初戦
どこからか草木の臭いが漂ってくる。
俺が目を開けるとそこには壮大な草原が広がっていた。
「お、ここがパートナーズオンラインの舞台か」
「みぃ~!」
みぃちゃんは草原を楽しそうに駆け回る。
それを見て俺はしばらくここに留まろうと考えて近くの岩に座ってウィンドウを開いた。
「街から始まるわけじゃないんだな。……一番近い街まででもそれなりに距離があるな。まあいいか、みぃちゃんも楽しそうだし、自然を堪能しながらゆっくりと向かおう」
みぃちゃんが草原に飽きた頃合いで俺達は街へと進路を向ける。
しばらく歩いていると目の前に三体の角の生えた兎が現れた。
「お、【角付き兎】……どうやら敵みたいだな」
「みぃー!」
威嚇の声をあげるみぃちゃんに怯む事無く三体の兎がみぃちゃんに襲いかかる。
「まず……ストーンウォール!」
俺は直ぐに一体の兎とみぃちゃんの間に壁を作り出す。
一体の兎はそれにより迂回するために時間を取られることになったが、残りの二体はみぃちゃんにその角を突き立てる。
「み!」
みぃちゃんはそれをジャンプして躱した。
――だがそれは兎の距離だった。
みぃちゃんがいた場所に着地した兎は直ぐにみぃちゃんに向かって角を突き立てるように飛び立つ。空中で逃げ場がないみぃちゃんはそれに突き刺された。
「み”!?」
「みぃちゃん!? クソ! 兎を蹴り飛ばせ!」
みぃちゃんが自分に張り付いている兎を蹴り飛ばして突き放す。
地面にみぃちゃんは着地するが周囲の三体の兎から攻撃を受ける状況は変わらない。
大切なみぃちゃんに傷を付けたこのクソ兎共は許せないが、このままじゃ尻損で負けるのが目に見えている。
ヒットアンドアウェイ型のみぃちゃんは一対一ではないとその本領は発揮出来ないのだ。だからこそどうにかして一対一の状況を作り出す必要がある。
しかし現状みぃちゃんと兎たちは密集している。
この状態では設置はみぃちゃんも巻き込むため兎たちの足止めとして機能しないだろう。どうにかして一度距離を取らせなければならない。
そこまで考えたところで俺はふとあることに気付いた。
みぃちゃんは一次種族として猫又になったがその時に何かしらの能力が追加されているかも知れないと。
みぃちゃんのステータスを見てみると特性と技に新しい記述が追加されていることに気付いた。
<妖怪:鬼火などの妖怪系の技の威力を向上させる>
<鬼火:相手を炎上させる炎の玉を放つ>
「鬼火……。これだ! みぃちゃん。MPを気にせず兎共に鬼火を打ちまくれ!」
「みぃ、みぃ!」
「きゅぅ!?」
みぃちゃんは俺の言葉を聞くと周囲に炎の玉を浮き上がらせた。
そしてそれを次々と飛ばしていく、兎たちは炎の玉を警戒して飛び退くがその内の一発が一匹の兎に命中し、兎を炎上させる。
「ぎゅぃー!」
「しめた。これで一匹減った。右側を俺が止める。みぃちゃんは左側に止めを!」
「み!」
炎上した兎はそれを解くために無茶苦茶に暴れまくる。
もはやこちらに構う余裕はないだろう。
俺とみぃちゃんはその間に他の二体を処理するために動き出した。
「ストーンウォール! ついでに沼!」
兎の進行方向に岩の壁を作り、方向転換する先に沼を作って嵌まらせる。
直ぐに抜けられるだろうが問題はない。
みぃちゃんが既に一体の兎をその爪で仕留めていた。
俺は直ぐさまみぃちゃんに命令を出す。
「燃えている兎を先に!」
「みぃ」
俺の言葉に従ったみぃちゃんは炎上が解けて一息ついている兎の後ろから急襲し、そののど元を噛み千切る。実際に兎の首が噛み千切られるわけではないがその部位がやられたというダメージ表現が行われ兎は光の粒子となった。
そして最後に残った兎を筋力増強で強化した爪による一撃で倒し、俺達のパートナーズオンラインでの初戦が終わった。
ぴこんと電子音と共にステータスウィンドウが表示される。
どうやらみぃちゃんのレベルが1つ上がったらしい。
だが変わったのはステータスが少し向上したくらいだ。
「レベルは上がったけど、技や特性も覚えなかったし、ステータスもあんまり上がってないな。これは良い種族にならないと劇的な変化はしないってことなのか」
「み~」
俺の方に乗ってステータスを覗き込んでいるみぃちゃんも何処と無く気落ちしたような雰囲気で鳴く。
これと似たようなモンスターを育てるゲームなどを踏まえると、やはり重要なのは5の倍数ごとに行われる種族進化であり、より良い種族に付けることで能力は飛躍的に上がっていくのだろうなと思う。
チュートリアルがかわらずの石を使って進化を止めるのは進めないと言っていたが、正しくその通りだ。基本的にどんどん種族を上げていった方が良い。
かわらずの石はどちらかというと縛りプレイなどをするプレイヤー用にあるのだろう。
「妖怪って特性も、鬼火って技も、明らかに妖怪系な種族である猫又に付随しているものだしな。てか種族が変わったらこの特性と技どうなるんだ? 使用不能になるのか?」
「みぃ~?」
どうだろう~と言わんばかりに可愛らしく小首を傾げるみぃちゃん。
俺はその頭を思わず撫でる。
「ま、いっかともかく街に向かおう」
「みぃ!」
強くなるための考察なんてわざわざしなくてもいい。
俺はみぃちゃんがやりたいように自由にさせるだけだ。
そんなことを思いながら俺達は街に向かった。