初心者狩り
対戦を開始しますと電子音声が流れた後、俺達はそれぞれ距離を開けた状態で路地裏にたっていた。どうやら開始直後に攻撃されないように自動で一定距離が開く仕組みのようだ。
俺は改めて目の前に立つステリーとかいうクソ女とそのペットである犬を見る。
クソ女は余裕そうな笑顔を浮かべてセンスを開いて口元を隠している。
どこから何処までもエセマダム感がする女だ。
そんな女を守るように鉱石の体を持った犬。
ぽめちゃんとかいったか、それが立ちふさがっている。
あのぽめちゃんとか言うの見た目、何処かで見たことがあると思ったら前にテレビで見た警察犬としてよく出てくる品種に似てる。
パートナーズオンラインでは面影を残した状態で種族としての特徴が加えられる。それを加味して考えればあれは現実世界ではその品種のペットということだろう。
場合によってはこのクソ女が警察犬のトレーナーだという可能性だって考えられる。そうだった場合、かなりの戦闘能力を持っていると考えていいだろう。現実の段階から戦い慣れをしているならこちらの世界でも高い戦闘能力を持っていることになる。
まぁ、こんな正確の悪い女が警察関係者だとはとても思えないからそれは考えすぎか。
ただ、どちらにしてもぽめちゃんが高い攻撃力と鉱石のような体から来る高い防御力を持つ強敵だということは確かだ。
対応策としては元々のこちらのバトルスタイルであるヒットアンドアウェイ――速さで攪乱するくらいの戦術しか思い浮かばない。
「やるぞ! みぃちゃん!」
「みぃ!」
俺達はともかく攻撃を先に仕掛けることにした。
相手の攻撃を待つよりも常に動き回って攻撃を仕掛けていった方が良い。
みぃちゃんは警戒しながら相手に近づき、俺は設置を行う為に移動を開始する。
「あらあら。何もせずにそのまま突撃なんて。本当に美味しいカモだわぁ~。折角だからあたくしが教えてあげる。パートナーズオンラインのPVPの戦いとはねぇ、技の応酬こそが何よりも肝心なのよぉ」
クソ女はそう言うとセンスをぽめちゃんへとセンスを向けた。
「ぽめちゃん。高速移動よぉ」
「ばう!」
クソ女の言葉と共に重そうな鉱石の肉体を持つぽめちゃんが、みぃちゃん以上のスピードで動き出した。
そしてぽめちゃんはそのままの勢いでみぃちゃんに体当たりを噛まして吹き飛ばす。
「みー!」
「な!? みぃちゃん!?」
あの体であそこまで素早く動けるわけがない。
てことはさっきの高速移動というのが技名で、効果はポケ○ンの電光○火のように高速移動するものだと考えられる。
――素早さによる有利がなくなった。
内心思わず舌打ちしそうになるがそれを我慢してみぃちゃんに指示を出す。
相手が技で来るならこちらも技で対抗するまでだ。
「鬼火だ!」
「みぃ!」
みぃちゃんお周囲に浮かんだ炎の玉がぽめちゃんへと向かう。
「無駄よぉ。ぽめちゃん、金剛力」
「ばう」
炎の玉がぽめちゃんへとぶつかる直前、ぽめちゃんの体の金属が肥大化する。
そしてその肥大化した金属の体は炎の玉を受け止めた。
炎の玉がなくなったそこには軽い焦げ跡しか付いていない。
「あたくしのぽめちゃんにそんな雑魚攻撃が聞くわけないでしょう? ぽめちゃんダイヤモンドクラッシュ!」
「がうがう!」
大したダメージも受けなかったぽめちゃんはそのままの勢いでみぃちゃんに接近した。
そしてダイヤモンドのように変化した牙でみぃちゃんを――
「みぃちゃん!」
「みー! み……」
その牙はみぃちゃんへと突き刺さった。
致命的な一撃を受けてぐったりとするみぃちゃん。
ぽめちゃんは首を振ってそのみぃちゃんを地面に叩きつけるように投げ捨てた。
地面に叩きつけられたみぃちゃんは倒れたまま起き上がれない。
俺はみぃちゃんを守るためにみぃちゃんとぽめちゃんの間に移動する。
「プレイヤー相手に見え見えの設置が役に立つと思って? 筋力増強、ダイアモンドクラッシュ!」
「ストーンウォール!」
俺はぽめちゃんとみぃちゃんの間に壁を生み出す。
だがしかしその壁はぽめちゃんの牙によって容易く打ち壊された。
「な……!?」
そしてぽめちゃんはプレイヤーである俺の体をそのまま通り抜ける。
振り返った俺が見たのは爪を突き立てられ消えゆくみぃちゃんの姿だった。
「そ、そんな。みぃちゃん」
「おほほほほほほほほほほ! どうやらあたくし達の勝ちのようねぇ。 おほほほほほほほほほほ!」
耳障りなクソ女の高笑いが響く。
WINステリーと記載されたウィンドウがポップし、周囲の戦闘状態が解除された。
負けた……。
その事実が重く俺にのしかかる。
「ではやくそく通りに改名して貰おうかしら。さあ、早くここで改名しなさい!」
こちらを見下ろし煽るようにいうクソ女。
俺はメニューウィンドウを表示し、みぃちゃんの名前をみぃに打ち直した。
「そのボタンを押すのよぉ。無様な敗北者! 下民!」
「くそ……」
俺は名前変更を了承するボタンを押下した。
「おほほほほほほ! いいわいいわ! その顔! この瞬間はやっぱり最高だわ! 貴方のような雑魚を倒してあたくしのぽめちゃんの優秀さが証明されるこの瞬間は! おほほほほほ!」
何度も何度も勝ち誇るようにクソ女は高笑いを続けた。
「なんや、えらい楽しそうやな」
だがそれに水を指すように一人の男が路地裏へと入ってきた。
狐を連れた糸目の優男。それをみた瞬間クソ女の顔色が変わる。
「神楽坂……! なんでこんなところに。ま、まあ、いいわ。満足したからあたくしはもう上がりますわ」
そう言って逃げるように立ち去っていくクソ女。
だが俺に取ってそんなことはもうどうでもいい。
俺は近くで落ち込んだように俯くみぃちゃんを抱きしめた。
「ごめん。ごめんな。みぃちゃ……みぃ。俺が弱かったからお前をこんな目に合わせてしまった」
「みぃ……」
それは違うよと言わんばかりに体をこちらへと擦り付けてくるみぃちゃん。
俺達のそんな様子を見ていた神楽坂と呼ばれた男はあちゃーという顔をした。
「もうあのマダムステリーと戦った後やったか。すまん。これは全部ワイの責任や」
「……どういうことだ?」
「あのステリーとかいう女はな、マダムステリーという初心者狩りとして有名な女なんや。きっとギルドでワイがあんさんのことを初心者やと言うてしもうたから、あんさんに目を付けてしまったんやと思う。ワイの配慮不足やった」
そう言って神楽坂は再度すまんと申し訳なさそうに頭を下げた。
「いやいいですよ。クエストボード前の俺の動きは初心者丸出しだったし、たぶん神楽坂さんが初心者と言わなくても、初心者だって気付かれたと思います」
「せやけど」
「それに悪いって言うなら初心者狩りなんてするアイツの方でしょ。なんでこのゲームでそんなことを……別に得られるものなんてそうあるわけでもないのに」
俺は悔しさで思わず拳を握りしめる。
神楽坂は俺のその言葉を聞いてその理由を話し始めた。
「恐らく優越感を得たいんやろうな。何処にでもおるでああいう手合いは、自分やペットの素晴らしさを他者と比べて他者を貶めることでしか証明出来ない愚か者。あのエセマダムのような見た目もそこから来るものやろうな。本当に金持ちやったらあんなごてごてな成金スタイルにはならんやろ。現実でどんなコンプレックスがあるのかは知らんけど。ともかく他者より優秀に見られたい、自分でそう実感したいと思ってる輩なんや。だから自分が確実に倒せる初心者に狙いを付けて散々いびり倒して楽しんでるんやろ。実際にトッププレイヤーであるワイを見たら直ぐに逃げていったしな」
俺はそこで神楽坂のパートナーである狐に目を向けた。
その尻尾は九本ある。所謂九尾の狐だ。
九尾というのは様々な創作物で強者として描かれる生物でもある。
きっとこのゲームでも優秀な種族なのだろう。
そしてそれを連れている神楽坂がトッププレイヤーであるというのも納得出来る話だ。
「伝え聞くマダムステリーのやり方からして、改名を迫られるとかなんか言われてるんやろ? 正直無視してしまってええと思うで、アイツも自分が勝った初心者のことなんか直ぐ忘れるやろうし、約束を破ったところで気付かれへん。もし気になるようだったら代わりにワイがアイツを倒して約束の取り消しを取り付けても構えへんしな」
神楽坂は親切にそう言って提案してくれた。
だが……。俺はその提案に乗るつもりはない。
「いや、いいよ。約束も守るし、神楽坂の手伝いもいらない」
「ええんか?」
「約束を破るのも、神楽坂の手伝いも、自分の負けを認めたようなものだ。――俺はこのまま終わるつもりはない。もう一度戦ってみぃちゃ……みぃの方が素晴らしいと、あのクソ女に土を付けて証明して見せる!」
「なるほど、わかったわ。それならワイは何もしないことにするわ」
そう言って神楽坂は満足そうに去って行く。
それを見送ったあと俺はみぃちゃんに語りかけた。
「なあ、みぃちゃ……みぃ。これは俺のわがままだ。だからみぃにお願いする。彼奴らに目のものを見せるために一緒に強くなってくれないか?」
「みぃ!」
もちろんだよとばかりに返答してくれたみぃちゃんを俺は抱き上げた。




