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アクション 9

 目が覚めた。僕はフトンの上にいた。目の前にムツゴロウじぃさんの顔がある。しわくちゃの顔だ。

 「目が覚めたか。いやぁ、二人には大きな借りができたな。わしも腕力が無くなってきた。あんな炎で櫓を放すとは情けない。早く弟子に成長してもらわにゃ」

 じぃさんはリィリィの肩をたたいた。


 今度はリィリィが僕の顔を覗き込む。

「大丈夫ですか?」

 僕は出来る限り首を持ち上げた。

「ここ、どこですか?」


 リィリィが僕のオデコに手を乗せた。フワフワの毛が生えた大きな爪がある怪獣の手。とっても温かい。

「うさぎ乃屋です。おっしょう様とわたしのお店。太陽から脱出した後、救助艇が来てくれたの。覚えてない?」

「脱出、できたんだ」

 室内は見た事もない古い木目調の家具が並ぶ。広い玄関には船のパーツが積まれている。

「ここが太陽下り船、最後の老舗」

「助けて頂いて、本当にありがとうございました。ゆっくりしていって下さい。今、飲み物を持ってきます」

「ありがと」


 畳と呼ばれる床を初めて見た。ゆっくり息を吸い込むと、とっても落ち着く。素敵だぁ。このままウトウトしていよう。


 その時、扉を蹴破る音が、僕の神経を覚醒させた。必死に首を傾けると、そこにハイエナ革ジャン軍団が立っていた。


 先頭に立つ長身の男は初めて見る。黒髪のソフトモヒカン。後ろ髪を伸ばしている。銀フレームのサングラスで表情は見えない。他の連中の様子を見ていると、こいつはリーダーらしい。


 彼がブーツを履いたまま畳にあがってきた。

「じぃさん。今日の事故の責任、どう取るつもりか」

 僕の事は、全く眼中にない様だ。


 僕をサイドカーに乗せていたハイエナ男が、リーダーの背後から怒鳴り出す。仲間たちに中傷される言葉を言われたのだろう、必死で自分は悪くないと主張しに来たようだ。リーダーの男が左手を上げて、部下のおしゃべりを止めた。


「勘に頼る運転では迷惑だ。前にも言ったが、早いとこ太陽下りを廃業して、月の遊覧船でもやってくれ」

 じぃさんを睨みつける男の前に、ジャッキーが立ちふさがった。


 僕の顔の上空で、二人が睨み合っている。ジャッキーの口がきゅうっと尖っている。

「お前がリーダーか。人が大切にしてるモン奪いやがって、この盗っ人が。ハイエナ印が似合ってるぞ」

「キサマだな、オレの部下にケガをさせたのは。何処ぞから盗んで来た棒きれ振り回しやがって。人にケンカ売る時は、まず我が身をよく見ろこのクソガキ」

 

 ジャッキーが背中から2本の棒を取り出した。対峙する二人。


 リーダーの男がゆっくりと膝をつき、僕に話しかけてきた。

「ハイエナン・エキスプレスのリーダー、ハイエナンだ。よろしくプラス君。君は泣く子も黙るスーパー・アイドルだそうだな。女の子の間で知らない者はいないとか」


 じぃさんとリィリィが顔を見合って驚く。

 ジャッキーがハイエナンの顔に棒を出してけん制する。

「そうだよ。だったら何だ。俺らはこれから映画を作るんだよ。お前らハイエナ共を叩き潰す映画だ」


 ハイエナンはジャッキーの顔を見ず、僕に話し続けた。

「そうか、映画か……。なぁ、映画の観客はボロの屋台船よりハイテクなホバーサイドカーを見たいんじゃないか?うちの店は宇宙工業規格、SISを取得している。様々な場所の撮影許可がすぐに下りるぞ。面倒な申請が要らないから、撮影がスムーズに行える。どうだ、君は賢いんだろう?」


 いい話だ、理にかなってる。でも……。僕はリィリィの顔を見た。


「そうだよ。僕は賢い。リィリィお願い。僕を玄関のエアロ・チェアーに乗せて」


 リィリィはじぃさんと一緒に僕を抱き起してくれた。

 チェアーまでゆっくりと運んでくれる。ジャッキーもリィリィを守る様について来る。


 よいしょっと。……座りなれた空間。うん、僕の居場所はやっぱりここだ。

「ねぇムツゴロウさん。うさぎ乃屋を映画にしませんか?」

 リィリィがキョトンとしている。すっごいタレ目、ホントに可愛い。やっぱり彼女の味方をしたい。

「お店の宣伝にもなるし、力仕事はジャッキーがするし」


 ハイエナンの部下6人が、フォトン・ウェポン(光粒子武器)を振りかざした。槍、爪、ブーメラン、ヌンチャク、二刀流の手斧、そしてチェーンソー。刃の部分が黄色い光で輝いている。リーダーの申し出を侮辱されたと思ったらしい。


 僕はゴーグル・パソコンに設計図を作成。すぐにエアロ・チェアーに情報を伝達した。

「10億分の1メートルのマシン達が、思い通りの物を作ってくれる。例えば、こんなの」

 玄関の隅に山積みにされたうさぎ船の交換パーツに向けて、輝く粒子を発射した。


 パーツは一度砂状に崩れ、作られていく。その間、ほんの5秒。ガラクタは8本脚のロボット一角馬となり、前足4本を上げハイエナ軍団を威嚇する。

 青色の光る瞳が一人一人をメモリーしていく。


 言葉なくたじろぐハイエナ軍団。僕は大満足だ。

「天馬・スレイプニール!なんちゃて。僕らはうさぎ乃屋を舞台に映画を作ります。どうぞ、お帰り下さい」

 ジャッキーも棒をXに構え、臨戦態勢をとっている。


 ハイエナンが明らかな嫌悪感を抱いて、僕を睨んでいる。

「まるで犬だな。誰かが笛を吹かないと、正しい方向に進めんらしい」


 その言葉に反応したのは、僕でなくジャッキーだった。一瞬で棒を振り上げハイエナンに飛び掛かった。

 ハイエナンが背中の革ベルトからフォトンセイバーを引き抜く。

 黒色の光剣が、顔面を狙ったジャッキーの棒を受け止める。衝撃で棒が赤くフラッシュする!


 ハイエナンの剣の柄には、2個のエネルギー照射口が縦に並んでいる。光剣は下の口から出ていた。残りの上の口が発光する。


 まずい!僕はスレイプニールを動かそうとした。その時リィリィが彼らの間に割って入った。

「やめて!ケンカしないで!みんなで仲良くやればいいじゃない」


 ハイエナンが白けた様子でジャッキーを手で突き飛ばした。光剣の出力を止め、部下を引き連れ店を出ていった。ジャッキーの鼻息は荒い。

「次は邪魔すんな。アイツ等とは絶対仲良くやれない」

「なんで……。なんでですか」リィリィの大きな瞳から、大粒の涙がこぼれる。そしてジャッキーの腕をギュッと掴んだ。


 なんて素敵な女の子だろう。僕は今、確信をもって自分のアイデアを口にした。

「ねぇリィリィ。僕は君をヒロインにして映画を撮りたい」

「えっ!?」

 リィリィとムツゴロウが同時に声を上げた。


 んふ❤予想通りのリアクション。しかし直ぐにリィリィが悲し気な顔で泣き出した。

 これは全くの予想外。

「わたし、こまる。世界中の人に興味の目で見られるのイヤ。今だって必死で我慢してお仕事してる……」

 彼女が震えだした。じぃさんが慌てて走り寄り、彼女を抱きしめる。ジャッキーが僕を睨みつけた。


 いや、ちょ、ちょっと待った!!


 続く

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