表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

アクション 18

 3日後に僕らは退院した。そして更に一週間の時間が流れた。


 自宅から持って来てもらったスペアのエアロ・チェアーで、僕は太陽下りの仕事をしている。

 ボロボロの気持ちと体を動かして、今日の仕事も何とか終わらせた。


 テーブルにはリィリィが作ってくれた料理が並んでいる。でも彼女はあれから全く顔を見せてくれない。


 食事の後、僕はジャッキーとムツゴロウと共に、ラッビターⅡの修理に取り掛かった。


 ムツゴロウは交換パーツを手に、首をかしげている。

「おかしいのぉ……」

「どうしたの?」

「部品をしまっておいた場所が変わっとる。それにこの部品、黒っぽい」

「実は僕も腑に落ちない事があるんだ。ポイントの事だけど」

 ジャッキーはハイエナンに負けてから、ずっと気が立っていた。

「あんだよ?パッと言え、パッと!」

「いや、マイナス10桁になってる」

「なにーっ!!!???」

「この店に誰かが侵入したんだ。それしか考えられない」 

「大変じゃねーか!通報しろよプラスの兄貴に!ポリスマンだろ!」

「うん。今朝兄さんにこの部屋のデータをありのまま送った。けど手掛かりは無いって。とにかく全力で捜査してくれてる」

「ちくしょう、どうすんだよ!?」

「手ごわい相手だ。ポイント・スティックの情報を書き換えるなんて、宇宙エレベータの管理レベルに匹敵する」


 がっくりと肩を落とすジャッキー。

 ムツゴロウも大きなため息を漏らす。

「とにかくここにある部品でラッビターを修理するしかないじゃろ」


 僕は必死に前向きな言葉を探した。しかし……。

「日にちがない……。時間が……」


 黙り込む3人の所へ、ホイがローイー社長を連れてやって来た。相変わらずボロのスーツを着ている。

「張り切ってる様だな」

「……」


『これ以上悪い話を持ち込まないでくれ!』僕は祈ろうとしたが、抵抗の時間は無かった。

「映画制作は中止だ。ポリスからの勧告を受けた。お前たちから暴行を受けたとハイエナン・エキスプレスから訴えがあったそうだ」


 僕はまるで意味の無い言葉を叫んだ。

「先に仕掛けたのは奴だ!」

「ハイエナン達は自主的に1か月の営業停止を発表した。お前たちも同等の事をしなければ、世間の非難を浴びる」

「1か月も営業しなかったら、この店はつぶれて……!そうか、奴の狙いはそれだったんだ!ジャッキー」

「手の込んだ罠はりやがってぇ!」

 ジャッキーが怒りの拳を壁に打ち付けた。

 

 僕らはたった一日で、あらゆる形のピンチに囲まれた。大赤字、ラッビターⅡの故障、リィリィの不参加、そして映画制作中止の勧告。

 ……、さすがの僕も打開策を思いつかない。


 その時店の外から、女の子が入って来た。

 僕たちに何か言いたげに迫ってきたが、すぐに振り返ってローイーに訴えた。

「わたし、署名運動します」

 ローイーが目を丸くしている。


 女の子が迫っていく。

「プラス君たちの映画、すっごく楽しみにしてるんです。あたしの他にも、たくさんの人が、待ってるんです……」

 涙を浮かべた彼女は、それ以上言葉にならなかった。


 ローイーは今までにない優しい表情で、女の子に話しかけた。

「お嬢さん。あなたが彼らの熱心なファンである事は、よく分かりました。しかし、仮に署名がたくさん集まったとしても、映画の制作は許可できないんだ。なにせポリスからの勧告だから、無視はできない」


 反論できなくなった女の子を見て、僕の心が燃え上がった。

「みんなが僕たちの映画を待ってる。勧告は命令じゃない。強制権は無いんだ。仮に映画制作を続けて世間の不評を買っても、これだけ面白いものを作りたかったんだと主張したい。そして必ずわかってもらう。汚い策略には絶対負けたくない。……船を修理するんだ。そして制作費を稼ぐ。赤字のポイントも僕が必ず元に戻す。どうやってスティック内のデータをいじったか、ヒントはある。任せて」


 ホイが呆れた表情で僕を見る。

「いい加減にしろよ。お前は負けだんだ。無理に映画を作ってみろ、ウチの会社までポリスを敵にまわしてしまう。今後、思う様に映画を作れなくなる。ダメだ、中止しろ」


 僕はローイーの判断を求め、顔色をうかがった。

 彼はすっと目を閉じた。


 数分が永遠の様に感じはじめた時、最後の判断が下された。

「どうせわし等も思う様に映画を作れてはいない。評判になる映画を作ろうと流行りのPCグラフィック技術に巨費を投じた。ビル3つ分のスーパーコンピュータを買ってキャラクターを作った。バカみたいにテレビコマーシャルも繰り返した。マスコミもこぞって凄い映画だとはやし立ててくれた。その挙句が大借金。映像が綺麗なモノが良い映画だと、誰もが錯覚していた。『本当に面白いもの』がわからなくなり、過去のカリスマ俳優にすがる所も出てきた。わしも自分が作りたかったものがどんなものか、今ではもうわからん。プラス。お前には作りたい映画があるんだな」

「ある。あります!」

「映画は何もない無から感情を作り出す芸術。……よし、作ってみろ。ポリスの勧告はわしがなんとか対応する。約束通りモント・カナルで賞を取ってみせろ」

「完成したら!……必ず、一番にお見せに行きます!」


 続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ