アクション 30
僕は宇宙エレベータ内を上昇した。たくさんのマスコミとポリスどもを引き連れて。
次の節の街は逆さだ。パステルカラーの四角の建物が下向きに建っている。段違いに並ぶ美しい塗り壁の家たち。
ここにマツ・ストリートはあるのか?
天上に敷かれた路地をたどって左右にねじ曲がり、大通りを探す。上下逆の街はやはり勝手がつかめない。
何より人が少ない。昼下がりで時間が止まったかの様だ。
その時、子供が3人ホバー・ミニカーで路地から出てきた。
器用にミニカーを運転し、僕の前に集まった。
そして3人は一斉に指を上に突き上げた。
驚く僕が周りを見れば、建物の窓からオジサンやオバサン、お爺ちゃんやお婆ちゃんまで、みんなが顔を出し始め、指を上に突き上げた。
僕に何か叫んでいる。
「マツ・ストリート」
「マツ・ストリート」
そうか!テレビ中継を見てるんだ!
みんな穏やかな表情だが、強い意志を持って指を高く上げている。
僕は街の先に見える宇宙エレベータの巨大な鎖を目標に飛ぶ。
巨大穴の面積は、確か226万8000㎡。宇宙エレベータの巨大ゴンドラ4基がすれ違える広さだ。
エアロ・ヴィークルを天上に向けた。
頭上にポリスはいない。よし!
アクセルをいっぱいひねり、頭上に飛び立った。
マスコミのホバー・ワンボックスカーが追跡して来る。
当然サイレン鳴らして奴等も付いて来る。
おびただしいスポットライトとカメラ、サイレンに追われながら、巨大穴へ侵入する。
節の街の狭間。中は異次元トンネルに入った感じ。ツヤ消しブラックの不思議空間だ。
エアロ・ヴィークルの空気噴射音のみ響く。
そしてすぐに他のホバー・カーとサイレンの音が追って来る。
暗闇の中で、ジャッキーの瀕死の姿が頭に浮かぶ。
次にリィリィの泣き顔が。そしてあの可愛い肉球の手も。一体どんな酷い事をされているか。ちっくしょう……!
僕はもう一度アクセルを思い切りひねった。
明るくなって、一気に街に出た。ここは通常の向きで家が建っている。
白塗りの建物。石畳の道。路面ホバー電車が走る。
道には人、人、人!陽気な人たちが溢れている。半袖半ズボンの男女が家の窓やホバー・カー、電車、ショップから、天に向って指をつきあげていた。
「Oh!マツ・ストリート!」
「アップ、アップ!もっと上に行け!」
「マツ・ストリート、ポン、ポン、ポーン!」
更に道路にたくさんの人があふれ出てくる。集まった人たち全員が、人指し指を掲げている。
追って来たマスコミがその光景を写していく。
今、みんなの指が僕の心と体を上昇させる。
次の街へ飛ぶ!その次の街へも!ノンストップで上がって行く!
街から街へ。応援してくれる人の数がどんどん増えていく。歓声はその何倍も響きわたる!
節の街に入るたび、みんなが教えてくれる。もっと上へ行けと導いてくれる。
「この逆の街でもない!」
僕は狭間に侵入し上昇する。
「次の街は!?」
巨大穴の出口には、待ち伏せするポリスのヘリが200機以上待ち構えていた。
穴を塞ぐ様に赤い閃光のレーザーネットを張り、蜘蛛の巣を作っている。
下を見れば、マスコミの後ろからおびただしい数のポリスヘリがついて来ていた。
いつの間にあんなにたくさん……。ダメだ、回避できない!
思わずアクセルをゆるめた。
その時ポリスの背後、ツヤ消しブラックの空間から、宇宙エレベータのゴンドラが、超巨大な姿を現した!
デカい!
それは月のレンガでできたエンピツ型のビル。全長450mの超高層ビルだ。レトロで上品な唐草模様の外観。7000個の窓からは館内の光がこぼれている。それがセグバイド・テクノチェーンという、強度、軽量、弾性力を兼ね備えた巨大鎖で引き上げられている。
高速で移動するゴンドラビルが僕に追いつく。
たくさんの人たちが窓から手を振っている。そしてスーツ姿のオジサンや、Tシャツを着たギャルたちが指を上に向けて声援を送ってくれている。
金髪の子供たちも大人をまねて、人差し指を上にかざしてピョンピョン飛び跳ねている。
よし!絶対行くぞマツ・ストリート!
「待ってろよ、サラダ野郎!!」
僕は100階建て35万tのビルを引き連れ、頭上に待ち構えるヘリコプター部隊とレーザー光線の巨大網に突っ込んだ!!
続く




