間話1 : 狩人組合の会合、チーム名
●●狩人組合の会合●●
「で、スクール周辺で起きた事件の大まかな概要は共有できた訳だが―――」
なんばの繁華街の外れにある料亭。その一室で、南部地区の組合長と副長達が集まっていた。議題は、エビス事件―――通天閣を強襲した正体不明のテロリストについての情報交換と、最近になって頻発している新型害獣の被害について。全容を掴んだ誰もが、驚きに戸惑っていた。
「――マジヤバじゃない? もしかしなくても、戦争一歩手前じゃん」
「そうなったらそうなったで楽しそうですけどねー」
会合で詳細を初めて知った二人―――着物を着崩したボブカットの女が引きつった笑いを零し、腰に刀を携えた優男がにっこりと笑った。大和川を南に構える第10地区の長と副長の言葉に、ヒゲを伸ばした大男が豪快に笑った。
「少しぐらいは隠す努力をせんか、剣の戌。それで、未然に阻止できなかったスクールの腑抜け共の始末はどうつけるつもりだ?」
「主な教官は死んだそうです。中央府の南部担当官の首も数人分飛んだとか。再起の人材確保のために奔走しているという情報もありますが、コントの類ですかね?」
長であるヒゲ男の言葉に、眼鏡をかけた副長の女性が追従する。第8地区の二人の言葉に、顔を布で隠した男は焼き鳥をかじりながら興味なさげに答えた。
「要らぬものが更に要らないものになった、それだけであろう。価値のある情報のやり取りをせんか、たわけ共」
「ですよねー。キリリ眼鏡さんは今日も空気読めてないっていうか」
第9地区の長の言葉に、副長である小柄な女性―――剣道の面を被っているためこちらも顔が見えない―――が追い打ちのように発言した。
それを聞いた赤髪の女は「一理あるな」と告げ、長達を見回した。
「私達が得たガルム13の情報のように、だ。事態の解決に繋がるような情報がないのであれば、建前が潰れるだろう? あくまで等価を交換するというのがこの会合の目的だった筈だけど」
「推測でもいいから、情報出して貰えると助かるんですよねー。これは専門家からのお墨付きです。総合的に判断しなきゃ、被害は更に増えるそうで」
高圧的な長の言葉を、副長のリキヤがフォローした。そしてリキヤは、発言していない第13地区―――泣く子も黙るニシナリの長に視線を向けながら、確信と共に尋ねた。
「キョウコさんとこ、既に手掛かり掴んでるんでしょ? 交換条件、って訳じゃないですけど」
「皆までいいなさんな」
オッドアイ、スカーフェイスの女丈夫は写真を放り投げた。リキヤは回転して飛ぶ写真を指で掴むと、こいつが、と呟いた。黒い服にマントのようなものを羽織り、髪までも真っ黒。血のように赤い唇が艷やかで、嫌に際立って見える。全員に写真が回された後、見解はほぼ一致していた。
「へえ……やべえなこいつ。ちなみにだが、懸賞金は?」
「かけてない」
「……は?」
タバコに火を点けながら、キョウコは告げた。
「探りに行ったミナトが片腕を失くして帰ってきた、《《そういうレベルだ》》」
生半可な懸賞金では済まない上、売名目的の使い手に大勢死なれるのも困る。忌々しげに語る様子に、全員が緊張の面持ちになった。
「となると、レギオンの出番ですか……裏指名は金がかかるんですけどね」
「疾風蓮桜の旦那でも無理だったんだ、仕方ねえだろ。しかし連合の野郎ども、本気でおっ始める気だな」
「まだ確定した訳じゃない。無所属のイカレ野郎って線もあるわよ」
「全方位の全部をぶっ殺すって輩? いいなあ、気が合いそう」
「……どっかで殺し合って相打ちになってくれれば、世の中はもうちょっと平和になるかも」
「その程度でなるかい。しっかし、期待以上じゃな。害獣ばかりで飽き飽きしとった所じゃ、ここは年齢の順に―――」
各々が好き勝手に話し始める。その中でリキヤはキョウコの視線に気づき、意識を念話に切り替えた。心石使いだけが可能とする、相互の同意があって初めてできる秘匿回線。疲れた声で、キョウコは尋ねた。
『ガルム狩りの新人。ミコトの知り合いだと聞いたが、デマか?』
『いえいえ、直々に連絡がありましたから。もっとも、少し面識があるというレベルですが』
『……その分だと、聞いてはいないようだな』
ここだけの話だが、と前置いてキョウコはある情報を告げた。酒を飲みながら聞いていたリキヤは驚きのあまり呼吸が止まり、逆流した酒精が鼻の粘膜を陵辱した。
「げほっ! ごほっ、がはっ……ぐ」
「い、いきなり何なの!? ……大丈夫か? ひょっとして何か入ってたとか言うまいな」
「い、いえ……大丈夫ですカリナさん」
リキヤは長に対し、滅多にしない名前呼びで答える。混乱した自分の頭の中を整理しきれないまま、会合の時間は過ぎていった。
『……それで? 一体何を聞いた、副長』
『いや、ちょっと衝撃的過ぎる事実を』
繁華街の中で二人、念話での通信だった。カリナの言葉に、リキヤは苦笑しながらキョウコから得た中央府の情報を答えた。一通りを聞いたカリナは、信じがたいという顔を浮かべた。
『中央府の精鋭部隊が、ほぼ壊滅状態? ……あの選りすぐり戦闘集団がか!?』
各地区の狩人、探索者の上澄みの上澄み。報告にあったガルム程度ならば《《サシの戦闘でも無傷で討滅できるであろう》》オオサカが誇る重要戦力の一角。その50%が死亡したか戦闘不能な状態にあると聞かされたカリナは、耳を疑った。
『誤った情報を掴まされた、という方が信じられるのだけれど』
『私もですが、有りえんでしょう。区長も、キョウコさんとナガモリ府知事の関係はご存知ですよね』
『……それは。でも、だって……あの部隊が、何をどうすれば』
『ええ……彼らの強さは本物です。思い出すだけで寒気がしますよホント』
それを更に上回る、埒外の怪物、化物がこのオオサカを彷徨いている。背筋が凍る思いと共に、リキヤは考え込んだ。
(テンパってると昔に戻るんだもんなー……なんて考えてる場合でもないか)
リキヤは街並みを眺めていた。何かが始まろうとしている、オオサカという街を。
―――予感が確信に変わった今、次に考えるべきは残り時間。決定的な何かが起こるまでのカウントダウンは、いつ始まって終わるのか。
しわがれた唇にタバコが加えられ、鳴らされた指と共に火が点いた。
「おびき寄せるには、か―――餌役を走らせますかね」
●●チーム名●●
「と、いうことでオレは異世界に飛ばされた後に戻ってきたんだ」
「……いや、ちょっと待って。いきなり結論から言われてもさっぱり分からない」
頭痛を堪える仕草で、ブレアが言った。デンスケは面倒くさそうな顔をしながらも、やっぱりそうだよな、と自分の境遇を説明し始めた。300年前に異世界らしき場所に飛ばされたことから、スクールでの事件を経て今この時に至るまで。
「その証拠の一つが、この方陣。エリルが空羅・天元時空裂波と名付けてたけど―――」
デンスケは託された方陣の一つを見せると、ブレアは絶句した。緻密極まる方陣に使われている技術があまりにもぶっ飛んでいたからだ。
「……どうやら、役に立ちそうだな。それで、ブレア。専門家の目から見て、これはどの程度の価値があるんだ?」
こちらの世界でのハイエンドを、デンスケは知らない。だから、価値が分かりそうなブレアに問いかけた。ブレアは「どの程度って」と呟いた後に答えた。
「これだけならなんとも……言えない、というよりは分からない」
「え、なんでだ?」
「起動できないから。こんな頭おかしい方陣、発動できるのはそれこそ各世界の王か上位ランカーでも一握りぐらいだと思うし……」
形は綺麗だけど、それだけ。描かれるだけの方陣に意味はないと答えたブレアは、ただし、とデンスケが取り出した方陣を指でなぞった。
『確かに、威力は頭がオカシイレベルだからな』
「……ちなみにだけど、あの狼に使った場合は?」
「コンマ1秒で貫通するどころか、地下500mまで埋まった後に大爆発。地面は死ぬ」
外皮が固く強固な障壁持ちの巨大な化物に使う最終決戦方陣術の名前は伊達ではないとデンスケは胸を張った。周囲への影響が大きすぎるのが玉に瑕だが。
「想像もできないけど、その威力が本当なら……宝の山ってレベルじゃない。これに使われてる技術を一部でも理解できれば、新しい理論での方陣術を作れると思うし」
リバースエンジニアリング、とブレアは言った。基礎技術で負けている異世界では常識となった語句だ。未知なる技術を流用することは敗北を認めるようで歯がゆいが、これだけのものを活用しないのも道理が通らないとブレアは考えていた。
「これ、言いたかないけど100年は先に行ってる技術よ。使わないまま腐らせるなんて、そんな事は………いえ、でも……」
『下手に公にすることもできない、だろう? 賢明だ。知られればこちらの脳みそを穿る勢いでやって来るぞ』
絶対的なアドバンテージを得るためならと、悪どい手で奪われる可能性が高い。デンスケもそのあたりはわかっていたため、ブレアの判断に委ねることにした。
寄る辺もないため、裏切りも考え難い。そして、と考えるデンスケにスミネが恐る恐る話しかけた。
「あの、デンスケさん……私も身内枠ですか?」
「ああ、聞いたからにはチームに入ってもらう。拒否すればとんでもない事になるぞ」
「お、脅すつもりですか……?」
「いや、アーテが悲しい顔をするだけだ。蔑まれるかもしれんけど」
「脅しじゃないですかぁ!」
どちらも見たくないスミネに対して、効果は抜群だった。アーテはいまいち分かっていない様子で、首を傾げるだけだったが。
「損はさせねえぞ。副長から通達があった。オレ達は週明けから2階組だ」
「……え!? も、もう一度言って下さい!」
「代わりに新入りの鍛錬密度は2倍になります」
「あ、やっぱり言わないでいいです」
デンスケはリクエストに答えて黙り込んだ。数秒後、沈黙も怖いとスミネが音を上げた。交渉の末、取り敢えず一ヶ月間は1.5倍という所で落ち着いた。
断らなかったのは恩や人材はもちろんのこと、拠点の機能が魅力的だったからだ。防犯機能を兼ね備えた広い個室など、早々借りれるものではない。自分の手でカスタマイズできるということを考えれば、断る理由は一つもなかった。
「ともあれ、2週間は準備期間にする。鍛錬するも、私物を持ち込むのも自由だ……ただし、拠点の位置をばらすような事をすればぶっ殺す」
「……不可抗力でも?」
「応相談。態とやってこっちを嵌めた場合は何が何でも命取りにいくから、そこん所よろしく」
淡々と告げるデンスケの様子を見て、ブレアとスミネは目を合わせながら誓った。冗談0%は間違いないから、互いに注意しあおうと。
だが、少し厳しいのは事実だった。街へ赴くとしても、車がない状態での徒歩の移動を強いられる。隠密行動は遵守するが、高位の心石使いが相手では分が悪い。そう主張した二人に対して、デンスケは上の部屋を指しながら告げた。
「それなら心配ない、転移陣を購入済みだ。3人とも、後で登録しといてくれ」
「転移陣、って……三千万はする、あの!?」
指定したポイントとポイントを繋ぐ、方陣術の中でも利便性に優れる一つ。デンスケは頷き、副長経由でローンを組んでもらった、と答えながら遠い目をした。
『ちなみに担保はない。普通ならば人間か内臓か、という所だったが』
「使うべきはコネだな。あと、オッサンからありがたいアドバイスを受けたのもある。街から孤立しすぎるのもよろしくないってよ」
隠者を気取るつもりがないなら、パイプは持っておいた方が良い。世情に疎くなった上で右往左往した挙げ句に“狩っても誰からも文句が出ない”対象にならないように、と真剣な目で告げられたデンスケは、その通りだと考えた。
「あとは、アーテのためだ。護衛無しで移動できないのは息がつまるからな」
周囲が危険な戦場となれば、ちょっと外に出るだけでも恐怖がつきまとう。それは本意ではないし、自分たちだけの交流を優先するというのも閉鎖的すぎるとデンスケは考えていた。
「と、いうことで町外れのアパートの一室を借り切ってる。中心部まで回遊バスで10分程度だから、それなりに便利だろ」
「そうね。研究資材の搬入も必要になるし………」
ブレアは少し考え込んだ後、言いにくそうに切り出した。
「方陣術の研究なんだけど……実の所、私は専門じゃないのよ。装飾ならともかく、そっちの方ははっきり言って自信ない」
「……つまり?」
失敗した時の保険をかけている訳ではないだろう。先を促したデンスケの言葉に、ブレアは言い難そうに答えた。
「知り合いで、とびっきりがいるの―――変態だけど」
「……それはどういった意味で?」
「研究即ち人生、って奴。施設と研究対象がある内は、絶対に裏切らないと思う。その余計な行動でロスされる時間の方を惜しむというか、何というか……」
「真面目な研究○チガイってことだな、仮採用」
話が通じるならやり用はあると、ベテランの交渉人の風格を漂わせながらデンスケは頷いた。ジャッカスはノーコメント、と呟いて丸い顔を逸らしていたが。
「選べるような余裕がある訳じゃなし、早めに手札は揃えておきたい」
無いとは思いたいが、あの狼レベルの害獣が頻発するような事態になれば選り好みなどしている暇はない。備えるために、とデンスケは考え込んだ。
(アーテ達の判断力についてもな……いっそ、この機会を利用するべきか)
狼討伐の報酬と副長から提供された個人的賞与で、車を買うためのアタリはついた。旅をするための最優先装備だ。だが、免許を取るために教習所に通う必要がある。通っている間は狩りで日銭を稼ぐことが出来ないため、アーテ達を遊ばせることになるが、どうしようかと思案していた所だった。
そうしてデンスケが問いかけた後に返ってきた答えは「私達だけで狩りに出る」だった。
「いつまでもおんぶだっこのままじゃ情けないので。一人だけで、というのは少し怖いですけど、がんばります!」
ふんぬ、と気合を入れたアーテは秒で全員に怒られた。意気込みは買うが安全面を考えていなかったからだ。スミネが同行するということで、話はついた。
第7地区周辺の害獣で、脅威度が高い個体は少ない。近辺の害獣を相手に大怪我を負うようではとてもじゃないが過酷な長旅につれていけないだろう、という考えもあった。
「とにかく、慎重にな。まずは自分の命を守ること。誰かの命は、その次の次ぐらい考えればいい」
まずは己の命を守りきれるようになってから、というのが戦う者にとっての原則だ。それができないのにあれこれ口に手を出す者は、どこに行っても半人前扱いしかされない。デンスケは過去の自分を思い返し、高い勉強代だったなあ、と自分の左腕を擦った。
「命の賭け時は見誤らないように。生き延びるために逃げるのは恥じゃないから」
「……一ヶ月未満で2階に上がるような無茶を重ねた人が言うんですか?」
「普通の遭遇戦なら逃げていいって話だって。今までそうじゃない戦いばかりが重なったけど……うん、たまたまだ、たまたま」
重要そうな戦闘が3度、それも渦中の人物という立場で。デンスケは確率の計算をしながらも、偶然だと自分に言い聞かせた。
「あとは、念話の練習だな。波長を合わせれば人混みの中でもひそひそ話ができるらしいし、戦闘時にも役に立つ」
練習すれば、指揮に多大なる影響を及ぼせる。声だけでは届かない距離もフォローできることから、最優先で取得すべき技術と言えた。
「対クソ狼の修行も終わって、ようやくだ。これからはチームとして動けるようにやっていくから」
「はい。……って、そういえばですけど。このチームの名前ってなんなんですか?」
2階、ということは組合認可の徒党になるため、チーム名は必須になる。スミネの質問に、デンスケはそういえば、と呟いた。
「なあなあでやってきたからな……ちなみに、スミネのチームはなんて名前だったんだ?」
「……それぞれの名字の一文字づつを取って、“華群咲”でした。女3人だったので、わかり易いようにって、イズミが」
ただ、メンバーが増えると疎外感を覚える者が出てくるため、あまりよくない付け方らしい。他の徒党に聞いたことがあったスミネは、一般的に多い付け方は地元の名前をもじるものだと答えた。
「同じ地域か、マンションで組むのが多いですから」
「オレ達は思いっきり違うしな……共通点も少ない」
「そういう場合は、リーダーの心石の名称を使うらしいですよ」
スミネの答えを聞いたブレアとアーテは、デンスケを見て頷いた。
「……良いんじゃない? カラーレス・ブラッドで」
「いいです。私は賛成です」
「そう、ですね。分かりやすく、覚えやすい名前かと」
「そ、そうか? 無色だ、って馬鹿にされるかもしれないぞ」
戸惑いながらもどこか嬉しそうなデンスケの様子に、アーテは笑顔を返した。
「名前だけで馬鹿にするような人は、放っておけばいいと思います。私は好きですから、デンスケさんの心石の名前」
「傍から見れば心石の名前かどうかも分からないしね。色々な意味に取られそうだし、地味な名前でもない。面白いと思うよ」
『同意する。遺憾なことに、こいつのネーミングセンスは壊滅的だからな』
「ほっとけ」
「……もしかして、ジャッカスって名前も?」
『本人はジャッカルをもじったらしいがな』
「道理で。間抜けなんて酷い名前だと思ったけど」
気の毒な表情を浮かべるブレアとスミネ。デンスケは口笛を吹きながら、明後日の方向を向いた。
「で、でも名前を変えてないですよね。気に入っているんですか?」
『ああ、別の意味でな』
誤魔化すように手を振る棒人間。表情が分からなく、どんな感情を抱いているのかは分かりにくかったが、追求されて欲しくなさそうな声色だったため、デンスケ達は話題を変えた。
『カラーレス・ブラッド』という、一つのチームで動いていくルール等を決めるための話し合いだ。それぞれが意見を出し合って、最低限守るべきことを決めていく。
ジャッカスは忍び足でその輪から外れ、窓へと向かった。正体不明の雲に覆われているため、星も見えず、霞越しの月が微かに輝いているだけ。
誰ともなく、棒人間は呟いていた。
『“間抜け”か。それこそが何も守れなかった私に相応しい名前だよな、カイ』
ジャッカスは、かつての弟子の名前を呼んだ。デンスケではない、いつかが来る時に備えて自分の武術の全てを叩き込んだ、かつての愛弟子を。カイ・ストレインという男の名前を。
『命の賭け時とは、あいつらしくも上手いことを言う……そうだ、私は賭ける。このまま、負け犬以下の存在でいられるものか』
そのための遠州界だ。間違いなく、自分たちの思惑は気づかれていない。だが、出会ったことは運命だと自分もカイ・ストレインも確信していた。
何もかもを取り戻すために。取り返しがつかなくなった全ての世界の代表として、かつて守るために挑んだ者として。
今でこそジャッカスという名前を受け入れることができた女は、線だけの身体になったとして、たった一つだけ譲れないものがあった。
『歴史は変わった、これからは未知の領域―――界くん。それでも染まらないあなたであれば、きっと』
縋るような呟きは、夜に消え。頼りない月明かりだけが、棒人間の希望の言葉を包み込んでいった。




