アクション 23
プロミネンスはうさぎ船だけじゃなく、クーラー装置にもダメージを与えていたんだ。
最後の1機がどれ程もつか、もうわからない!
3分は無理。じゃ2分?いや1分もたないかも。
室内がどんどん暑くなる。冷静な思考なんてもうできない。
レーダー画面の右から超スピードの影が前方に進んで行く。
「ハイエナンだ!」
窓の外、揺れる炎の中に歪んで見えるサイドカー。機体はドロドロに溶け、溶岩の塊に見える。
コックピットのハイエナンは見えない。
交信を試みた瞬間、うさぎ船船内の壁の配線が次々と弾けだした。クネクネと暴れている様子はまるでヒドラ。クーラーが壊れるより先に、船が大破しそうだ。
サイドカーの上方にまわり込もうと櫓を傾けた。船が上向く。
太陽ガスの急回転が始まった。
僕とハイエナンが離れていく。レーダーが遠ざかる距離を表示する。100m、200m、300m……。
「爆発覚悟!エンジン、全開!」
残っていた下部噴射口が大破!部品が全て吹き飛んだ!
最後のクーラー装置がサイドカーの塊に激突。大破してしまった。その燃える破片Oeが大量にうさぎ船に焦げ付いた。
更にうさぎ船も塊に突っ込んだ。
船体が真っ赤に燃え上がる。
ゴーグルパソコンに指示をインプットしようとするが、目がかすんでパソコンが受け付けない。
何度もリピートして指示を求めてくる。
僕は痛みが走るほど眼球を動かし、指示を繰り返した。
限界だ。これが最後……。
ゴーグルパソコンが、指示を受け付けたと音を発した。
ピコメカ……、発射。
光がハイエナンの所へ流れていく。
しかしサイドカーの塊上でピコメカがバグを起こし、グズグズとうごめくだけになった。
うさぎ船がグラグラと大きく縦揺れを始めた。
静電気で作られた磁力が宇宙エレベータに辿り着いたんだ。
「やばい!吊り上げられる。頼む、ピコメカ……。ハイエナンを」
ピコメカのバグが解け、正常な動きを取り戻した。
サイドカー塊の上部を変形。うさぎ船の前方下部に同化させた。その瞬間、強力な磁力がうさぎ船に作用した!
驚くべき速度で太陽の中なら吊り上げられる!弾丸となるうさぎ船!
太陽の重力圏から飛び出す速度はマッハ30を超えた。
船は火炎の渦に逆らって突き進む。船の耐熱限界を越えているが、もうどうにもできない!
閃光が眼球に刺さる。痛みが脳に突き刺さる。
船が分厚い炎の壁を突き破るたび、Gがバズーカ砲の様に僕を撃ち付けた。
船内に亀裂が走る。ガラスの内面にヒビが入り出した。
でも、僕は絶対目を閉じない!
「ハイエナンを助ける!僕はスーパーアイドルになるんだ!!」
大きな火炎竜の腹を突き破り脱出!
うさぎ船に焦げ付いたクーラー装置の破片Oeが燃え尽き、磁力からも解放された。
凄まじい熱と圧力は、ピコメカの動きも止めていた。
ハイエナンのサイドカー塊が、うさぎ船から分離する。
血だらけの窓から、ハイエナンの顔を見る事ができた。気を失っている。
うさぎ乃屋のジャッキーへ通信する。
「帰ったぞ、ジャッキー。ハイエナンの奴、意識も無い中でずっと脱出のタイミングを計ってた。プロミネンスの渦に乗るつもりだったんだ。僕とおっしょうさんを助けた後、自力で太陽を克服しようとしてたんだ……。おい、聞こえてんだろ。僕はこいつを助けてしまったぞ」
「コノヤロー、……心配させやがって。リィリィがな、そいつを早く手当てしてほしいそうだ」
「OK!すぐそっちに連れて帰る」
モニター画面から、大勢のファンたちの歓声が聞こえてきた。
ハイエナンの部下達がサイドカーを飛ばし、駆け付けて来る。
救助艇も汽笛を上げて、迎えにやって来る。
みんな凄い興奮ぶりだ。
良かった……。ギリギリの灼熱の中で、僕は自分に負けなかった。僕の科学力で友達を助けられた。みんなの期待に応える事ができた。
「チャーリーさん……。僕のオーディション、合格ですか?」
続く




