アルバート
2.
ライトと別れた後、教室に続く廊下を歩く。去年からこの学園に通って一年は経過しているが、いまだに建物の広さに慣れないでいる。きっとまだ知らない教室もたくさんあるのだろう。
「おー、レド、おはよう」
「ああ、アル。おはよう」
後ろから見知った声がかかる。振り返ると、そこにはレドの頭ひとつと半分くらい背の高い男子がいた。
短めの茶色がかった髪は、今日もきらきらと輝いている。彼は小走りでレドにかけ寄り、そのまま隣に並んで歩きはじめた。
太陽が反射して明るい色になっている髪の毛。口元から覗く歯も白く清潔感が感じられる。太めの眉の下にある垂れ目がちの目は常に笑っていて、雰囲気としては清涼飲料水のCMを見ているようだ。
「今日も朝から爽やかだね、アルは」
「? そうか? それを言うならおまえも充分涼しげだぞ」
「涼しげ」
「なんつーか、こう、見てて涼やか」
「なにそれ、わかんないよ」
笑いながら廊下を歩く。
アルバート・ブラウンとは、知り合ってから今年で二年目になる。一年前に入学してはじめてのクラスで、一番最初に話しかけてくれたのがアルバートだった。
今年も運良く同じクラスになり、彼は学園内でかなり親しい部類に入るだろう。
「ほら、おまえの追っかけが黄色い声あげてるぞ」
アルバートはちょっと離れた場所に固まっている女子学生たちを指差した。その動作でより一層歓声の声が高くなる。毎日のことながら、今日もすごいなあ。
「ちがうよ、あれはアルのファンでしょ。僕はあくまでアルの隣にいるおまけ」
「そーかあ? 俺のほうがおまけだと思うけど。 ……っと、そういえば今日の一限体術だろ。着替えたら校庭で合流な」
「オッケー、僕もあとで向かう」
軽く右手をあげ、アルバートは着替えのため体育館へ走っていった。その背中を見送りつつ、レドは足早に逆方向の保健室を目指す。
男子学生として籍を置いているものの、さすがに着替える場所は考えなくてはならない。入学にあたり、レドの事情を知っている学校関係者は数人ほどである。そのため、おおっぴらに不審な動きも許されず、常に油断ができない状態になっていた。
授業の際に必要な着替えは、レドの事情を把握している保健医がいる保健室で。周りの同級生たちには「背中に幼い頃負った醜い傷がある」と嘘を吐かなければならないのが唯一の気がかりであるのだが。
ちなみに、トイレは職員用の共同トイレを利用している。
素早く着替えを済ませ、外へ向かう。保健室から校庭出入口までのロスは結構痛い。今日も間に合いますように。
「失礼します。ありがとうございました」
「じゃあ、また終わったら来るのよ」
「はい」
保健室の戸口で声を掛け、室内の保健医に一礼する。静かにドアを閉め、姿勢を正した。軽く周囲を確認し、…………よし、誰もいない。
廊下に人気がないことをいいことに、レドは颯爽と目的の場所まで駆けていった。