アクション 25
宇宙エレベータ、外の街。
ホバー・オープンカー・タクシーの運転手はブルドッグ顔。
それに乗るリィリィとジャッキーはプラスとムツゴロウが搬送された病院ドームに急いでいた。
タクシーの後方遥か上空に浮かび上がる漆黒のホバー・トレーラー。
コックピットの運転席にはドクター・トッロフィーパが座っている。
しかしハンドルやシフトレバーは無く、手の平を乗せて指示を出すプレートがあるだけだ。
助手席には水人形・ウォーター・ゴーレムが無表情に座っている。
トレーラーがオープンカーにゆっくり標準を合わせる。そして時速100㎞まで無音で加速した。
ジャッキーは全く気配に気づかない。リィリィは泣き疲れてジャッキーの肩に寄り添っていた。
ドクターはその小さな幸せをブチ壊す様に、オープンカー後部にトレーラーを激突させた!
轟音と共にオープンカーがちぎれ飛ぶ!
ジャッキーとリィリィはブルドッグ運転手と共に、宇宙空間に放り出された。
トレーラーがエンジンを停止する。
コックピットからウォーター・ゴーレムが先に降り、その中にドクターが潜りこんだ。
ドクターが左腕の付け根にグリーンのスティックを突き刺し、ひねる。
トレーラーの巨大な黒コンテナ側面が揺れ、次々に人型に分離して飛び出して来た。この黒いカカシは磁性流体・Oeだ。
ドクターは一度スティックを引き抜き、少しずれた所に再び突き刺し、ひねる。
カカシ群はリィリィ誘拐に動く。
リィリィは先程の衝撃で体の自由が利かなくなっていた。
隣に浮かぶジャッキーも強烈なムチ打ち状態。
隊列を作り群がるOeカカシ。
ジャッキーは痺れる腕を背中にまわし、ワインレッドの棒を1本取り出した。
力が入らない。両手で握りしめる。
目の前に迫る奇怪な敵の迎撃を試みる。
1体目を払い倒す。しかし次のOeはすぐ目の前に!
2体目、3体目を倒すが、敵はもう順番を待たない!エンドレスで増え続ける!
ドクターはゴーレムの中で、左の義腕を取り外した。腕の付け根から青い光の粒子が放たれる。
それは腕の形に変形していく。熱量で泡が湧き立つ。
ドクターの存在に気付いたジャッキーが、リィリィを逃がすため押し飛ばす。
更に群がり来るOeを薙ぎ倒し、それを蹴ってドクターへ向かって行く。
『プラス!コイツが黒幕だなっ!?』
心で叫んだ彼は仇を討たんと殴り掛った!
しかし、ドクターは動こうとしない。
ジャッキーはありったけのチカラを振り絞り、水人形の中のドクターめがけ棒を振り落とした。
ジャブッ‼
水人形の右肩の中20㎝で止まる。衝撃が波紋になり表面を流れていく。しかし、中のドクターには伝わらない。
動きが止まったジャッキーの棒を、ドクターが光の左手で掴む。
ジャッキーは必死に棒を引き抜こうとチカラを込めるが、動かない。
ドクターがその棒を握りつぶした。
驚愕するジャッキー。フォトンセイバーを受け止める棒が!?
ドクターが破片を観察する。
「これは……?宇宙エレベータの外壁材。このガキ、どこからこんな物を」
ゴーレムが大きな手の平で、ジャッキーを叩き伏せた。
1発KO!頭から流れ出た血が、額に流れ出てくる。
Oeカカシが離れていくリィリィに追いついた。
カカシは変形し、長い帯になってリィリィに巻き付く。そしてそのままトレーラーに引っ張っていく。
リィリィはジャッキーに手を伸ばそうとするが、その腕にまでOeがグルグルと巻き付いていく。もはや口も塞がれ、声も出せない。涙が宇宙空間に浮かび、流れていく。
ジャッキーがゴーレムの左脚にしがみつく。
ドクターは強い不快感を顔ににじませた。
光る左腕を高く掲げる。
トレーラーが重低音クラクションを鳴らした。低音波は生き物の活動神経をマヒさせる。
水人形の表面に大きな波紋が流れる。ドクターはまるで平気だ。しかしジャッキーの体はガクガクと揺れはじめた。
必死にしがみ付くジャッキー。額の血が水人形に溶けていく。
ドクターは捕らえたリィリィを見る。そしてジャッキーを見た。
「お前にとってあの化け物は余程大切なモノらしい。……ゲームだ」
リィリィが頭を残し、トレーラーのコンテナ部分に吸収されていく。
ジャッキーが左腕を伸ばす。血液の粒が宇宙に飛び散る。
ゴーレムの分厚い右手がジャッキーの頭を鷲づかみにする。その手にも大量の血がにじんでいく。
「ルールは、そうだな……、私から手を放したらお前の負けにしよう。あの化け物を連れて行く」
ジャッキーは血だらけの顔で睨み上げた。
ドクターのイライラがどんどん募る。
「純粋なモノしか見た事ありませんって目が、キレイだねぇ」
ドクターはゴーレムから光の左腕を出し、コブシをジャッキーの右目に押し当てた。
リィリィが声にならない悲鳴を上げる!
ジャッキーは歯を食いしばる!声をあげない!ゴーレムの脚を両手で抱きしめる。ジュゥ……という肉の焼ける音がドクターを喜ばす。
「手を放すなよぉ。愛しの化け物が連れてかれるぞぉ」
ジャッキーの腕の血管が破裂し血が噴き出る。
「リィリィ……、をぉ……」
ドクターはおもむろにジャッキーの口めがけ、左拳を突き入れた!
更に奥にねじ込む。
ジャッキーの髪の毛が全て逆立つ!着ている服が裂ける!思わずゴーレムを抱く手が離れた。しかしゴーレムがその腕を逃がさない。
「おいおい、今負けましたじゃ、ゲームは盛り上がらないだろ。楽しんでくれ」
ドクターの左腕が一瞬で肥大した。
バリッ!!ジャッキーの口元の肉が裂けた!!
光の左腕は更に大きくなる!
ゴキッ!!アゴの骨が割れた!!
愉悦に浸るドクター。
「たまんないねぇ、痛そうだぁ。でもね、大人って子供が思うより、残酷なんだぜぇ」
ドクターは残った右腕で、ジャッキーの体を殴りつけた。目、口、鼻から血しぶきが飛ぶ!
「そらぁ!そら!そぅら!気絶なんか、させないぞぉ!」
ゴーレムににじんだ血がドクターの顔を横切る。
楽しみを味わおうと、一発一発チカラを込めて殴り続ける。
「教えてやろう。ここが胃だ!肝臓!脾臓!どうだ、まだ生きてるか!?」
痛みで硬くなるジャッキーの体の部分を、何度も何度も殴り続けた。
……何10発殴ったか。口から光の拳を抜き取った。
焼けただれた舌が黒く変色している。
その顔はグロテスクな肉の塊になっていた。
それでもまだ、拷問は終わらない。顔をゴーレムに持たせてつるし上げ、今度は両こぶしで殴り始めた。
リィリィ、無音の慟哭!大量の涙が宙に浮かぶ。
ジャッキーはうっすら開いた左目でドクターを見た。その目から血涙が流れる。
ドクターはそれを見逃さない。
「おっとぉ、出ました命乞い!」
ドクターは右の義腕も取り外した。
両方の光の腕を伸ばし合体させる。
丸太の様な光の腕を頭上に振りかぶり、ジャッキーの胸に打ち付けた!!
ジャッキーが大量の血を吐く!噴水の様にとめどなく吹き上げる!
更に胸が焼ける!
ガクガク震えるジャッキーの体が、真っ白に変色していく。
10数秒後、動かなくなった。
ドクターはそれをつまらなそうに見入る。そして何事も無かったように、ジャッキーの体を放りやった。
Oeカカシが次々にトレーラーコンテナに融合していく。
ウォーター・ゴーレムから離れたドクターが義腕をつけ、運転席に乗り込んだ。
水人形も助手席にモソモソと頭から乗り込んでいく。
エンジンを掛ける。
発進しようとした時、ジャッキーの体が下方から浮かび上がってきた。
無残……。もはや人と分からない位になった顔面と体。
ドクターは葬送曲に見立て、クラクションを最大音量で鳴らした。
ジャッキーの体に波紋が伝わる。
左の瞳から、再び涙が伝った。
死んだはずのジャッキーが、両手を広げて行く手を阻む。
ドクターは目を見開いた。激しい怒りを留めておけず、操作プレートを叩く!
トレーラーが急発進する。
ドンッ!!
大量の鮮血が、フロントガラスいっぱいに飛び散った!
走り去るトレーラー。
ドクターがゆっくり操作プレートに手をやる。
ワイパーが2回、ゆっくりと動いた。
「実に汚いガキだった」
続く




