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アクション 26

 僕とムツゴロウおっしょうさん、そしてハイエナンは偶然同室のベッドに寝かされていた。

 ボロボロになったエアロ・チェアーが僕の横に置かれている。救助してくれた人が、オイル汚れを綺麗にしてくれていた。


 ハイエナンはたくさんの部下たちに囲まれ、幸せそうだ。誰かが剥いた不細工な果物を美味しそうに食べている。話す声もデカい。

「俺はな、脱出の為にポスト・フレアループ(太陽面爆発が起きた後に発生する半円形になるプロミネンス)を待ってたんだ。みんなも知ってるだろ、XK-19区のやつ」

「4つの渦の中心から噴き立つあれ?」

「そう!そしたらお隣さんがいきなりぶつかって来て、押し売りヒーローになっちまった」


 僕は睨みつけようとしたが、相変わらず首から下が動かない。天井を見て反論した。

「待てこらぁ!瀕死で火炎の海に浮かんでいたくせに。そういえばまだ御礼を聞いてないっ」

「はっきりさせとく。俺は自力で脱出できた」

「いいや、僕が助けた」

「ふざけるな。太陽のド素人が」

「そのド素人に助けられたんだよ、アンタは」

「ふざけるな」

「ありがとうは?」

「あーっ!?」

「あ・り・が・とうは??」


 ハイエナンの部下達がクスクス笑っている。

 みんなの視線が温かい。うさぎ乃屋でケンカした時が嘘のよう。おっしょうさんもハイエナン達と仲良くなれた事が嬉しくて仕方ない様だ。笑い声が聞こえる。


 その時、マネージャーのウィリーさんが扉を突き飛ばして入って来た。

「プラス!ジャッキーが重症で担ぎ込まれた!」

 僕は無理やり顔を横にし、扉の向こうに横切った物体を目撃した。


 ホバー担架に乗せられたそれは、奇異な肉塊だった。

 真っ白になった全体に、黒く変色した血がかかっていた。

 あれがジャッキー!?


 僕はウィリーさんに、エアロ・チェアーに乗せてくれと叫んだ!

 ハイエナン達が先に部屋から飛び出す。

 おっしょうさんはベッドから起き、僕をチェアーに乗せるのを手伝ってくれた。

 

 ボロボロのチェアーは宙に浮いているとはいえ、スムーズに動かず上下に揺れながら進んだ。

 やじ馬たちにどんどん追い抜かれていく。

 更に事件を嗅ぎつけたマスコミ記者たちが、僕を写そうと邪魔をする。


 集中治療室の前はカメラマンとやじ馬で溢れ、壁ができていた。

 たくさんのスポットライトが当てられ、ジャッキーだという物体を撮影していた。


 僕はカメラマンたちをチェアーで突き飛ばした!

 

 チェアーの出力を上げなんとかみんなの目の高さまで浮上。窓から部屋の中を見た。

 ウィリーさんが急いで僕にゴーグルパソコンを装着してくれた。


「ジャッキーッ!!!!!!!!」


 血だらけの胸が黒く焦げ、大穴がえぐれている。

 顔のパーツがどこの部分なのか分からない程、潰れている。


 女性の看護師が治療室に入ろうとドアが開いた。

 僕はその隙をつき部屋に侵入する。

 

 ジャッキーを診ていた男性医師が僕に気付いた。

「そこ、入れさすなっ!時間がない!」


 男女の看護師たちが僕を外に出そうとした。

 僕はエアロ・チェアーの動力を止めて着地。押し出されない様踏ん張った。


 見かねた医師が走って来る。噛み付きそうな形相でエアロチェアーを掴んだ。

「彼の焼け残っているわずかな心臓細胞から、スペア心臓の培養を試みる。こうしてるうちに、細胞がどんどん死滅してる!」


 医師の背後から、女性看護師が叫ぶ。

「心筋運動停止!電気ショック先ですか!?細胞取るの先ですか!?先生っ、指示ください!」

「出ろぉぉっ!!」僕はエアロチェアーごと部屋の外に蹴り飛ばされた。


 廊下に転倒した僕は、床をなめながら僅かなドアの隙間を見つめた。

 ジャッキーが電気ショックで痙攣している。

 医師はジャッキーの体を横にし、背中からもショックを与えた。


 その時、ジャッキーの残った左目が反射的に見開いた。

 あれは!?……涙の痕。

 血まみれの目元にぼんやりと、しかし僕にはハッキリと見えた。

 ジャッキー!

 動かない体に怒りが充満する。細胞が痛みを伴い弾けだす!

「うごけぇ……、からだぁー!!!」

 欲求が爆発し、念力の様な強い思いがゴーグルパソコンへ伝わる。


 チェアーから大量のピコメカが僕の体に照射された。光の毛布が僕を覆い、全身を包み込む。

 それは体内に吸収されていった。

  

 ピコメカが千切れた神経の代わりに全身にくまなく伸びる。

 更に筋肉繊維に広がっていく。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 僕は宣戦布告の雄たけびを上げた。

 ゆっくりと膝をつき、立ち上がる。

「ジャッ、キィィィー……、ジャッキィィーッ!!!」

 

 ウィリーとハイエナンは息も忘れ、呆然としている。


 隣の治療室にはブルドッグ顔の男が、こちらを指さしながら刑事に何かを話していた。

 ゴーグルパソコンが情報を得、この男が通報者だと教える。


 僕は床を踏みしめ、一歩ずつ男に近づいた。

 

 治療している男性看護師を押し退け、男の胸ぐらを両手で掴む。

「教えろ。どんな奴がジャッキーをあんなにした!言え!」

 看護師たちは3人掛かりで僕を引き放そうとする。しかし、光る筋肉は怒りに因って更に硬直した。


 男は青ざめながら、目撃した恐怖を話し始めた。巨大なトレーラーが追突して来た事。その後ジャッキーが拷問を受けた事。

「バカでかい水人形に入った男が、男の子の口を裂いた……。人形が吊るし上げて何10発も殴り続けた……」

 僕は太陽突入の時ハイエナンの交信映像に映った水人形の男を思い出した。

「あのサラダ油男だ」

 男がうつむいて話を続ける。

「男の子が放さないから、人形の男は義手を外して光のコブシで顔を焼いたんだ」

「!!」

「それでも男の子は、連れ去られる女の子を助けようと、水人形の脚を放さなかった」

「女の子!?」

「怪獣の娘だよ。ほら、今話題になっている」

 おっしょうさんが杖を落とした。

 ハイエナンがリィリィ誘拐の意図に気づいた。

「まずい。彼女から太陽下りの経験を盗み取るつもりだ。アイツ(ジャッキー)はそれを阻もうとして!」

 

 僕は思わずジャッキーに振り向いた。

 大量の手術治具が、全身に突き刺されている。

 裂けた口にはおびただしいチューブが差し込まれている。


 ジャッキー……。お前の気持ち、僕が引き継ぐ。頼むから死ぬな。


 ゴーグルパソコンに眼で設計図を描く。しかしバグを繰り返す。眼のスピードに処理能力が追いつかない。

 気持ちを落ち着かせようと、右手の人差し指を立て、ゴーグルの中央に当てた。

 

 指先、そして手に、光が広がっていく。これは!?

 ゴーグルから体内のピコメカに情報が伝わって行く! 


 治療室の窓際に置かれた人型のカプセル装置。おそらく放射線の透過システムだ。

 僕はそれに向かって、ピコメカを右手指先から投げ放った。

 

 光のかかった装置は粒子に崩れ、再構築されていく。


 3秒後、それはタツノオトシゴに似た宙に浮く乗り物、エアロ・ヴィークルに変化した。

 ボディ全体に5ミクロンの穴が開いている。そこからエアーを噴射して宙に浮かんでいる。


 僕はヴィークルにまたがった。

 右手のアクセルを捻る!一気に病院の窓ガラスを突き破り、宇宙エレベータ外の街へ飛び出した!


「待ってろサラダ野郎!絶対に、ブチ殺す!!!」


 続く 

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