アクション 36
水人形の中にいるサラダ野郎の体が歪み、液体化していく。
それはあっという間に溶け、人形に吸収された。
「野郎は作り物?じゃ本体は人形の方!」
Zanが首を横に振る。
「ちが~う。本当の姿と言ったろぅが」
写真は更に変化していく。水人形が体を抱き、水飴の様に溶けて変形していく。
誰もが息も忘れて見つめる中、空間映像を突き破ってドクター・トッロフィーパの本当の姿が現れた。
透明な液体。巨大な人食いザメの頭部に長大な竜の胴体が繋がった化け物。全長は10mを越えている。体内にサラダ野郎の光る腕がクルクル回って浮かんでいる。発光装置が作動したままだ。
そうか。こいつはリィリィと同じ……、異次元界の怪獣!
僕の横を一瞬ですり抜けた怪獣が、Zanに襲い掛かる。
巨大な口がZanを咥えて翻った。
部屋の中央でとぐろを巻き、ミシミシッと音を立てZanを噛み砕いた。
断末魔の悲鳴を上げるZanの腕が、ダラリと垂れる。
大量の血が、怪獣の透明な顔に滲んでいく。
ポリスたちがレーザーネット銃を構えた。
怪獣はそれをまるで気にせず、Zanを床に吐き捨てテレビカメラに顔を寄せた。
サメヅラが愛想笑いを浮かべる。
「惑星マーズナーの土地を大量に買い占められた企業各社殿。私は姿を変えてまた現れる。太陽のガンマ線の情報は私が持っている。ぜひ、私が戻る日を楽しみにお待ち頂きたい」
怪獣がブンっと音を立て、僕に振り返る。
「太陽の情報をより価値あるものにする為、お前ら太陽下りの船頭たちを、宇宙放送にのせて殺してやる。おいハイエナ!お前の子分も一匹残らずな」
ハイエナンが意識を取り戻し、膝をついて怪獣を睨んでいた。
立場を無視されたポリスが大声をあげる。
「逮捕だ!レーザーネットっ!」
三連弾、レーザーネットが発射された。
しかし、水飴の様な怪獣の体はゆっくりとネットを取り込みすり抜けた。
影あるサメのニヤケ顔。次の瞬間、大きな口が僕に襲い掛った。
怪獣は僕を咥えたまま、なぜか話せる。
「クソガキめ……。わかってるぞ、お前にはもう充分なナノマシンは残っていない。順番に殺してやる。次はハイエナ、そしてカプセルの娘(リィリィの事)は、同郷のよしみだ、最後にトドメを指してやる!」
奴のアゴのチカラでVer.2がきしむ!
下あごのチカラで左わき腹部分が割れた!
僕は咄嗟にヒジのバーニアを全開にして、口のチカラに対抗しようとした。
しかしVer.2が警報を鳴らす。ピコメカの光が、慌てる様に体中を巡る!
噴射口が爆発!だめだ、どうにもできない!
その時、ハイエナンが咥えられた僕の背中に飛びついた。
「ハイエナン!」
「男に抱き着きたかねーが!」
ハイエナンは僕を力いっぱい抱きしめた。
彼の気持ちはすぐに分かった。異次元に飛ばされる前にやろうとしていた事を、もう一度やろうというのだ。
ハイエナンの触れている所から、Ver.2が光り出す。ピコメカにエネルギーが注がれる。間違いなくこの力はハイエナンの精神エネルギー。僕はそれをしっかりと感じ取った。
右手のグローブの先で、サインを描く。
「起こすぞ!科学の奇蹟」
僕はサインをテレビカメラに投げた。
サインはレンズに刺さり、粒子化して吸収されていった。
カメラから強い光のラインが伸び、ホバー・ワンボックスカーに繋がった。
アンテナが光り、他のマスコミ・カーのアンテナも光の線を放った。
マスコミの記者とカメラマン達が興奮しだす。
「モニター見ろ!すごいぞ!」
「光がすごい速さで増幅していく!」
「どんどん加速して、宇宙エレベータに広がっていく」
「衛生カメラの映像を投影するぞ、見ろっ!」
ワンボックスカーのライト部分から部屋の中に映像が映し出される。
無数に枝分かれした光の線が、宇宙エレベータの世界に広がっていく。
別の車からも映像が投影される。
「各都市の映像だ!」
「こっちにも届いた。映すぞ!」
様々な都市に光りが届いていく。
その映像に怪獣がたじろぐ。
「バカな!これだけの量のナノマシンなど、お前は持ってなかったはず。……まさか、あれをやったのか!?」
「そうだ。ナノマシンがナノマシンを作り出す、ファン・T・マー原理!」
光が宇宙エレベータのゴンドラビルの中にも入って行く。
オレンジ色の宇宙空間の街にまで広がっていく。
指を掲げて応援してくれた見覚えのある人たちの顔が映像に映る。
「みんなっ!」
ウィリーさん、ハイエナンの部下たち、ポリスマン、うさぎ乃屋にいるファンたち、ブティック・ショップ・ドームの店員、コマーシャル撮影のスタッフ、エキストラのおばちゃん、ローイー、ホイまで。
そして病院の医師と看護師たち。最後に……、ジャッキーに光りが届いた!
ハイエナンが僕から飛び降り、床に転がり落ちる。
アンテナを通って、精神エネルギーの光が僕の体に戻って来る。
Ver.2が金色に輝く!
怪獣が僕を吐き出す!
「わかってるのかキサマ!ナノマシンの勝手な増殖が引き起こす科学の暴走は止められんぞ!」
「ちがう!科学は情熱だ、正義の情熱なんだ。その心を忘れなければ、科学は絶対脅威にはならない!」
全宇宙エレベータ界が光る。世界中の精神エネルギーがピコメカを伝って僕に流れて来る。ジャッキーの心が、みんなの力を借りてここに来る!僕と一緒に戦うために!!
続く




