アクション 40
病室。
僕とハイエナンは公務執行妨害でポリス・クリニック・カプセルに収容されていた。
僕のケガは思いのほか酷く、透明ゼリーのギプスで全身を固定されていた。
しかしピコメカでエアロチェアーを復活。リィリィのベッドまで遊びに来ていた。
うさぎ乃屋のムツゴロウじぃさんは隣のベッドで点滴を受けているが、元気だ。
ウィリーさんも見舞いに来てくれている。
僕はずっと口を利いていなかったリィリィと話をするのが少し恥ずかしかった。
「リィリィ、あの、体、どう?」
「大丈夫。プラス君こそ、どう?大変そう」
あぁ……良かった。意識もしっかりしてる。少しずつご飯を増やして、早く元気になってくれ。
「ゼリー・ギプスがキツイ。全く動かせないんだ」
「でもなんで指をピースサインで固めてるの?」
「僕の大好きな俳優が、ヤング・ティーチャー師弟出走っていう映画のラストシーンでこうしてたんだ。すっごいアクション映画でね、大ヒットしたんだよ。ジャッキーも大好きな映画なんだ」
「ジャッキー君……」
表情をくもらせた彼女に、ウィリーさんが帽子を脱ぎながら声をかける。
「大丈夫。培養できた心臓は順調に馴染んできてるから。まだ意識は戻りそうにないけど」
「……」
ハイエナンは持ち手以外が光粒子で出来た松葉杖をついていた。部下達を引き連れている。
リィリィにぎこちない励ましの言葉をかけた。
「大丈夫、奴は死なん。俺との決着が付いてないからな。こいつ(プラス)だけだと、勝負にならん」
「上等だよ。お前んとこの社長みたくしてやろかい」
「支社長な!」
ハイエナンの部下たちが、せっかくの良い雰囲気を壊すまいと話に割って入る。
「おぉ支社長、支社長!どうなった?誰か聞いてないか?」
「いや、な~んも知らん」
「俺も。どうなったんだ、あの後?」
その時、栗色の髪のイケメンポリスが病室に入って来た。
ウィリーさんが、また面倒が起きたのかと慌てている。
「ポリスマン!何か御用でしょうか?」
……帽子のつばをニギニギして慌てているウィリーさんを見て暫く楽しんでいたが、ポリスマンがいい加減にしておけと目配せして来た。
じゃ、仕方がない。言うか。
「シルキー兄さん、いらっしゃい」
みんなの驚き様……。顔に「えっ!?」って書いてある。
シルキー兄さんは僕より三歳上。悔しいけど僕より20倍モテる。
彼はスティック新聞を取り出し、それをポキンと折って空間に映像を映し出した。
「ド派手にやってくれたな、悪たれ小僧」
僕らの宇宙エレベータでの大乱闘と「マツストリートぉ!」と絶叫しているシーンが連続で映った。
そして最後にカバ顔のニュースキャスターが「悪徳支社長が死んだ」とニュースを読み上げた。
ハイエナン達が色めき立つ。
「死んだのか!?」
しかしシルキー兄さんは涼しい顔をしている。
「いいや。プラスのいった通りに高圧力カプセルの中に入れたら元に戻った。今は2次元母星エバンスの拘置所に身柄を移したところだ」
僕はエアロチェアーのアームを使い、果物を剥き始めた。
「めでたし、めでたし」
そんな僕をたしなめる様に、シルキー兄さんが顔を近づけてきた。
「めでたい?ほう。宇宙エレベータでの暴走行為の罰金と光のフロアの弁償代。あとは保釈の保証金。……膨大だぞ。マイナスに細工されたお前たちのポイントを復元するよう手配したが、全く足りん。おめでたいのはお前の頭ん中だ」
さすがに皆黙り込んだ。
ムツゴロウじぃさんだけは、リィリィが元気になったのでハツラツとしている。
「みんなで働こうや。リィリィとわしの為に頑張ってくれたんじゃ。恩返しせにゃ」
リィリィもその言葉に続ける。
「うん。私もいっぱい頑張る」
ウィリーさんが寂しげに微笑んだ。
「映画作りは、はかない夢と消えましたか。ハァ……」
ちょっと待った!なにこの寂しい状況。
「みんながこれだけの思いをしたんだ。このプラス様、このままマイナスで終わらせる気は無いね!」
戸惑うみんな。
みてろよぉ……。僕は大きく切った果物を頬張った。
続く(次回、いよいよ最終回!特大のフィナーレです!!お楽しみに~!!!)




