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エピローグ

 半年後。

月の首都、キャピタル・ラナ。


 横に大きく広がる巨大な光の滝。光粒子が川の様に流れて来る。

 滝壺の位置に華やかなセレモニー・ステージが造られている。

 そしてその前方・ステージ下に、フロート(浮かぶ)テーブルが並ぶゲスト・スペースがあった。

 

広い。100人以上は座れる。すでに数10人の映画俳優がスタッフを引き連れ席で談笑している。

 会場周りには彼らを一目見ようと、映画ファンが世界中から詰めかけていた。


 ドレスアップしてレポートする金髪女性を、テレビカメラが写している。

 会場の雰囲気が、否が応でも気持ちを盛り上げる。

「さぁ今夜いよいよ、モント・カナル映画祭の大賞が決定します!開演間近。ノミネートされた人気俳優たちが、次々に到着しています」


 ファンたちから、歓声が上がる。

 黒くて長~いホバー・リムジンから、美しい女性をエスコートしつつ、50代の俳優が降りてきた。

 マスコミとファンから、激しいフラッシュがたかれる。

 俳優は振り返ると笑顔で手を振り、美女と腕を組んで光粒子の川を歩いて行く。


 次に黒髪が美しい女優が歩いて来た。背中の開いた青いドレスと宝石。タキシードを着た太った映画監督と腕を組んで光りの上を歩いていく。ファンたちがサインをねだり、ホログラムのプレートを差し出した。


 ノミネートされた者たちは皆、大きな白い羽根を一本、背中に付けている。これは招待状と共に贈られてくる名誉あるビッグバード・大鳥の羽根だ(ビッグバードはモント・カナル映画祭の別称にもなっている)。これで何をするかは、あとのお楽しみ!


 僕らは少し離れた紫色のホバー・リムジン(もちろんレンタル!)の中で、これらの中継をテレビで観ていた。対面の座席に座るウィリーさんがニッコリと微笑む。

「今年最大の話題になったね。あの宇宙エレベータでの大暴れ事件。プラスのゴーグルパソコンのWebカメラで撮られた映像がスクープになった。それがあれよあれよとモント・カナル映画祭のノンフィクション映像部門にノミネートされちゃった。まさかここまで考えてたのか、お前?」

「もちろん」

「うそつけ」

「ホントだよーだ」

「まぁいい。さぁ行っておいで。次は君たちが、あのフッラッシュと歓声を浴びる番だ」

「よ~し行こうか……、ジャッキー!!」


 ジャッキーは僕が作ったニューモデルのエアロチェアーに乗っている。培養した心臓の適合が順調に進んだんだ。

 後から分かった事だが、ジャッキーを手術してくれたあの医者は、心臓培養学の大学准教授だったそうだ。たまたま恋人の女医さんを迎えに来ていた時に、ジャッキーが担ぎ込まれたということだ。

 わずかでも時間がズレていたら、ジャッキーは死んでいた。彼の正義の情熱が、偶然を奇蹟に変えたんだ。本当に良かった。ジャッキー、あとはその情熱でリハビリを続けて、元の体に戻していこう。


 彼は慣れない手つきでエアロチェアーを操作し、リムジンのドアを開けた。

 ゆっくりと外へ出る。

 それを待ち構えていたファンから、大歓声が上がった!大量のフラッシュも!!


 彼の姿が光りに飲み込まれている……。

 感謝しろよジャッキー。ギャーじゃなくてキャーって言ってもらえる顔に戻れたのは、ピコメカによる俺のお陰だぜ(本当は病院の先生たちのおかげです)。


 女の子たちからの声援が、いつまでも続いている。

 おかしいね~、元の顔より良くし過ぎたんじゃない??


 そしてやっとやっと、僕の番。僕はもうエアロチェアーには乗っていない。あれからピコメカの設計図をきちんと作り直し、本格的に体内機能の代替システムを作動させていた。

 この研究を将来、人の役に立てたいと思ってる。映画の他にもう一つ、僕の大きな夢ができた。


 光の粒子の上に足を乗せる。

 テレビとは比較にならない生の大歓声が耳に届いた。小さく片手を振ると、大物俳優に負けない位のシャッターの光が僕を照らした!


 女性レポーターがカメラに向かって、ファンの歓声に負けない様に大きな声をあげる。

「エアロチェアーに乗っているのはプラス君ではありません!なんとジャッキー君です!!重傷で意識不明だったジャッキー君が帰ってきましたぁ!笑顔でファンに応えています!心臓は大丈夫な様です。あっ、プラス君が歩いてこちらに向ってきます!プラス君が本当に歩いていますっ!!」


 僕らの後方から白いホバー・リムジンが到着した。

 僕はそれに近づき、長いドアを開けた。ドレスアップした女性が降りて来る。

 一段とすごい歓声とフラッシュ!辺りが真っ白になる!!


 光の中に立つその女性は、リィリィ!

 半年前にブティック・ショップ・ドームで購入したあのドレスをやっと着る時が来た!

 イチゴ型の携帯パソコンも光ってる。

 そしてお預けになっていた特注の靴もちゃんと履いて来ていた。こちらもピッカピカだ。


 良かった……、リィリィ。体はだいぶ回復したね。あれ程の拷問を受けて、体も心もボロボロだった。半年でよくここまで回復できたと思う。僕たちに心配かけまいと、一人でずっとリハビリしてたんだよね。優しくて頑張り屋の君が、本当に大好きだ。死ぬほど心配したんだよ。


 とっても可愛いドレス姿に、女の子のファンからも大歓声だ。


 うさぎ乃屋のムツゴロウじぃさんも誘ったんだけど、絶対恥ずかしいって嫌がっちゃって。お店でお酒飲みながらテレビで観てるって。


 リィリィを真ん中にして、僕とジャッキーはファンに両手を振り、光の川を滝に向かって進んで行った。もちろん3人とも、背中に白い大鳥の羽根を付けている。


 女性レポーターが興奮してカメラに話している。

「リィリィさんのお母さんの病気についてずっと報道されてきましたが、先月治療の為のプロジェクトチームがこちらの次元の医師団によって結成されました。怪獣の血液の人工酸素運搬球、レスピロサークンの研究が進められる事になりました。治療が進めば、お母さんはきっと元気になるはずです」


 リィリィはファン一人一人に丁寧に手を振って応えた。

 僕らは彼女が納得するのを待ち、光の粒子が流れる階段へ振り返った。

 ゲスト・スペースへの大階段だ。


 その時、リィリィが僕の手を握ってきた。

「マジ!?」うぉお、最っ高ぉぉー!!!


 そして彼女はエアロチェアーのジャッキーとも手を繋いだ。

 ジャッキーの奴もメチャクチャ嬉しそう!


 3人で顔を見合い、うなずきながら合図した。

「「「せーのっ!」」」

 

 3人で呼吸を合わせ階段を上る。

 一歩、そして一歩、ゆっくりと上がって行く。


 テーブルとイスが浮かぶスペースまで上がって来た。

 そこには子供の頃からスクリーンで観ていた沢山の憧れの映画俳優たちが、笑顔で座っている。

 僕たちは拍手の中、真ん中のテーブルに向かって進んで行く。


 すぐ手の届くところに、映画スターがいる!

 ボクシング映画の金字塔、ルッティーのシルベスト・スタリオン。

 特殊能力を持つ仲間と共に宇宙の暴君と戦うアクション超大作シリーズの主役、ロベルト・ダーニアJr。

 ウィルス感染によるゾンビ都市で生き残った人々を救う女性主人公を演じた、ミキ・ジョナサン・リッタ。

 他にも僕が絶叫しそうなスーパー・スターが沢山いる。あの有名な宇宙大戦サーガを創り終えたばっかりの宇宙一有名なプロデューサー兼監督のジョルジ・デューカンまで来てる!


「僕はもう死んでもいい……」感無量の意味、はじめて知った。

 しかし、幸せはまだまだ続き、スーパー・スターたちが引っ切り無しに登場した……。


 ……立ったままほとんど気を失っていた僕を、リィリィがテーブルまで連れて来てくれた。

 そこには僕らの名前が浮かんでいる。


 イスに腰を下ろす僕とリィリィ。そしてジャッキーの為のスペースが用意されていた。


 あくまでフェアに!リィリィが真ん中で、僕とジャッキーが左右に一人ずつだ。

 

 正面に流れ落ちる巨大な光の滝に気持ちが溶けていく。眩しいがとても温かい光だ。


 いよいよセレモニーが始まる!

 ドレッドヘアの30代女性MCが左手を大きく上げると、光の滝が左右に割れていく。そこには宇宙エレベータと母星エバンスが見えて来る。


 どおおお、こんなになってんのかぁー!!


 エレベータ外壁の光がエバンスに向かって走っていく。

 MCが体を左右に振って興奮している。

「みなさ~ん!恒例の儀式でーす。用意をお願いしまぁす!」


 100人以上の列席者が全員立ち上がる。

 そして背中に付けた白い羽根を取り外した。

 そして滝があった方に向けて、それを一斉に放り投げた。


 僕ら3人もみんなのマネをして、取り外した大鳥の羽根を思いっきり放り投げた!

「さぁ、(僕の思い)、届け~!」

 

 みんなの前方に浮かぶ大量の大きな羽根が、滝があった場所に吸い寄せられていく。

 そして集まった羽根は白い幕となり、映画を映し出すスクリーンになった。


 MCが一番興奮している。

「モント・カナル大賞受賞者には、賞金として次回作の制作費が与えられます。その額、なんと50億ポイント!さぁ、『静謐なる海・フィルハーモニー管弦楽団』による、大ファンファーレです!皆さん、盛大な拍手をお願いします!」


 今回の映画祭、上映会のトップバッターは、なんと僕らの映像だ!

 ジャッキーにもリィリィにも秘密にしておいた。

「おいプラス!お前知ってたのか!?」

「プラス君、いきなりなんて、私、私……」

「大丈夫!あれだけ頑張ったんだ。ありのままを見てもらうだけ。僕たちに失う物なんてな~んも無い。何を怖がる必要がある!?」

「で、でもな!」

「しっ!!」


 辺りが一気に暗くなり、スクリーンにカウント20が映し出される。

 するとノミネートされたスーパースター、映画スタッフ、そして大観衆の歓声が起こる。指笛も聞こえた。


 僕も手が痛くなるほど大きな拍手をする。


 カウント10! 9、8、7、6!

 カウント5でより一層大きな歓声が湧き立つ!興奮した人々の足踏みで地響きがする!


 カウントを数える皆の声が、今ピタリと重なった!

 

 僕はありったけの大声で、最後のカウント・スリーを叫んだ……。

 

 THE END 

 昨年2019年11月から投稿した本作。いよいよ終了となりました。最後までお読み頂いた皆様、本当にありがとうございました。心より厚く御礼申し上げます。

 本作のオリジナル版を書いたのが2002年。もう18年も前になります。この宇宙エレベータの世界観は広大で、数多くの物語を書いて参りました。プラス以外にもジャッキーやハイエナンが主人公の話。本作では舞台としてさえ登場しない場所の物語(例えば母星エバンスの大地で暮らす幼い兄妹が、見上げる宇宙エレベータへ思いをはせ、旅立つためのエピソードなど)。他にも個人的なお気に入りとして、赤色しか見る事を許されない囚人の都市「デッドベリー・プリズン」の悲話や、太陽下りのある500階・テナント街で巻き起こったドタバタコメディがあります。それ以外にもたくさん。アイデアだけのモノを入れれば正に数えきれない位の舞台とキャラクター、そしてエピソードになります。それらの話もいつか投稿できればと思っております。

 次回作の構想も凡そ出来上がり、準備が整いましたら書き始めさせて頂きます。「山汽 途」という名前を覚えておいて頂ければ、また読んで下さいませ。宜しくお願い致します。それでは、また。

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