ペットと挑むVR
VR物だと脳波を読み取ってアバターを動かすとかありますが、それなら人間だけじゃなくて動物でもいけるんじゃないと思って書いた作品になります。
突っ込み所はたたあると思いますが軽く流してくれると助かります。
とある日の昼頃、俺は同期で親友の【真桐啓介】に呼び出され昼食を共にすることになった。
お互いに料理を注文し終えると俺は目の前の啓介に向かって話しかける。
「んで啓介。今日は一体何のようだ?」
「ああ、お前にいい話があってさ、それを紹介に来たんだよ」
「いい話? 胡散臭い文句だな。変な話だったら帰るぞ」
友人知人からいい話と持ちかけられた話の地雷率は高い。宗教の勧誘や悪徳セールそういった友情の弱みにつけ込んだ強引な誘いはこの人間社会ではありふれたことだ。
「おいおい。俺は友達相手にそんなことをするほど薄情な男じゃないって。今回のだってちゃんとしたものだよ」
「なら何なんだその話ってのは」
長い間友人をやっているからそう言う奴ではないという事は知っている。
だから俺はさっさと本題に入れと啓介に促した。
「【武】。お前最近VRやってる?」
「はぁ? いきなり何だよ」
だが啓介から還ってきたのは質問だった。
それもVRについての話だ。
VR――所謂仮想現実を指すその言葉はここ最近になって至る所で聞かれるようになった。
それもそのはずだ【セカンド】と呼ばれる企業が数年前にフルダイブ型VR機器を発明して以降、どのゲーム会社も我先にと様々なVRMMOを開発してきた。
そしてそれらの仮想現実は様々な大衆を魅了し、VRMMOは一大ムーブメントとして脚光を浴びているのだ。
今の世の中、老若男女様々な人々がVRを楽しんでいる。
VRをしない人間なんて殆どいないだろう。
――もっとも俺はその殆どいない人の一人だが。
「やってない。俺には【みぃちゃん】がいるからな。それをほっぽいて意識を手放すVRなんかやるわけないだろ」
そう俺にはVRをやらない理由がある。
それは大切な飼い猫のみぃちゃんのためだ。
実家を出て一人暮らしをしているためフルダイブ型VRをプレイして仮想現実に意識を持って行かれるとみぃちゃんを一匹現実世界に残すことになる。
みぃちゃんに寂しい思いをさせることになるし、何より現実世界でみぃちゃんに何かあった時に気付くことが出来ず致命的な事態になるかも知れない。
俺としてはVRとは興味はあるが、大切なみぃちゃんとのひとときを削ってまでやるものではないのだ。
「まあ、そう言うと思ってたよ。だからこそいい話だと思ってこれを持ってきたんだ」
そう言って啓介は一冊の雑誌を取り出してそれを開いて見せた。
雑誌のタイトルはVRライフ。
大のVR好きである啓介が愛読書にしている週刊雑誌だ。
俺は開かれたページに目を向けてそこに書いてある内容を読み出す。
「何々……パートナーズオンライン。何だよありがちなオンライン系のタイトルじゃないか」
「見て欲しいのはその下の見出しだよ」
「見出し? えーと、ペットと挑むVR……? はぁ!? ペットと挑む!?」
俺は思わず声を上げてしまった。
いやだっておかしいだろうという気持ちが湧く。
フルダイブ型VRとは人間が仮想現実を遊ぶための仕組みだ。ペットと一緒にプレイできるようなものではないはずだ。
「何でも技術革新が進んで動物に対しても仮想現実への招待が可能になったらしいぜ」
「いやいやいや、招待して如何するんだよ。普通にペットを愛でるなら現実でやればいいだろ。それともペットと一緒に魔王討伐でもしろってのか?」
「魔王討伐か。そういうのもあるらしいな」
「無理があるだろう! ファンタジーってことは色々現実とは変わるし、やることもある。動物の種にもよるとは思うがそんな高度なことをこなせるとは思えない」
「確かに動物でVRと言われるとそう思うよな。だけどその辺の問題は解決済みだそうだ。ほらここの記述を読んでみろよ」
そう言って啓介が指差したところを見てみる。
なんとも小難しい言葉でつらつらと言葉が並べられている。
「特殊な技術で獣の本能を抑制し、魂の意思を強化することで種の性質の影響を受けない状態にし、そこに常識をインストールすることで人間と遜色ない知能レベルにすることが出来るんだと」
「何だよそのオカルト話……」
「フルダイブ型VRなんてちょっと前まではオカルトそのものだろ? 誰も出来ると思ってなかったものが出来たんだ。同じようなことが起こっても不思議じゃない」
「そういうレベルの話なのか……?」
「嘘だと思うならやってみたらどうだ? そこらのインディーズが出したゲームじゃなくてセカンドが販売しているものだからそれなりに信憑性は高いと思うぞ?」
そう言って啓介は俺に雑誌を渡してきた。
正直言ってそれなりに興味を引かれた俺はその雑誌をバッグにしまう。
「セカンドが販売してるのか、ならとりあえずやるだけやってみる」
「よっしゃ。そうこなくっちゃな! これでやっと武もVRデビューか!」
自分のことのように喜ぶ啓介を見て思わず苦笑してしまう。
「何でお前の方が嬉しそうなんだよ」
「最初に言っただろ? いい話だって。VRゲーム仲間が増える。俺に取ってのいい話だってことだ」
その後やってきた料理を食べながら友人の久しぶりのVR談義を楽しんだ。
☆☆☆
「ただいま~」
「みぃ~」
「っと」
俺は玄関の扉を開けると同時に飛び出してきた愛猫のみぃちゃんを受け止める。
すりすりと腕の中ですり寄ってくるみぃちゃんを撫でながら部屋へと入った。
みぃちゃんを拾う前までは誰も出迎えてくれない寂しい家だった。
だけど今の俺にはこんなに喜んで出迎えてくれるみぃちゃんがいる。
だからこそ俺はこの愛猫を大切にしなければならないと強く思うのだ。
俺は床にみぃちゃんを降ろすと今日買ってきたレジ袋から物を取り出した。
それは人用のVR端末と猫用のVR端末が入った箱だ。
「確かゲームはダウンロードで購入だからこれだけあれば良いんだよな。後は啓介が説明した通りにセッティングするか」
「みぃ?」
不思議そうに箱を叩くみぃちゃんの姿に癒やされながら俺は一通りの設定を終えてみぃちゃんを持ち上げた。
「なあ、みぃちゃん。みぃちゃんはVRやってみたいか?」
「みぃ!」
俺の問いにみぃちゃんは元気よく返事をするが思わず苦笑してしまう。
「ってVRが何か分からないか。勝手にやらせるというのはあんまり気分がよくないけど許してくれよなみぃちゃん」
そう言って俺はみぃちゃんにVR端末を取り付けた。
――正直言ってわざわざみぃちゃんに無理矢理VRをプレイさせるのかという思いがないわけではない。でもマンションの部屋で狭い思いをしているみぃちゃんに偽物とはいえ広大な自然の世界を見せてやりたいという思いがその気持ちを上回ったのだ。
先にみぃちゃんのVR端末のスイッチを押して仮想世界へと旅立たせる。
俺も直ぐ後を追うように頭に端末を付けてスイッチを押した。