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主人の心、従者知らず  作者: 只野 藤吉
9/26

お昼休み


 鐘の音が鳴る。二限分続いた体術の時間も終了し、各々解散となった。


「それじゃ、また三限でな。席も取っとくから」

「うん、ありがとう。いつもごめんね」

「気にすんなって」


 昼食のため、いったんアルバートと離れる。目指すは学食、のまえに。

 くるりとその場で振り返り、ライトのいる特別課程棟へと歩みを進めた。現在レドが学園内で生活しているのは一般教養棟であり、ほとんどの授業がそこで開講されている。そこでは基礎的な知識や学問を身につけることができるため、レドのような主人に仕える学生が多く在籍しているのだ。

 また、その一般教養棟とは別に建っているのが特別課程棟である。主に貴族の家系である学生たちが通い、経済学にはじまる専門的な分野に加え、将来に必要な作法などを学ぶ場になっている。

 そして一般教養棟のレドがわざわざ特別課程棟に向かう理由はただひとつ。リヒトの言葉を参考にするのなら「ライトのわがまま」であった。

 入学当初、案の定ライトはむすくれた。


「なぜレドと異なるクラスなのか」

「僕とライト様では立場が違うので当然ですよ。専攻する内容も変わってきますって」

「…………」

「しかたがないでしょう。僕もできるかぎりライト様の側におりますから」

「…………」

「ほら、ライト様が委員会などで遅くなっても必ず一緒に帰りますし。もちろん朝が早くても同じです」

「…………」

「ね? ライト様、」

「……………………昼は」

「え? ……ああ、昼食ですね。もちろんお供させて頂きます」

「………………………………そうか」


 正直いまでも抵抗はある。ライト様、昼食こそ友人をつくるチャンスですよ……!

 だがしかし行かないわけにはいかない。なぜかは分からないが、レドが行かないととてつもなく拗ねるのだ。以前昼に用事がはいってしまい、十分ほど迎えに行くのが遅れた日は見られたものではなかった。

 普段からむすっとしている(地顔だろう)が、あの日は比にならないほどに険悪な顔をしていた。ああ、ますます周りから距離を置かれてしまいますよ……。

 そんなわけで、今日も恒例のようにライトの教室へと足早に向かっているのだった。


「あ、」


 階段へと差し掛かったとき。階段そばの掲示板が目についた。掲示物であるポスター用紙の右上が、重量に逆らえずにめくれている。それから掲示板の近くには画鋲が転がっていた。どうやら、これが取れてしまったらしい。台がなくても届きそうではあるが、いけるだろうか。


「でも見つけちゃったしなあ」


 誰にともなく呟く。几帳面な性格はこういうとき厄介だ。試しに軽く背伸びをし、「お、案外いけるかも」画鋲を押し込む。

 背伸びの状態で指先に力を入れるのって結構難しい。しばし苦戦をしながらも、なんとか刺さったのを確認する。一応、最後の一押しをしようともう一度力を込めたのが間違いだった。


「っ、わあ、」


 重心がずれてバランスがとれなくなる。そのまま上半身がふわりと傾ぎ、脳内には一瞬のうちに階段を転げ落ちるイメージが浮かんだ。一気に血の気が引く。せめて頭は守らねば。無意識のうちに受け身をとろうとしたとき。



「馬鹿か、おまえ」



 そのまま片腕をひっぱられ、誰かの胸に寄りかかるかたちとなった。この声は、


「ライト、さま、」


 いつもと変わらず無表情の我が主の姿がそこにあった。しっかりとレドを受け止めたあと、軽く全身に目を通し、「どこも捻ってはいないな?」


「……はい、ありがとうございます」

「ちょうど通りかかってみてみれば、おまえが間抜けにも階段から落ちそうになっていたからな」

「申し訳ありません」


 その場で深く頭を下げる。自分の不手際で主人の手を焼くなど、従者にあるまじきことである。レドが己の不甲斐なさに下を向いているとき、目の前のライトは何かを言いたげに顔を歪めていた。


「………………いや、責めているわけでは」

「ライトー、やっと追いついたあー」


 急に、気まずい空気を打ち破るような呑気な声が聞こえる。


「もー、いきなり荷物ほっぽって走りだすからびっくりしちゃったよ」


 壁際からひょっこりと。自身とライトのものと思しき二人分の荷物を両手に抱えた男子学生が、やれやれといった様子で現れた。


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