れるの」


「ちょ、ちょっと待ってください! ちょっとどころではなく待ってください! 幾三は!? 幾三はどうなったんですか!!」


 俺はピカン、と思い出し、間髪入れず尋ねた。


「む? 誰じゃそのふざけた名前のやつは。そんなやつ知らんぞ」


「俺と一緒に轢かれたやつだよ! 確か真横にピタリと並んで走ってたはずだから、俺が死んだんだったらあいつも……もしかして、あいつだけ助かったのか!?」


 一心不乱に俺は叫んだ。


「しゃーないのう。過去を見てみるか…………うむうむ、たしかにお主とほぼ同時に轢かれておるやつがおるな。じゃがそやつは死んではおらん。全身骨折で近くの病院に搬送されておる。ただ危篤状態で意識の回復は絶望的と言われておるな」


「そ、そんな……」


 思わずその場に崩れ落ちてしまう。

 うぅ、そんな……危篤状態なんて……そんなの生きてる状態とはいえないよ。死んでるのと一緒だよ。それにひとおもいに死ねた俺よりももっとたちが悪いかも……


「まぁ友達と別れ離れになって辛い気持ちはわかるが、お主も死んだのじゃ。どっこいどっこいじゃろ」


「くそうッ!」


 俺は地面を殴りつけた。

 まさか、まさかこんな結末が待っていたなんて……幾三だけが最後の希望だったんだ。もうこれじゃあ本当に生きてる価値なんて……


「じゃがそんな友達の無念を晴らすいい機会かもしれんぞ」


 なんか言っているが、今の俺はそれどころじゃない。

 しかし神と名乗る男は続けて言い放った。




「普通であれば死の状態のままじゃったお主を呼び出したのはほかでもない、異世界に転生してほしいからなのじゃ」

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