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主人の心、従者知らず  作者: 只野 藤吉
6/26

アルバート


2.


 ライトと別れた後、教室に続く廊下を歩く。去年からこの学園に通って一年は経過しているが、いまだに建物の広さに慣れないでいる。きっとまだ知らない教室もたくさんあるのだろう。




「おー、レド、おはよう」

「ああ、アル。おはよう」


 後ろから見知った声がかかる。振り返ると、そこにはレドの頭ひとつと半分くらい背の高い男子がいた。

 短めの茶色がかった髪は、今日もきらきらと輝いている。彼は小走りでレドにかけ寄り、そのまま隣に並んで歩きはじめた。

 太陽が反射して明るい色になっている髪の毛。口元から覗く歯も白く清潔感が感じられる。太めの眉の下にある垂れ目がちの目は常に笑っていて、雰囲気としては清涼飲料水のCMを見ているようだ。


「今日も朝から爽やかだね、アルは」

「? そうか? それを言うならおまえも充分涼しげだぞ」

「涼しげ」

「なんつーか、こう、見てて涼やか」

「なにそれ、わかんないよ」


 笑いながら廊下を歩く。

 アルバート・ブラウンとは、知り合ってから今年で二年目になる。一年前に入学してはじめてのクラスで、一番最初に話しかけてくれたのがアルバートだった。

 今年も運良く同じクラスになり、彼は学園内でかなり親しい部類に入るだろう。


「ほら、おまえの追っかけが黄色い声あげてるぞ」


 アルバートはちょっと離れた場所に固まっている女子学生たちを指差した。その動作でより一層歓声の声が高くなる。毎日のことながら、今日もすごいなあ。


「ちがうよ、あれはアルのファンでしょ。僕はあくまでアルの隣にいるおまけ」

「そーかあ? 俺のほうがおまけだと思うけど。 ……っと、そういえば今日の一限体術だろ。着替えたら校庭で合流な」

「オッケー、僕もあとで向かう」


 軽く右手をあげ、アルバートは着替えのため体育館へ走っていった。その背中を見送りつつ、レドは足早に逆方向の保健室を目指す。

 男子学生として籍を置いているものの、さすがに着替える場所は考えなくてはならない。入学にあたり、レドの事情を知っている学校関係者は数人ほどである。そのため、おおっぴらに不審な動きも許されず、常に油断ができない状態になっていた。

 授業の際に必要な着替えは、レドの事情を把握している保健医がいる保健室で。周りの同級生たちには「背中に幼い頃負った醜い傷がある」と嘘を吐かなければならないのが唯一の気がかりであるのだが。

 ちなみに、トイレは職員用の共同トイレを利用している。



 素早く着替えを済ませ、外へ向かう。保健室から校庭出入口までのロスは結構痛い。今日も間に合いますように。


「失礼します。ありがとうございました」

「じゃあ、また終わったら来るのよ」

「はい」


 保健室の戸口で声を掛け、室内の保健医に一礼する。静かにドアを閉め、姿勢を正した。軽く周囲を確認し、…………よし、誰もいない。

 廊下に人気がないことをいいことに、レドは颯爽と目的の場所まで駆けていった。


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