アクション 33
ヴィークルの先端でサラダ野郎の顔面を狙う!
奴は水人形の外に腕を突き出し、両コブシで受け止めた。
大音量の激突!!
ヴィークルの前方には空中で進路を変える為の高圧力エアー噴射機能が働いている。
空気圧と光粒子が摩擦を起こし、プラズマが立つ。
閃光が水人形にも映る。
水人形が大きな手を振りかぶり、僕をヴィークルごと払い飛ばした。
……記憶が無い。
目を開くと、僕は部屋の壁に寄りかかっていた。
ゴーグルパソコンの画面が、衝撃で消えてしまっている。
……息が、吸えない。体が……。肋骨が、折れてる……。
壁には同心円状に大きなヒビが。
僕が激突した跡……?
「ゴーグルパソコン、再起動……」
画面にコンピュータ言語が流れる。
早く……!
床に大きな手の影が見えた。
上だ!
宇宙服version2のセンサーが対物衝撃を感知する。
ヒジとフクラハギのヴァーニアが作動。
水人形の振り落とされた手をかわし、ヴィークルごと翻った。
床を叩いた水人形の腕に波紋が走る。それは全身に行き渡り静かに消えて行った。
サラダ野郎が水人形の中でΨのヒゲを触っている。
水人形が巨大な腕を振り回し、僕を撲殺しようと狙う。
風を切る音が唸る。
僕は呼吸もできないまま必死で宙を逃げるしかない。
野郎は水人形の中で腕を組み、ウンザリな顔をしている。
空振りしたコブシが床や壁を破壊するたび、水人形に波紋が伝っていく。
液体を硬くしたり、柔らかくしたり。まさに自由自在。それだけで奴の科学力の凄さがわかる。僕にはこんな物、作れない。
2本の敵意が延々と襲って来る。
サラダ野郎が水人形の中で深呼吸した。
深呼吸……!?そうか。あの水人形の成分が分かった。ブルバロ・カーボン液。まずい。こいつはエンドレスで疲れない!こっちのスタミナが切れたら、なぶり殺しにされる。
ゴーグルパソコンの画面が突然消えた。
バカ、再起動!
……画面は真っ暗なまま。
ダメだ、完全にシステムダウンした。
水人形が両コブシを組み、大きく天井に振りかぶった。
影が僕を覆う。
僕の全身から脂汗がふき出した。
その時、震える指先がチカチカ光るのが見えた。
これは!?
僕はいつも眼を使って画面に指示を描いていた……。 もしかして!?
空間に指で指示を描いた。
クネクネ曲がった芸能人のサインの様なモノ。
指、そして手がピコメカで輝く。
ピコメカはゴーグルパソコンが壊れた為、僕の指示を受ける為のシステムを自ら考え出したんだ。
これは……
「奇跡だ」
光るピコメカを、床の残骸に投げつけた。
それらが一瞬で粒子化する。
そしてレーザー光弾を連射する機関銃を形成した。異常に大きい三脚付きだ。
水人形の動きが止まる。
三脚から機関銃に向けて、光が上って行く。
「お前にぶっ壊されたこの部屋も、仇を取ってくれって言ってるぞ」
僕は水人形の胸、つまりサラダ野郎の顔面めがけ、機関銃をぶっ放した!
水人形は両手の掌を広げ、凄まじい量の光弾を受け止める。
それは許容量を超え、手も腕もボロボロに引き裂いていく。
サラダ野郎は無表情。しかし水人形の顔が苦悶の表情に変化していく。
効いてる!
「覚悟しろ!この光弾のエネルギー源は宇宙エレベータだ!」
三脚が輝き、床も光り出す。
隣の鏡張りのビルに映るこのビルも光り出す。
そして、道路まで輝きが広がっていく。
僕は無我夢中で機関銃を撃ち続けた。
銃口まで輝きが増していく。
「みてろよぉ。もうすぐお前の衝撃吸収許容範囲を超える!」
奴が左肩の付け根にスティックを突き刺した。
!?
更にそれをエグイくらいに捻る。
カプセルの中に低い音が唸り出す。リィリィに電気ショックが再開された。
高電圧により20本のコードが暴れ狂う。
リィリィの手足が振り乱され、体が水中を舞う。
「っやめろぉー!!!」
サラダ野郎は右の腕の付け根にもスティックを突き刺した。
奥の部屋の暗がりから、宙に浮く黒いカカシが次々と現れた。
そいつらはカプセルとサラダ野郎の前に横並びになっていく。
野郎はまるで無表情。
「太陽でバラバラになった船の部品を覚えているだろう。こいつらはそれと同じ。人型の磁性流体・Oeだ」
30体を越えるカカシが結合して、バリケードを作っていく。
低い捻じれた音が鳴り続ける。
「逃げんなぁーっ!」
機関銃でOeバリケードを撃ち付ける!
連射だ!
連射! 連射!! 連射!!!
少しだけOeの壁に穴が開き出した。
水人形の中で奴がカプセルを指さす。
乱れ舞うリィリィの指先から血がふき出る。
「リィリィー!!!」
僕は空いた穴に飛び込んだ。
上半身が穴に突っ込んだ瞬間、磁性流体が胴を絞めつけた。
手足が宙に浮き、身動きが取れない。
トラップだ!
水人形とヤツが僕の前に歩み寄る。
奴は光の指で、左肩付け根のスティックを摘まみ潰した。
「これでカプセル装置の制御はできなくなった。命綱が切れた。メカを暴走させるのも科学だ。覚えておけ」
部屋中に飛び散った水人形の破片が、宙を舞い床を這い戻って来る。
ほんの10数秒で両手両腕が元通りに復活してしまった。
サラダ野郎が右肩付け根のスティックをまた捻る。
今度は左右の部屋のドアが開き、厚さ20㎝・2m長方形の磁性流体Oeプレートが現れた。
宙に浮かぶそいつらはレトロな工具の形に変形していく。ペンチ、プライヤー、ドリル、トルクレンチ。
Oeカカシの腕がニュ~っと伸び、手を作り出して工具を掴む。
そいつらは全くの無音で僕に迫って来た。
Oeバリケードの胴締めがますますきつくなっていく。また息が吸えない。胸の痛みが辛うじて意識を失わさせない……。
水人形の中で、奴がさっきの機関銃の光弾を一つずつ指で潰していく。
「圧倒的だな。【よき成人になるには、完全なる敗北を早めに経験せよ】なんてな。次は少年向けカウンセリング・ホームページなんて……」
ダメだ……。奴の声が聞こえなくなった……。意識が……。最期に見るのが、こんな奴の顔になるのか……。
奴が水人形の中から、ブルーの光の手を出して来た。
指を突き出し、顔に近づけてくる。
ゴーグルパソコンのレンズが熱で割れた。
フレームも溶けていく。
「リィリィ。ダメだ、ちっくしょう……」
その時、けたたましい爆音が響き、ホバーバイクの影がOeバリケードを突き破った!
黒い個体群が床にゴロゴロと音を立て転がり落ちる。
床に落ちた僕を、影が見下ろす。
「お前なにやってんだ!だらしねーぞっ!」
聞き覚えのある声。僕は必死に上体をそらし、目を凝らした。
この影は?
「相方が泣くぞ、立てぇーっ!!」
「ハイエナン!!!」
続く




