アクション 34
ハイエナンが床に降り立つ。
黒の剣を発光し、水人形とサラダ野郎を前に臨戦態勢を取る。
僕はなんとか立ち上がり、カプセルに向かってグローブをかざした。
「リィリィが……。リィリィを助けるんだ」
サラダ野郎が右肩付け根のスティックを捻った。
Oeカカシが音も無く動き出す。
しかし黒い光の閃光が二重、三重に弧を描き、Oeを次々にスライスした。
弧を描いた閃光は床を弾いて翻り、ハイエナンの剣に巻き付いた。
光りのムチは剣と弾き合う独特の音を鳴らす。
ハイエナンの顔に光りが映る。
狙いを定め、水人形にムチを放った。
サラダ野郎が水人形から左腕を突き出し光を掴む。
青い光と黒い光が激しい音を立てて弾け合う!
閃光が散る!
ハイエナンはひるまず間合いを詰め、剣先で奴の顔面を狙った。
奴は右のコブシを突き出し剣先を殴る。
またも黒と青がぶつかり合う!
衝突した光粒子は互いの質量を削り合い、消滅していく!
二人とも攻撃をやめようとしない。
互いに突きのチカラを強めていった。
サラダ野郎の右コブシが剣の柄に迫る。
ハイエナンは光を最後まで押し切った。
剣柄が爆発!
ハイエナンはバック転によりダメージを免れたが、サラダ野郎の右腕は吹き飛んだ。
しかし奴はあくまで冷静な無表情を貫く。そして、左手で右肩付け根のスティックを捻った。
Oeカカシが動き出す。
ハイエナンの武器は無い。
Oeが巨大な工具を振りかざし、無音で距離を詰めて来る。
ハイエナンが後退りして僕に近づく。
「こいつらをコントロールしている大元を叩け」
「ダメだ。コンピュータをこれだけ破壊してもOeの機能は失われない。周りの物を壊してもこいつらは止まらない」
サラダ野郎に僕らの会話が聞こえていた。
「破壊か?先程の私のやり方を学習したな」
「冗談じゃない。お前の科学は悲劇。僕の科学は喜劇だ」
体力の回復を図っていた僕。同時にピコメカでVer.2の修復も行っていた。
空間に光りのサインを描く。それを幾つも作り一斉に壁のコンピュータに投げつけた。
コンピュータが動き出し、今までにない色に点滅しだした。
戸惑うサラダ野郎。
「お前、何をした」
「何も。ハイスクールのパソコンでバグを起こしたプログラムをインストールしただけ」
狂いだすOeカカシ。互いに吸収、分裂を繰り返しだした。プレートになる物、球体や角柱になる物。僕の大好きなチョコパフェの形になる物もいた。
安定した形に落ち着こうとOe液体磁石が人間の様に焦っている。
サラダ野郎が光の指でステッィクを掴み、必死に調整しようとしている。
水人形に野郎の焦りが移り、必死の形相になっていく。
よし。うずくまって考えてた作戦が成功。だけど、
「まだOeを復活するつもりか。今まで全部先手を取られてる。今度はこっちが先に……」
「おい。やっこさん、何か企んでるぞ」
サラダ野郎がスティックをいじるのをやめた。
水人形が、ゆっくり微笑む。
一瞬で部屋が真っ暗になった。
奴の光る左腕だけが煌々と輝いている。
しまった!
「奴の狙いはエネルギー供給源の遮断!」
ビル、そして宇宙エレベータとのリンクをブロックされた。
僕は急いでヴィークルに飛び乗った。そしてピコメカのサインを空間に描いた。
それをハンドルに貼り付ける。そして念を込めようと意識を集中した。
ハイエナンが僕の左手首を掴む。
「逃げるぞ!」
「ダメだ!コイツを動かす。精神力をエネルギーに変換する」
「なんだと!?」
僕は精一杯の気持ちを込めて、アクセルを捻った。
ゲージにうっすらと光が灯る。
しかし、エンジンは沈黙したまま。
サラダ野郎はすぐに僕の企みを見抜いた。
「精神力をエネルギー変換してるのか。……ふふ、お前、つくづく大したヤツだよ。私の研究チームに入れ」
僕は奴の言葉を無視し、深呼吸してもう一度念を込めた。
機体が少しだけ光った。
心細く揺れながら、宙に浮かぶ。
「ハイエナン、チカラを貸して。気持ちをアクセルに込めるんだ」
「非科学的な事を言うな」
「科学は情熱なんだ!絶対やれる!」
サラダ野郎は動こうとしない。
「どうしても反抗的だな。……残念だ。今後私の邪魔をせぬよう、異次元へ飛ばす」
ハイエナンが懸命にアクセルに念を込める。しかし、
「ダメだ。どうしていいかわからん!」
水人形の手がヴィークルを掴んだ。
サラダ野郎の光の右腕が復活していく。
「10年前、宇宙エレベータに革命を起こした。『物質を光に近い速さで動かす原理』を応用し、光の38%のスピード輸送を可能にしたのは、この私だぁ!!」
何っ!?
野郎の手が、僕とハイエナンの首を掴み上げた。
勝ち誇った顔を近づけて来る。
「科学者としての次元がまるで違うんだよぉ。いいかぁ、物質を光のスピードに近づければ、こんなことが起こせる!」
首を掴まれた僕とハイエナンの周りが真っ白な光りに包まれる。
次元の扉が開く!
どことも知れない世界が次々に見えては消えて行く。
惑星の環が見える大地が現れた。
光の腕が僕らの体をゴツゴツの大地に高速で擦りつける。圧力がVer.2越しに伝わって来る。血流が止まりそうだ!
両手のグローブのスーパー・ブレード(手の甲のトゲに超音波で振動を起こす)を地面に当てる。
「減速しろ-っ!」
砂埃が立つ。速度は落ちない!ハイエナンは!?
僕がハイエナンを見ようとした瞬間、岩石に背中を打ち付けられた。
一瞬で世界が消える。
次の瞬間、地上の見えない竜巻の中に放り込まれた!
ムラサキ色の稲妻が走る!砂塵の摩擦による静電気だ。
Ver.2の燕尾服の様な2枚の翼が反応!
翼竜の翼の形に変形、更に拡大して風を捉えた。
僕はハイエナンの右手首を掴み、竜巻の中から外側へ大きく旋回。
着地点を探した。
また一瞬で世界が消える。
次の瞬間、海底に引きずり込まれた。
僕らの首を掴んでいる光の腕に、大きな魚が集まって来る。しかしそれは見た事も無い歪でグロテスクな魚たち。
シーラカンスの大群がすぐ先を泳いでいく。
古代の海!?
Ver.2が反応。後頭部から背中を包むプロテクター、半卵型カプセルが上から前方に移動。顔から胸に届く仮面となって、酸素を満たした。
残念ながら首を掴む光の腕は剥がれない。密度の濃い手となってしがみ付いている。
仮面は半透明になり前が見える様に。
暗闇から登場した巻貝の化け物は、5mを越えるデカさだ。
ダイオウイカの触腕の様な2本の触手が、巻き付いて来る。
僕は光のサインでVer.2に指示を出し、翼を螺旋状に両脚に巻いた。
エンドミルの刃に模してドリル・キックを放つ!
発生した無数の泡と回転し、化け貝の巨大な眼球にヒット!
血か体液か、大量の汁を噴き出しながら、化け物は海底深く逃げて行った。
ハイエナンの息が持たない!
僕はピコメカ・サインを海中に描いた。
光の向きを逆転させる!
首を掴む光の手に、サインを貼り付けた。
金色の光がブルーの光に浸透していく。
僕は慌ててハイエナンの体を抱いた。
空間の先へ先へと押しやられていた感覚から、逆に引き寄せられていく感覚へ。
どんどん引っ張られていく!
今まで通って来た異次元世界を逆戻りして通過して行く!
……ついに最初に通った真っ白な空間に戻って来た。
床に落下!
周りを見ると、リィリィのいる研究室に戻って来ていた。
隣のハイエナンが気を失って倒れている。僕はVer.2に守られていたが、彼は生身。当然だ。
水人形とサラダ野郎は、なるで何事も無かったように悠然と佇む。
僕の体(Ver.2)は、ずぶ濡れのままだ。
くそがぁ……。
「お前……。宇宙エレベータを自分が何たらって言ってたな。やっぱり……、お前だな。僕らのポイント(お金)・スティックに細工をしたのは!」
野郎は無反応。面倒くさそうに見下ろしている。
その時、研究室の割れた大窓からホバーエンジンの大音量が響き渡った。マスコミのホバー・ワンボックスカーだ!
ヘッドランプが部屋を照らす。たくさんのカメラの照明も向けられる。ドアからマイクを持った記者とカメラマンたちが大挙乱入して来た。
水人形とサラダ野郎にシャッターが切られる。
記者たちの遠慮ないマイクが、突き付けられる。
「ドクター・トッロフィーパ!あなたが一連の疑惑の事件に関わっている事は事実ですかぁ!?」
「ドクター!先程こちらのプラス君がテレビ中継で言っていた事の説明を!」
「ドクター、お答え下さいっ!」
「ドクター!ドクター、ひと言っ!!」
サラダ野郎の顔が歪む。
「私の研究室に、勝手に入るなーっ!」
溢れんばかりの止めどないフラッシュが、水人形をギラギラと照らした。
続く




