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過去回想 -トラウマ-


 ――あれは俺が高校二年生の時の話だ。

 当時の俺には出来たばかりの彼女がいた。


 初めての彼女ということもあって俺は大分浮かれていたが、しっかりと彼女の事は愛していたし、彼女が不満を感じないように様々な努力を続けていた。

 

 だからこそ俺は彼女のことを信頼していた。

 彼女もまた自分を愛してくれているだろうと。

 ……あの言葉を聞くまでは。


 その日の俺は彼女とのデートがなくなって暇になったので街をぶらぶらと散策していた。


 お腹が減ったのでファミレスに入ってご飯を食べていると見知った声が衝立の向こうから聞こえてくることに気付いた。


 それは俺の彼女の声だった。

 彼女は彼女の友達数人と共に昼食を楽しんでいるようだった。


 今日は急に祖父母の家に行くことになって帰省するから会えないと言っていたはずなのに何でこんな所で友人と食事をしているんだ?

 俺はそんなことを疑問に思い、つい衝立の向こうの会話に耳を傾けた。


 「で、【美加みか】その後の調子はどうなの?」

 「マジ最悪って感じ。ちょーつまんないんだもん。今日だってさ、祖父ちゃんのとこに行くってアイツの約束ドタキャンしてやったわ」

 「さっすが美加! わるだねぇ~」

 「んでしょう。あ、そうだ私に断られた時のアイツの顔、こっそり取ってたんだけど見る? この間抜け面笑えるでしょ」

 「確かに~。目の前で餌取り上げられた犬みたいな顔してる~」


 わいわいと楽しそうに話す彼女とその友人。

 俺はその話を聞いて思わず絶句してしまった。


 彼女は俺に嘘をついてデートの約束を断ったのだ。

 しかもそれだけではない。

 俺の陰口を話の種にして友達と盛り上がっていた。


 「でしょ? ほんとにどんだけ期待してたんだて感じ。それにこいつ、この間はさ――」


 そこから先も彼女は嘲笑いながら俺の悪口を続けた。

 それも心底楽しそうに貶し、辱め、馬鹿にする。

 だからこそ俺はそれが彼女の本心であることを理解せざるおえなかった。


 自分を愛していると信頼していた彼女の裏切りに俺は打ちひしがれた。

 だが何とかそれを飲み干して前を向こうとした。

 恋が冷めるなんてよくある話だから、いつの間にか彼女は俺のことを嫌いになってしまったんだと思った。


 そして次の日、俺は彼女から振られることを覚悟していた。

 あれだけ俺のことをぼろくそに言っていたのだから恋はもう冷めている。

 なら当然この関係を終わらせに来るだろうと考えていた。


 だが彼女はいつもと変わらない笑顔で当然のように俺の恋人として接してきた。

 それは本当にいつもと変わらない違和感すら感じさせないものだった。


 俺は気味が悪くて仕方なかった。

 あんなにも俺を貶していたのに、それを全く見せずに彼女を続け、あれやこれやと要望を言ってくる。とても同じ人間とは思えなかった。


 彼女の完璧な擬態は俺にある疑問を湧かせた――一体いつからこうなんだろうと。

 つい最近こうなったのか、もっと前か、それとも初めから愛なんてなかった……?


 俺は彼女を問い詰めた。

 自分の心の中でそれの疑問を留めておけるほど俺は強くなかったのだ。


 「あ~あ。ばれちゃたんだ~」


 問い詰められた彼女は軽い調子で笑った。

 ちょっとした悪戯がばれたときのような朗らかな笑顔だ。


 「ま、ちょうどいいか。私もいい加減面倒くさくなってきた所だし」

 「め、面倒くさくなった? 何だよそれ!」

 「何って、いまさら何その言葉。うけるんだけど」

 「真面目に答えろよ!」

 「私に命令? あーうざ」


 そう言って彼女は機嫌を悪くしたように顔をしかめると、何かを思いついたのか邪悪な笑みを浮かべた、


 「……いいわ、じゃあはっきりと言ってあげる。私に告白してきた対して興味もないダサい男と付き合って、それをネタにして遊ぶのが面倒くさくなったって言ってるの」

 「告白してきた興味もないダサい男……? 俺に対して好意があるから付き合ってくれたんじゃないのか? 最初から愛なんてなかったのか?」

 「愛、愛とかほんとに笑える! マジで最後に特大のネタじゃん! そんなのあるわけないでしょ!」

 「そんな……!? 俺はあれだけ君のことを思って、色々尽くしてきたんだぞ!」

 「色々尽くしてきた? ああ私があんたに買わせた物のことを言ってる? あれは返さないよ。だってあれは正統な対価だもん! あんたみたいなのと付き合って恋人をやってあげた対価」


 理解できない。なんだ此奴はこれが本当に人間なのか?

 目の前が真っ暗になっていくのを感じる。

 心の中がぐちゃぐちゃになって言葉が出てこない。


 俺が何も言葉を返さずに黙っていると、それを興味なさそうに見ていた彼女は時計に視線を向けた。


 「あ! カラオケの時間に遅れちゃう! それじゃあ、さ、よ、う、な、ら、武君」


 そう言って走り去っていた彼女。

 俺は呆然とその姿を見送ることしか出来なかった。


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