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アクション 31

 僕は、猛スピードで浮上していく超高層エンピツビルに接近した。


 余裕で僕を確保できると思っていたポリスたちの焦る顔が近づいて来る。


 巨大ビルの鋭利な先端が、レーザーネットに突き刺さった!

 ネットは大きく湾曲し抵抗を試みる。しかし、2秒ともたず引き裂かれた。

 

 1本数10mはある赤い電光が、無数に錯乱する。

 悪魔の断末魔の様な捻じれた閃光に、ポリスの大編隊は阿鼻叫喚の様相を呈した。


 しかしビルの風圧はその地獄絵図を一瞬んで吹き飛ばす。

 

 僕は吹き荒れる風の中、ハンドルにしがみついた。

 眼でゴーグルパソコンに設計図を描く。

 

 ゴーグルをハンドルの右手に当てると、手の中からピコメカが輝いた。


 エアロ・ヴィークルの前部に、ピコメカを投げ放つ。

 機体の先端右から変形したパイプが伸び、ビルと連結した。


 上昇による重力は今までの風圧をしのぎ、僕の体にのしかかる。

 なおも登りゆくゴンドラ・ビルは、何事も無かった様な顔をしている。


 二の腕が固まり激痛が高まっても、握力を緩めることはできない。

 超高層ビルは、どこまでもどこまでも僕を連れて上昇して行く。


 ポリスヘリのサイレンはすでに聞こえない。

 ハイスピードを誇るマスコミのホバー・ワンボックスカーたちが、どんどん小さくなっていく。



 節の街を猛スピードで通過する。

  

 薄目を開けて見れば、街は一つずつ全く別の雰囲気。

 逆さの街はハイテク・ロボットが飛び交う生産工場群。背中合わせの街は下町風の古びた家と屋台が並ぶオレンジ色の優しい風景。


 次の街は寺院が逆さに並ぶ世界。僧侶や武道家の服を着た者たちが、宙に浮かんで修行をしている。

 反対側は巨大な滝とジャングル。大木の間に造られた長い渡り廊下とコテージの家々。人が木の上に住み、猛獣が地を歩いている。

 

 一つとして同じ街は無く、現れては消えていく。


 次の街も。その次の街も。止まる様子は無く、あっさりと通過する。

 腕が痺れて石の様に硬くなった。もう感覚なんて無い。



 次の街の光が見えてきた。

 突然ゴンドラ・ビルがスピードダウンしていく。


 しめた!ビルは次の街では止まる!


 僕は右手に顔を寄せ、ゴーグルで触れた。

 ピコメカは手から機体をゆっくりと辿り、パイプを変形させ元に戻した。

 

 分離。


 この階は特別煌びやか。大空港のロビーの様。その後ろの街は金色に輝く大都市だ。

 まさかここから宇宙エレベータの外に出れば、キャピタル・ラナ……。


 停止したゴンドラから、信じられない程の人達があふれ出てきた。

 大歓声!

 全員が僕を見ている。白人、黒人、黄色人種。老若男女を問わず、右手人差し指を上にかざし、まだ上に行けと叫んでいる。


 僕のアイドル魂に火が付いた。

 僕はみんなの気持ちにも応えなきゃいけない!


 宇宙エレベータの先を見上げると、そこはワインレッドに明るいライトがまっすぐ伸びる巨大空間。

 全く人気を感じない。今までと違う雰囲気。このまま天国に続いているかの様だ。


 僕は振り返り街のみんなを見つめて元気をたっぷり吸いこんだ。そして目を閉じ、思い切り無味乾燥な世界に向ってアクセルをひねった。 


 

 ……風を切る音だけが聞こえる。ゴンドラビルのスピードからは遥かに遅い。


 ワインレッドの壁が延々と続いていく。

 巨大なチューブにたった一人だけでいる孤独感。

 さっきまでの大声援がすごく恋しい。

 張り裂けそうな気持ちが全身を圧迫する。

 

 やっと、やっと、やっと、次の節の街の明かりが見えてきた。

 明るいライトの直線が消え、真っ暗なエリアに突入していく。


 逆さの都市はコンクリートの建物群。夜だ。ライトの色は全て赤色。無音の世界。

 暗闇にグネグネとうごめく乗り物。ライトが連なってムカデの様。それが建物の隙間を縫うように進む。


 ここは一体何の街なんだ……。

 薄汚れた大きな看板を見つけた。赤いランプ文字がうっすら点灯している。


「……嘘だろ」


『デッドベリー・プリズン』『エリア 1349』

 ここがあの有名な監獄の街。赤色しか見る事を許されない囚人の都市。

 色々な記事は出ているが、映像・写真は公開されていない。初めて見る。


 コンクリートの建物から家族が見ている。瞬きをせず、4人がじっと僕を見つめている。

「なんでこんなところに、子供が住んでるんだ」

 宇宙エレベータ世界の闇の部分……。

 

 さっきまでたくさんいた応援者はここには一人もいない。


 張り巡らせた網に獲物が掛かるのを待つクモの様な目で僕を見ている。

 まとわりつく視線を振り切る様に、急いで巨大穴に入った。


 ツヤ消しブラックの不思議空間。ここは何度入っても馴染めない。本来大小のエレベータゴンドラのみが行き来する場所。居心地なんて考えられていない。



 巨大ビル群の都市に出た。ここも夜だ。辺りはひっそりと冷たく静まり返っている。


 僕は気持ちを奮い立たせるため、大声で叫んだ。

「マツ・ストリート!マツ・ストリートは!?」

 みんなが口にしていた言葉を大声で叫びながら、大通りを探して飛んだ。


 これまでになくビルが離れて並ぶ道路に出た。

「あった!」

 信号機の下に、『マツ・ストリート』の文字が点滅している。


 見つけたぞ!ついに見つけた。

 だけど嬉しさより、緊張が上回る。夜とはいえ全く人けがない。

 歩道には綺麗な白と青のイルミネーション。しかし、そこを歩いている者はいない。


 孤独感が緊張を煽る。僕は人影を探してアクセルを絞った。


「グヴェン医療食品、グヴェン、グヴェン……」

 呪文を唱える様に繰り返しながら、もう10分以上飛んだ。しかし誰もいない。

 左右の路地に入ってみようかと、迷いが生まれる。


その時、ストリートの彼方に、大理石で作られた一際大きなビルが見えてきた。地上から天辺まで、黒い外壁に白いライトが連なっている。美しいが冷たいイメージの建物だ。

  

 見とれていた僕は、不意に我に返った。ゴーグル画面に点滅するメッセージに、今更気がついた。

 『20階 グヴェン医療食品C.L.D.』という文字が、矢印で大理石ビルを指していた。

 僕の呪文を指示と捉え、検索していたんだ。


 バカだ僕は。でもやっと……、辿り着いた。

 不意にジャッキーとリィリィの顔がよぎる。2人への熱い思いが、不安な気持ちを吹き飛ばす。


 アクセルをゆっくりひねりビルに近付いて行く。


 ゴーグルパソコンから赤外線を発射し、ビルの中を透視した。

 20階はどこだ!?

 

 ……ダメだ。まだ遠い。しかも広すぎる。リィリィを捜し出せない。

 声は?彼女の声の周波数を探す。怪獣である彼女の声質は特殊だ。



 ……キャッチした!わずかだが間違いない、彼女の声だ!

 赤外線で透視。更に拡大。


「いた!リィリィだ!!」

 研究室らしき部屋の中で、大きな胃の形のカプセルに閉じ込められている。

 手足の先に配線が突き刺され、水中に漂っている。

「リィリィ!!!」

 僕はアクセルをひねった。一気にビルへ!20階のグヴェン医療食品C.L.D.へ飛ぶ!


 あの水の濁りはまさか、リィリィの血!?

 赤外線映像を更に拡大して見る。

 大きなスクリーンに『終了まで、3%』の文字。

 リィリィの経験データをダウンロードしてる!

「ふっざけんなぁ!」

 僕はありったけのチカラでアクセルをもう一度ひねった。

 エアロ・ヴィークルのエンジンが赤く燃え上がる。


 研究室。サラダ野郎が水人形の中から腕を出し、カプセルのリィリィに向って銃を構えるのが見えた。

「待てこらっ!やめろーっ!!」 

 アクセル全開!エンジン、バースト‼


 続く

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