サニー
タラップ駆け下りたらちょこんと座ってたのサニー、僕の恋人幼なじみ。首に揺れてるペンダント夕日に染まってオレンジ色に微笑んでた。
「蟻も殺せなかったマーニーがヤクザになったの。」
「ブルーのキーホルダーは?」
「捨てたって。」
「サニー。人は失っていくばかりで、その後は何も返ってこないんだ。寂しいね。」
「でも私にはあなたがいるわ。」
「うん。でもペパーミントのキャンディが口の中で溶けたら僕はいかなくちゃいけない。今日はおばあさんの誕生日なんだ。」
「ばっかみたい。男の子ってそうやってすぐに嘘をつくのね。」
「サニー。でもこのキャンディ食べてみなよ。ぶっとぶぜ。」
「いやよ。この前は羽のない蝶々が見えたもの。」
「でもそれはすごく暖かいなんだ。冷んやりして優しい。」
「ママの胸の中より?」
「それは神さまに聞いてみなきゃ分からない。」
「どこにいるの?」
「キャンディストア。キャンディストアの二階でいびきかいて寝てる。」
「神さま起こしたら怒らない?」
「怒るかもね。でも大丈夫。叔父さんにもらったエスアンドダブリューでイチコロさ。」
「もし神さまが死んだらあのストロベリーに囲まれた孤児院はどうなるの?」
「時間の隙間に置き去りさ。思いでも何もかも。ジュリー先生のオルガンも聴けなくなる。」
「いやよ。あそこには大切な宝物がたくさんあるの。古ぼけたギターケースに入ったアライグマのお人形。ブルーベリーケーキかたどったレミゼラブルとか書かれた目覚まし時計。パイプオルガンの下に隠してあるトムとジェリーの落書きが消えかけてるシュープリームスのレコード。」
「でもどのレコードにも終わりがくる。ゆっくりと針が上がっていくのを眺めながら、僕達は沈黙に身を委ねる。目を閉じてごらん。そよ風が頬を伝う時、マグカップ片付けながらジョンが言う。去年まではこの辺りに星空が見えた。今見えるのは地平線を走る旅人だけだって。彼はここからさらに旅に出る。ハイウェイの向こうに夜を置いてきたって、月はまた出る。バグパイプ吹いてるめくらの爺さんに会った。彼は言う。誕生日が一年に2回来たっていいじゃないかって。」
「ナンセンス。ナンセンスのかたまりだわ。あなたがいつもつけてる熊のキーホルダーにそっくりよ。」
「ねえサニー。そろそろ夕日が静む。そうするとちょっとだけ青い宇宙が僕と君を包む。その中で僕は君の瞳の中に透明なスケートリンクを見つける。嬉しさは胸の中でいっぱいになって、でもちょっぴり寂しくて、素敵な時間はあっという間に過ぎていく。サニー、好きだよ。美しさは時に残酷に時計の針を進めるから、ギュッと抱きしめていないと砂時計の様にボロボロと崩れていってしまいそうで、だから張り裂けそうな気持ちはいつも駆け足で君の影法師を追う。サニー。僕はもう泣かない。涙は全部乾いた心にあげよう。サニー。愛してる。狂いそうだから、今日は声だけ聞かしておくれ。」
サニーはそれからいなくなった。
ペンダントはモーテルの庭に埋めた。