アクション 21
ガスの回転が速くなる程、電波が届かない深度にはまっていく。
船体に炎が巻き付く音が大きくなる。まさに蛇に飲み込まれたカエルの心境だ。
自分が何をすべきか、わからなくなっていく。
太陽に着く前に考えていたシミュレーションを必死に思い出そうとした時、警報が鳴りだした。
うさぎ船のコンピュータにアクセス。
異常に強い電磁波が、太陽の外からラッビターⅡに繋がっている事が分かった。
「電磁波!?……そうか。オーイーとか言ってたのは磁性流体の事か!ラッビターの黒い部品……、磁性流体で作った物にすり替えたんだ。電磁波でOe部品の形状を維持していたのなら、太陽の磁場に入った途端コントロールが効かなくなる。……とんでもない時限爆弾だ!」
ラッビターⅡを沈没させたトリックを突き止めたぞ。けどその電磁波のせいで、うさぎ船もうまくコントロールできない。どんどん太陽の深みにはまっていく。
「電磁波はどっから来てる?」
発信源を調べると、ゴーグルパソコンはすぐに答えを突き止めた。
「宇宙エレベータの先端?」
この磁力線をたどれば、ラッビターを追跡できるかも。
プロミネンスの火炎竜がうさぎ船を突き上げる。
きりもみ状態の船体をガス渦が掴み、逆に引きづり降ろす。エアロ・チェアーのアームが砕け、僕はチェアーごと床に叩き付けられた。
もう、だめか……。
諦めかけた時、レーダーの中心にいきなり船の影が表示された。逆流のガスに押し上げられたラッビターⅡが突然目の前に現れ、うさぎ船に激突した!
壁に打ち付けられる僕。チェアーがいびつに曲がってしまった。
何とかムツゴロウの様子を見ようとアームを操ろうとしたが、動かない。
窓と壁が内側に湾曲した。圧力か、熱の為か?
ジャッキーとリィリィの顔が頭に浮かぶ。
もうどうにもできない。
「ちくしょう、……ちくしょう!!」
その時レーザー光線の黒い鎖が、うさぎ船とラッビターⅡに巻き付いた!
炎の中から現れたのはハイエナンのサイドカーだ。
僕は急いで交信を試みる。ゴーグルパソコンのアンテナがめいっぱい伸びる。
「ハイエナ!なんのつもりだ!?」
ハイエナンのマシンが大きく振動し、エンジンを吹かす。
僕らを引き上げるつもりか!?振動がうさぎ船に伝わって来る。
「無理だ!ガスは中心に引かれてる。サイドカーの出力じゃかなわない。離脱しろ!」
太陽が気まぐれを起こす。巨大な銀色の炎が大回転を始めた。ガスの渦とは逆回転だ。天体の動きは計算できない。3機のマシンが無抵抗に引きずられる。
3機はゆっくり回転する中で、何度も衝突した。
サイドカーが小さい分、ハイエナンが強い衝撃を受けている事が想像できる。
うさぎ船から見た限りでも、何度もむち打ち気味に首が前に倒れていた。
サイドカーが僕たちの船よりも太陽側へまわり込む。
ハイエナンから絞る様な声で通信が入る。
「聞け……。合図をしたら、ジェット噴射を俺にぶつけろ。俺は……、お前たちに吹き付ける」
「バカヤロー。そんなことしたら、お前は太陽の中心に一直線だ。1600万℃だぞ!そんなバイクがもつもんか!?」
「そっちがやらんでも、こっちはやる」
「お前が僕らの犠牲になる必要はない」
「ウチの親会社がじぃさんの船に細工をした。俺も社員として責任がある。出世を夢見てした事、……いや、俺は、卑怯な事をしたんだ」
「自分のウデと才覚で店を盛り上げたんだろ。決して卑怯な事じゃない」
「ちがう!……惑星マーズナーの水銀に太陽のガンマ線を当てて金を作るつもりだった。安定した照射地区を調べあげ、企業にデータを売るのが狙いだ」
「じゃ、利益を独り占めする為に、何も知らない老舗の船頭たちを潰したのか」
「そうだ。その最後が、うさぎ乃屋だ」
「そんなことは、させない」
「俺もさせん」
「!?」
「俺は会社を裏切る。もう帰れない。ここでケジメをつける。ただ最後に頼みがある。部下達は関係ない、何も知らないんだ。それだけは信じてくれ。あと彼女に、……リィリィに詫びを伝えてくれ。すまなかったと。あの時の言葉を、悔いていると」
3機はどんどん中心に引きこまれて行く。エンジンはとっくに限界を越えている。
ハイエナンは躊躇せず、アクセルを捻った。
「一発勝負だ、しくじるなよ」
サイドカーの噴射口が金色に燃え上がる。
「行けぇ!」
止めようとした僕の声を爆音がかき消した。
サイドカーのエンジンが爆発!レーザー鎖が切れ、中心部に向かって弾け飛んだ!!
上昇するうさぎ船とラッビターⅡを、プロミネンスの火柱が更に突き上げる。
凄まじいGが体を押しつぶす。息ができない。
酸欠で体が震え出す。体の機能が正常に動かない。
船はまだ止まらない!炎が炎を突き破る。
止まらない!!
まだ止まらない!!!
荒れ狂う炎のトンネル。
まだ続く……。
まだ……、まだ……。
気を失いかけた瞬間、体の圧力が消えた。
閃光の世界から、瑠璃色の世界に戻って来た……。
「僕は、死んだのか……。おっしょうさんは……?」
離れた所に停まっているラッビターⅡ。
ゴーグルパソコンがムツゴロウの心拍音をキャッチした。
「大丈夫だ、生きてる」それを聞けた僕も、まだ生きてる……。
暗闇の先に、ボンヤリ見える緑の光点。
救助艇?
心地よい眠気が僕を満たしていく。
このまま死んでも、天国へ行けそうだ。そんな僕の目の前に、幻想が現れた。
幼少の頃の僕だ。事務所で面接を受けている。面接官は自殺したマネージャーのチャーリーさんだ。
目の高さまでしゃがんで、話しかけてきた。
「私はね、宇宙のみんなを幸せにしてくれる様なアイドルを探してるんだ」
「僕がお歌唄えば、みんな喜ぶよ」
「君はもう赤ちゃんじゃない。笑ったりはしゃいだりするだけで喜ばれる時間はもうすぐ終わる」
「僕どうしたらいいの?」
「一生懸命考えてごらん。みんなを幸せにするには、自分が何をすればいいのか。その答えを出せる人が、本物のアイドルになれる。みんなは君に何を望んでいる?」
「わかんないよ……。ぼく、わかんない……」
僕は意識を取り戻した。
救助艇が離れたラッビターⅡに近づいていく。
僕のうさぎ船にも救助艇が近づいて来る。
複数の光の塊がこちらに向って来る。
サイドカー軍団、ハイエナンの部下達だ。
一人ひとり、叫び声をあげて、僕の横をすり抜けていく。
全員が猛スピードで太陽に突入していく。
ハイエナンに殉ずるつもりだ。重力と炎の海、ガス渦の地獄に特攻していく。
やめろ、ダメだ……。ハイエナンは、それを望んでない……。
僕は彼らの涙を見て悟った。
今、みんなが望んでいる事は何か。自分がなすべき事は何か。
「僕が……、ハイエナンを、助けるんだ!!!!」
続く




