アクション 28
僕はエアロ・ヴィークルに乗って、宇宙エレベータ外壁近くまで来ていた。
たくさんのホバー・ワンボックスカーがついて来る。タイヤの代わりにプロペラが下向きに付いているオープンカーだ。大きなカメラを肩に担いだ記者たちが僕を写している。
僕は翻りマスコミのホバー・カーに接近した。
おびただしいスポットライトが一斉に僕に当てられる!
「ハイエナン・エキスプレスの親会社を教えて!」
一人のカメラマンが、片目をつぶったまま顔にシワを寄せて答えた。
「グヴェン医療食品だ。住所は確か……、マツ・ストリート」
「それ、どこにある?」
「宇宙エレベータ中の街だ。詳しい住所は……」
彼がカメラを降ろし、コンピュータを起動するのを僕は待てなかった。
「エレベータに突っ込む!」
「おい待て!このままエレベータには直接入れない。リンゴ駐車場からホバー・バスで降りて行かなきゃ」
「そんな事、言われなくても知ってる!」
僕は旋回しエレベータへの突入をスタンバイ。マスコミもスクープを狙い、次々に外壁へ近付いて行く。
バスが列をなして入って行く巨大ゲートに狙いを定め、めいっぱいアクセルを吹かした!
大量のマスコミ群を引き連れ、僕は一気にエレベータ内へ侵入する!
大音量の警報が鳴り響いた!
宇宙エレベータは完璧な警備システムに守られた世界。
停止を命令する機械の声が、僕の特徴を繰り返し叫ぶ。
スクープを狙うマスコミのホバー・カーも次々に侵入して来る。
けたたましい警報が、更に鳴り響く。
僕は雑音を振り切る様に、アクセルをひねった!
エレベータの外壁はワイン色だが、中の街はレンガ色だ。
節の街は何百と建設されている。その街の中心には巨大な穴が開いていて、えんぴつ型ビルを模したゴンドラが母星エバンスから往来している。
最初に侵入した街から上昇すると、次の節の街が見えてきた。
逆さに建設された摩天楼の都市群に入って行く。ビルの先端側が床になっている建物から、たくさんの住人たちが驚きの表情で僕を見ている。
巨大穴を通過する。
今度は逆に普通の状態の街が広がっている。しかし、ここは煙突ばかりの古びた工場街だ。
節の街一つ一つに特徴がある。僕も初めて見る街だ。空気もススが混ざり喉が渇く感じだ。
サイレンが聞こえる。
ポリスが追いかけて来た!
太陽電池で動く一人乗りのミニヘリコプターが5機、摩天楼の街から追跡して来た。
プロペラの代わりに大型のソーラープレートが頭上についている。しかもそのプレートは各機の機体番号が模られている。
機体全長は2.5m。コックピットはむき出しでガラスは付いていない。
このダサいポリスたちをまく為、工場の路地に逃げ込んだ。
古いトタン屋根のプレハブ工場が並んでいる。
どこかに逃げ込みたいがエアロ・ヴィークルが馴染める場所がない。しかもマスコミのライトが目立ち、僕の居場所がモロバレだ。
映像が街中のテレビにニュースとして生中継されている。
僕が通行人の頭上を飛ぶと、ブーイングが起こった。ヴィークルを引きづり落とそうと、手を伸ばしてくる奴もいる。
ちくしょう、敵が多い!
逃げ惑ううちに大通りに出た。前方に20機のミニヘリコプターが立ちはだかる。
罠だ!90度反転!小さな通路に入ればそこにもポリス!しかも銃を構えてる!
急ブレーキをかけた瞬間、ポリスのレーザー・ボールが僕の胸に直撃した!
電気に触れた様に痺れがはしる。更に赤いボールは広がりネットに変化した。エアロ・ヴィークルごと僕を包み込む。そして締め付ける。動けばどんどん狭まっていく。
僕は科学を専攻する学生だ。だからこの武器の威力は知っている。でも今の僕にサイエンティストとしての冷静さは無かった。
マスコミが追いついて来る。
レーザー・ネットに惨めに絡む僕に、たくさんのスポットライトが当てられた。
今は眩しい光に向かって叫ぶことしかできない。
「聞いてくれ!惑星マーズナーの膨大な水銀を、太陽のガンマ線で金に変えようと企んでる奴がいる!太陽に詳しい怪獣の女の子を誘拐して、情報を絞り取るつもりだ」
ポリスたちがヘリから降り、近づいて来る。
赤い光のフォトン警棒を出力し、威嚇して振りかぶる。
「騒ぐな!どんどん窮屈になるぞ!」
「僕の親友がそいつ等に拷問されて病院で死にかけてる!女の子もひどい事をされてるはずだ。助けたい!
放せーっ!」
「黙れ。お前何をやってるのかわかってるのか。このまま連行しろ。こいつらマスコミも全員逮捕だ。動くな、お前らぁ!」
僕はレーザー・ネットに抵抗するが、人のチカラでどうにかなるパワーじゃない。
「あんたらポリスがマヌケだから、悪い奴らがこの中継を見て笑ってるんだ!」
憎しみを込めたポリスの足が、僕をうつ伏せにする。更に頭を踏みつけられた。
鉄分の味がするザラザラなホコリが口の中に入って来る。
「ちくっしょう!」
その時、聞き覚えがあるエンジン音が耳に届いた。
ハイエナン!おっしょうさん!
ハイエナンがサイドカーから飛び降りると、あっという間に黒色光のフォトンセイバーでポリスたちを弾き飛ばした。
ハイエナンがセイバーでネットを切ろうとするが受け付けない。
何度やっても弾かれてしまう。
ネットは刺激を受け、僕を絞めつける。
近付くポリスを無視し僕を解放しようとするハイエナンに、左右からレーザー・ボールが撃ち込まれた。
衝撃に膝をつくハイエナンがネットに包まれる。
おっしょうさんまで押し倒される。
僕はこの強いストレスに耐え切れなくなった。
「リィリィに何かあってみろ!アンタらも許さないからなっ!」
「口の減らんガキだ。ポリスへの侮辱罪も付けて、檻にぶち込んでおけ」
マスコミは捕まりつつもカメラを止めない。
ネットが変形して、僕の体を十字に縛り上げていく。
「リィリィは僕にとって、みんなにとって、かけがえのない者なんだ!大好きなあのコを助けたい!!僕はマツ・ストリートに行かなきゃいけないんだぁ!!」
ポリスたちは僕をヘリの機体に引っ掛け、吊るした。
「そのカメラを取り上げろ!まとめて連行だ」
一斉に宙へ浮かぶヘリ部隊。工場街の上空まで垂直に上がった。
そこに、サイドカー軍団が待っていた。ハイエナン・エクスプレスだ!
驚くポリス部隊。ハイエナンの部下達はその隙をついた。
突然の空中戦・大乱闘が始まった。
ポリスの赤色フォトン警棒とフォトン・トンファー対、黄色いフォトン・クロー、フォトン・スピア、フォトン・ブーメラン、フォトン・ヌンチャク、フォトン・アックス、そしてフォトン・チェーンソー。
クォ~という独特の空気を巻き込むようなフォトン・ウェポンの音が空中でぶつかり合う。
ホバー・サイドカーの風を切る音、ヘリのソーラープレートとぶつかり合うフォトンの炸裂音。さながら戦争だ。
煙突を眼下に見下ろす僕は何度もフォトン・ウェポンの刃と接触した。それでもレーザー・ネットはビクともしない。
ネットの穴に指を差し込み、開こうとするが指に激痛が走るだけだ。
ドンッ‼
空中を舞う僕に、正面から飛びついて来たヤツがいる。
「おっしょうさんっ!」
ポリスからどうやって逃げたのか。そのドアップの顔は紛れもなくおっしょうさんだ!
脚でしがみつき、ネットの穴に指を入れ、懸命に左右に開こうとする。
腕は震え、顔も真っ赤に染まっていく。
僕も思わずネットに指を掛ける。
「おっしょうさん。ダメだこいつ、ビクともしない……」
おっしょうさんは額の血管が切れそうだ。
指の皮が裂けて、血がしたたり落ちる。
「リィリィを……」
「おっしょうさん、やめて。手がイカれる」
「わしゃいい……」
「ダメだ!櫓が握れなくなる!放して」
おっしょうさんはありったけのチカラを指に込めた。
「……リィリィーっ!」
「やめろぉー!!!」
ゴーグルパソコンが僕の意思を読み取った。
両手の人差し指にゴーグルに当てると、そこからピコメカが発光した!
両こぶしが金色に輝く!
「フル、パワーッ!!」
ゆっくりとネットが開く!そして千切れた!その瞬間電光が発し、おっしょうさんを感電させた!
僕はとっさにおっしょうさんを掴むが、一瞬で離れてしまった。
「おっしょうさんっ!」
意識を失ったおっしょうさんが、煙突より高い上空から、あっという間に落下していく。
僕は破れたネットからエアロ・ヴィークルを引きづり出し空中へ飛んだ!
時速200㎞で地上に激突すれば、死よりも凄惨な後が待つ。
ダメだ!間に合わない!!
その時、1台のサイドカーが小さくなったおっしょうさんに一直線!すくい取った。
見上げるライダーがサングラスを外した。
彼は僕を初めて太陽下りに連れて行ったハイエナンの部下。おっしょうさんのうさぎ船と進路争いをしてケンカになったあの男だ。
こちらに向ってサムアップしている。
僕は高速で落下しながら、エアロ・ヴィークルにまたがった。
「ありがとう。おっしょうさんを頼む。僕はおっしょうさんの為に、リィリィを助ける為に、ジャッキーの仇を討つ為に……、マツ・ストリートへ行く!」
続く




