アクション 6
最悪だ……。うさぎ乃屋の船に、僕だけ乗せてもらえなくなった。じぃさんに言ってはいけない一言を言ってしまった。「長年の勘より、ハイテクの1秒」。これが逆鱗に触れた。
僕が行けなくなったんで、ジャッキーは超ゴキゲン。リィリィの案内で、ホイと二人うさぎ船に乗船して行った。
船の形はガラス張りの六角柱。先のとがった短いエンピツって感じ。じぃさんは船内の前部に立ち、ジェット噴射口が付いた大きな櫓を操る。後部の大型エンジンは4個も付いている。
うさぎ船は汽笛を上げ、ゆっくりと港を離れていく。宇宙エレベータ周辺のオレンジ色の街へ、微速で進入して行く。
港で惨めに見送っている僕を、あのコ(リィリィ)はどう思ってるだろう。ドジな奴?みっともない奴?それとも、じぃさんを怒らせたひどい奴?はぁ……。
とにかく時間はない!悪い事が起きた時は、それを利用してプラスにするのが僕の主義だ。今のベストな行動パターンは?
……よし。結論は出た。直ぐに実行しよう!
僕はハイエナン・エキスプレスの前にやって来た。そうハイエナ軍団の太陽下りショップだ。まず敵を知らなきゃ始まらない。
店に近づくと、ハイエナ革ジャン軍団がたちまち取り囲んだ。臨戦態勢。おいおい、こんな幼気な少年を殴ろうってかい。
エアロチェアーがタイミング良く(悪く?)甲高い警戒音を発した。同時に自動バリアシステムが作動する。これはチェアー背面からサーベル型ソーラープレートが飛び出し、回転摩擦による静電気シールドが包み込むというもの。ブーンという音が、ハイエナ男たちの顔をみるみる険しくしていく。
まずいって。僕はゴーグル型パソコンに指示を出し、シールドをストップした。音が小さくなる。しかし男たちの緊張状態は止まらない。
でも僕はアイドル。こんな修羅場は芸能界でたくさん経験してきた。今こそ、あれを出すしかない!
「いや~うさぎ乃屋より、こちらの方が大変優れているとお聞きして、僕、こっちに来ちゃいました~」
コマーシャル撮影で磨き上げた、必殺の作り笑いだ。受けてみろ!
「どうか、どうか僕を乗せて下さい」はい、瞳キラキラと。
しかし、予想に反して彼らのプライドは高かった。全く聞く耳を持たない者や、拳を握り続ける者もいる。
思ったほど単純バカではないな、あのジャッキーよりも。……で~は、作戦変更。
「あ、そうか。僕がエアロチェアーだから乗せられないんだぁ。サイドカーだから無理だもんね。なぁんだ、思わぬ弱点発見。差別だ、差別!」
ハイエナ軍団は思わぬ口撃にたじろいだ。よ~し、よしよし。ではダメ押し。
エアロチェアーに録音したさっきの言葉を、大音量で鳴り響かせる。
「エアロチェアーダカラ、ノセラレナイ!サベツ!!サベツ!!!」
「ノセラレナイ!サベツ!!サベツ!!!」
「サベツ!サベツ!!」
ハイエナ男が一人、慌てて僕のチェアーの後ろにまわり込む。
「こっちへ!サイドカーは大型だから、車イスは充分乗れる」
んふ。それでいい作戦成功。どうしても太陽下りは経験しとかなきゃ。映画が撮れないしアイデアも浮かばない。
案内されたサイドカーは、ほかのマシンより倍近くデカかった。それでも僕のエアロチェアーは乗りそうにない。必死で悩んでいるハイエナ男たちが、少し気の毒になった。こいつら極悪人ってわけじゃない様だ。
僕はエアロチェアーをコンパクトに変形させた。ショップのクレーンに吊られ、サイドカーにすっぽり収まった。体のごっついハイエナ軍団が、小さくガッツポーズしている。
座席の上から半球のカプセルが降りて来る。耐熱シールドだね。3cm位の厚みだ。熱はともかく放射線を遮断できるのか?かなり不安。そんな僕の気持ちを察してか、太陽下りの説明が始まった。
「みなさん、こんにちは。この度はハイエナン・エキスプレスに御搭乗、誠にありがとうございます。今日はあの灼熱の太陽に迫り、大迫力のアトラクションをお楽しみ頂きます。まず初めに、太陽の説明から致しましょう」
一通り、太陽の説明があった。でも聞きたいのは、その太陽にどれだけ安全に近づくのかって事。
「目指すのは太陽の黒点です。周りより温度が低く、接近しやすい地点になっています。しかし、そこへ向かうには200万℃のコロナ層を潜るしかありません。そこでハイエナン・エキスプレスでは長年蓄えてきた航海データを基に、低温のコロナの穴を見つけ出すことに成功、そこを通過致します」
なるほど。ムツゴロウじぃさんはその航路が自分たちの先祖の財産と言いたかったわけか。確かに凄い価値の情報だよ。
「……そして黒点に大接近!コンピュータを駆使し、いよいよ太陽下りのスーパースタントの始まりです。惑星より大きな火柱が立ち、火炎が襲い掛かります。しかし安心して下さい。ホバーサイドカーは最先端の技術を駆使して作られています。材質は惑星ヴィーンの岩石から合成されたセラミック。惑星ヴィーンは480℃という鉛も溶ける大気温度。その環境に数億年もさらされ続けた岩石が基になっているのです。更にサイドカーの周りを、陽電子バリアがシャボン玉の様に包んでいます」
その説明に合わせる様に、カプセル外側にプラズマの波が走った。
「なるほど。陽電子を太陽からの放射線に当てて弾き返す原理だ」
「このバリアは熱を遮断するだけでなく、もう一つ、大きな役割があります。太陽の質量は母星エバンスの33万倍もあります。その巨大な重力に引き込まれない様、太陽風の成分である電子に陽電子をぶつけて、反発力を作り出すのです」
「すっげー、超ハイテク!」
「それではたっぷりと、太陽下りを楽しんできてください!帰りの惑星マーキリでは、シャーベットを食べながら、氷の渓谷遊覧が待っています。いってらっしゃい!」
サイドカーのエンジン始動。アクセルを捻る重低音が体に伝わって来る。興奮するなって言う方が無理!
「よーし出発だ!とにかく、もう楽しんでみよう。行けぇー!!」
続く