1話
時は20××年。
一時期は人間の仕事をAIに奪われるなどと騒がれていたが、それは杞憂に終わった。
最大で95%仕事がAIに置き換わることがあったものの、とある発明移行は回復してきた。
今では人間とAIに任される仕事の割合が4対6にまでなっている。
では一体何があったのだろうか。
それは、人間の脳にコンピュータを埋め込むという技術が開発されたからだ。
ちなみにこの技術のことは、過去の偉人になぞらえ超人頭脳と呼ばれている。
いくら人間の方が柔軟的思考に優れていると言っても、AIの暴力的なまでの処理能力の前では敗北せざるを得なかった。
そこで一人の発明家が、人の思考力をそのまま底上げする為のコンピュータを作り出したのだ。
今まで、もうAIに勝つことは不可能とされていた将棋やチェスを始めとする、二人零和有限確定完全情報ゲームでの勝利をきっかけに人類の逆襲劇は始まった。
人間とAIの必要度が半々に近づくにつれて置き換わりは次第に緩やかになり、近年では共存の道を辿っている。
しかしその万能とも思える超人頭脳にも欠点はあった。
人間の脳に対する適性には個人差があるということだ。
適性の最低値はレベル1、最大でレベル12に設定されている。
レベルが高位の者は低位の者に比べてより多くの情報を処理できる。
つまり、レベル1とレベル12の間には到底無視できないほど性能に差があるのだ。
こう見るとレベル1の者は持たざる者のように見えるかもしれない。 確かにその通りだ。
でも、例えレベル1だったとしても、適性がある分まだ良い方だ。
世の中には、ごく稀に全く適性を持たない不適合者という者がいる。
彼らは世界人口の約0.006%の確率で存在する。
不適合者には脳内に超人頭脳を制御するための器官が発達していないため、例えコンピュータを脳に埋め込んだとしても使用することができないのだ。
適合者と不適合者の間には、レベル1とレベル12以上の深い溝がある。
レベルはトレーニング次第で上げることもできるが、不適合者はそもそも制御器官その物が
役割を果たさないためそれも叶わない。
レベル1と不適合者の間ですら、その能力には十倍以上の開きがあるのだ。
その為、彼らは障害者として扱われ支援されることもあれば、侮蔑されることもある。
新山厚志も不適合者の一人だ。
彼も、他の不適合者同様、超人頭脳に適性を持っていない。
そんな彼でも、時にはレベル12をも凌ぐ特技を持っていた。
今では過去の遺物ともされる、端末型のコンピュータの扱いに優れていたことだ。
超人頭脳の普及以降、スマホやパソコンと呼ばれる物は存在意義を示さなくなった。
しかし、新山厚志のような不適合者にとってはこれ以外にコンピュータを扱う術はないのだ。
それでも、彼のような者はごく稀で殆どの不適合者は別の手段をとることが多い。
その話はもう少し後なりそうだ。




