アクション 18
3日後に僕らは退院した。そして更に一週間の時間が流れた。
自宅から持って来てもらったスペアのエアロ・チェアーで、僕は太陽下りの仕事をしている。
ボロボロの気持ちと体を動かして、今日の仕事も何とか終わらせた。
テーブルにはリィリィが作ってくれた料理が並んでいる。でも彼女はあれから全く顔を見せてくれない。
食事の後、僕はジャッキーとムツゴロウと共に、ラッビターⅡの修理に取り掛かった。
ムツゴロウは交換パーツを手に、首をかしげている。
「おかしいのぉ……」
「どうしたの?」
「部品をしまっておいた場所が変わっとる。それにこの部品、黒っぽい」
「実は僕も腑に落ちない事があるんだ。ポイントの事だけど」
ジャッキーはハイエナンに負けてから、ずっと気が立っていた。
「あんだよ?パッと言え、パッと!」
「いや、マイナス10桁になってる」
「なにーっ!!!???」
「この店に誰かが侵入したんだ。それしか考えられない」
「大変じゃねーか!通報しろよプラスの兄貴に!ポリスマンだろ!」
「うん。今朝兄さんにこの部屋のデータをありのまま送った。けど手掛かりは無いって。とにかく全力で捜査してくれてる」
「ちくしょう、どうすんだよ!?」
「手ごわい相手だ。ポイント・スティックの情報を書き換えるなんて、宇宙エレベータの管理レベルに匹敵する」
がっくりと肩を落とすジャッキー。
ムツゴロウも大きなため息を漏らす。
「とにかくここにある部品でラッビターを修理するしかないじゃろ」
僕は必死に前向きな言葉を探した。しかし……。
「日にちがない……。時間が……」
黙り込む3人の所へ、ホイがローイー社長を連れてやって来た。相変わらずボロのスーツを着ている。
「張り切ってる様だな」
「……」
『これ以上悪い話を持ち込まないでくれ!』僕は祈ろうとしたが、抵抗の時間は無かった。
「映画制作は中止だ。ポリスからの勧告を受けた。お前たちから暴行を受けたとハイエナン・エキスプレスから訴えがあったそうだ」
僕はまるで意味の無い言葉を叫んだ。
「先に仕掛けたのは奴だ!」
「ハイエナン達は自主的に1か月の営業停止を発表した。お前たちも同等の事をしなければ、世間の非難を浴びる」
「1か月も営業しなかったら、この店はつぶれて……!そうか、奴の狙いはそれだったんだ!ジャッキー」
「手の込んだ罠はりやがってぇ!」
ジャッキーが怒りの拳を壁に打ち付けた。
僕らはたった一日で、あらゆる形のピンチに囲まれた。大赤字、ラッビターⅡの故障、リィリィの不参加、そして映画制作中止の勧告。
……、さすがの僕も打開策を思いつかない。
その時店の外から、女の子が入って来た。
僕たちに何か言いたげに迫ってきたが、すぐに振り返ってローイーに訴えた。
「わたし、署名運動します」
ローイーが目を丸くしている。
女の子が迫っていく。
「プラス君たちの映画、すっごく楽しみにしてるんです。あたしの他にも、たくさんの人が、待ってるんです……」
涙を浮かべた彼女は、それ以上言葉にならなかった。
ローイーは今までにない優しい表情で、女の子に話しかけた。
「お嬢さん。あなたが彼らの熱心なファンである事は、よく分かりました。しかし、仮に署名がたくさん集まったとしても、映画の制作は許可できないんだ。なにせポリスからの勧告だから、無視はできない」
反論できなくなった女の子を見て、僕の心が燃え上がった。
「みんなが僕たちの映画を待ってる。勧告は命令じゃない。強制権は無いんだ。仮に映画制作を続けて世間の不評を買っても、これだけ面白いものを作りたかったんだと主張したい。そして必ずわかってもらう。汚い策略には絶対負けたくない。……船を修理するんだ。そして制作費を稼ぐ。赤字のポイントも僕が必ず元に戻す。どうやってスティック内のデータをいじったか、ヒントはある。任せて」
ホイが呆れた表情で僕を見る。
「いい加減にしろよ。お前は負けだんだ。無理に映画を作ってみろ、ウチの会社までポリスを敵にまわしてしまう。今後、思う様に映画を作れなくなる。ダメだ、中止しろ」
僕はローイーの判断を求め、顔色をうかがった。
彼はすっと目を閉じた。
数分が永遠の様に感じはじめた時、最後の判断が下された。
「どうせわし等も思う様に映画を作れてはいない。評判になる映画を作ろうと流行りのPCグラフィック技術に巨費を投じた。ビル3つ分のスーパーコンピュータを買ってキャラクターを作った。バカみたいにテレビコマーシャルも繰り返した。マスコミもこぞって凄い映画だとはやし立ててくれた。その挙句が大借金。映像が綺麗なモノが良い映画だと、誰もが錯覚していた。『本当に面白いもの』がわからなくなり、過去のカリスマ俳優にすがる所も出てきた。わしも自分が作りたかったものがどんなものか、今ではもうわからん。プラス。お前には作りたい映画があるんだな」
「ある。あります!」
「映画は何もない無から感情を作り出す芸術。……よし、作ってみろ。ポリスの勧告はわしがなんとか対応する。約束通りモント・カナルで賞を取ってみせろ」
「完成したら!……必ず、一番にお見せに行きます!」
続く




