表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラーレス・ブラッド(旧・未完)  作者: 岳
2章 : 出会い
20/35

19話 : 夜襲(前編)

見目麗しい少女の流れるような金髪から、輝く汗がしたたり落ちる。デンスケはアーテのそんな姿を自分の身体で周囲から隠しながら、清潔なタオルを渡した。


「あ……ありがとうございます」


「礼はいいって、ほら」


それよりも早く汗を拭いてくれ、というのがデンスケの本音だった。なんていうか普通に狩りと特訓を並行して行っているだけだというのに、デンスケは罪悪感が凄いと頭を抱えた。


周囲に与える影響もだ。自分は違うが、息切れをしている様子だけで周囲の人間の目を少しでも奪うなんてどうなってんだ、むしろロリコン多すぎねえかと、デンスケは必死で頭痛をこらえていた。


罪作りな少女だが、ここ3日ばかり様子が変だった。デンスケが気づいたのは、薬屋から出てきた後のこと。何かを吹き込まれたこと、その言葉についてのアタリはついていたが、デンスケは特に追求することはしなかった。


『あるいは、お前がロリコンだということを看破されたとか』


(くび)るぞ棒妖精。俺は年上好きだっつーの」


年上の柔らかい包容力とか感じてみたい。デンスケは仕事に疲れた男と同じ思考回路になりながらも、気取られないように周囲を伺っていた。


聴覚を強化すれば、密やかな声も拾える。その言葉と向けられている視線は、あまり良くない感情を帯びていた。なんでも、才能ある少女を囲っている男だとか、少女に無体を働く男だという噂が出回っているようだった。


『事実無根とも言えないかもしれん。傍目で見る分には、だが』


(無責任なことだ……で、噂の回るスピードが不自然に早い訳だが)


狩場に出てから、たった3日。雑でもあり急過ぎる仕掛けだな、とデンスケは仕掛けた者の浅はかさを鼻で笑った。


(アーテを奪うにも、大義名分が無かったら拙いって訳だ。オレの評判を落としに来たか。そうすることで、移籍はスムーズに行われるとか考えてるんだろう)


急ぐ理由も分かるけどな、とデンスケはアーテを見た。傍目にも分かる素質の塊、手にすることが出来たのなら生活は激変するだろう。治癒の方陣を使えるだけでも、日々の狩りにかかるコストが激減する。子供だからと見て、甘く見ている者も多いだろう。手段を選ばずに行動に出る輩が湧いてもおかしくはないとデンスケは分析していた。


許せるかどうかは、全く別の話だが。


『お主に懐かれる前に懐柔する、か。それが、お主が不慮の事故で死んでしまえば―――と考える輩も出るだろう』


デンスケは頷き、ここ3日でこちらを探っている男たちの姿を思い浮かべた。総じて30歳前後の狩人だった。普通なら使い手となって10年以上のベテランだ。だというのに、男たちからは歴戦という雰囲気は感じ取れなかった。


『それでも、直接絡んでこない事を考えるとな……それなりに頭の回る輩が絡んでいる可能性がある』


(オレが死んだ時に容疑者とされるのを恐れて、か?)


『お主の警戒心を薄める意味でもな』


(その上で数を集めてやがるのか。烏合の衆なら物の数じゃない、って言いたいけど完治してない今のオレじゃあな……)


楽な戦いにはならないだろう。呟くデンスケを、アーテは不思議そうな顔で見ていた。























富の偏在を許してはならない。機会は万人に対して平等に与えられるべきだ。資質だって同じこと。誰だけ知らない者が決めたもの、産まれもっての才能とやらでその後の人生の全てが決められることを、誰が受け入れるというのか。


天才でなくたって地道に功績を重ねればと妻は言うが、あの恐ろしい害獣を相手にいつまでも冷静さなど保てるはずがない。つい先日も、新人が喉笛を噛みちぎられて笛を吹くような血の息を零しながら死んでいった。


死にたくはない。死ねば全て終わりだ。不運にも死んでいった者達の死体を思い出せば、ああはなりたく無いという思いで頭の中がいっぱいになる。


だから、人数を集めればいいのだ。万が一にも死なない安全策を取るのが、賢い人間のやり方だと、男―――マサシは今までの自分を肯定した。


(―――違う。分かってる、これは負け犬の思考だ。でも、俺だってアイツと同じぐらいの才能があれば今頃は……!)


マサシは悔しさのあまり、拳を握りしめていた。早々に2階に上がることを認められて、今では第七地区有数の狩人として尊敬を集められている同期の顔がちらついてしようがなかった。


同じ地区、同じマンションで育った。他の資質なしの者とは違う、同じ時期に心石と契約した。だというのに、今では見上げても姿が霞むほどに遠い位置まで。でも俺には才能が無いんだからしようがないじゃないか、とマサシは誰ともなく言い訳をしていた。


「――っさん、おいおっさん。聞いてるなら返事しろよ」


「な、なんだ」


「……声がでけえ。慎重にやれって言われてただろクソが』


舌打ち混じりの罵倒に、マサシはへの字口になり―――その顔はマスクに覆われていて、見えなかったが―――取り敢えず頷いたものの、納得などしていなかった。自分の策が却下されたこともあり、あまり有能ではないな、と協力者の程度の低さを見切っていたからだ。


もっと、相手の悪い噂を流せば良かった。所詮相手は子供で、それも無色という無能だ。社会的な信用などまるで無いのだから、追い詰められれば勝手に損切をするだろう。そう考えたマサシは仲間と協力者に提案をしたが、リスクが高まると一言で案を切って捨てられた。


(戦わずして勝つのが本当の兵法だというのに……まあ、一人で反発するのは拙いからしないが)


納得はいかなくとも、協同歩調を取るのなら意見を引っ込める時も必要だ。大人を自負するマサシは、作戦の成功を優先した。


―――最初は、協力者の男から持ちかけられた話だった。新人の狩人から情報が回ってきたらしい。宝の持ち腐れをしようとしている者が居るから、一緒にその宝を保護しないか、という提案だった。


将来に行き詰まりを感じていたマサシは、悩みながらも話に乗った。協力者達のチームに入れてもらえる、という条件を引き出した上で。


(失敗しても、チームには入れる。ただ、やっぱり治癒術使いは必須だろうな)


そのための、今回の襲撃だった。今は夜半すぎで、誰もが寝静まっている頃。建物内という意表、その上で自分たち10人が夜襲を仕掛けるのだから、成功は約束されたようなものだった。


自分と同じチームの者、協力者と一緒に組合の宿に入る。警備員には既に金を渡しているため、問題はない。目標が居る2階の廊下を歩きながら心石を起動すると、忍び足で目的の部屋まで進んだ。少し古い建物のため、木材で出来た床が軋んでいるが、部屋の中からは聞こえない程度のものだ。


1度だけだが、リハーサルをして確かめてあった。マサシ達は誰にも邪魔されないまま、目標が居る部屋の前まで来ると包囲を始めた。ブロックサインで指示が出され、協力者が用意した大きな瓶が扉の前に置かれた。


リハーサル通りにマサシ達は部屋の入り口周辺に軽い障壁を張る。それと同時に、協力者は瓶の蓋が開かれた。


『神経ガスの散布具合は……問題ない。風向きも良いぞ』


扉の前は障壁で念入りに封鎖されているため、こちらには全く漏れない。濃いガスは瞬く間に部屋の中に広がり、目標の動きを止めるだろう。


死ぬまではいかないものの、鍛えられた使い手でも数時間は動けなくなる効力があるという。あとは、動けなくなった所を仕留めるだけだ。


だが、物事には万に一つある。マサシ達は部屋の中から反応が無いことを確かめながら、念には念を入れるということで、5分を待った。誰かに見つかるリスクはあるが、気づかれて逃げられるリスクの方が大きいと判断したからだ。


「―――行くぞ」


宣言と同時に、ボロい扉が男達に蹴破られた。マスクに黒い服を着た男たちが次々に部屋の中へ入っていく。ベッドは4つあるが、事前の調査で男が窓際の左側のベッドで寝ていることは分かっていた。布団には大きな膨らみが残っている。まだ夜襲に気づいていないか、ガスで痺れているか、どちらかは分からないが、微動だにしていない。


どちらでも同じだと、男たちは膨らみへ次々に剣を突き立てていった。


剣は、抵抗もなく布団を貫通して―――その少し後、鮮血が舞った。


「ぐあっ!?」


「あがっ!」


音もなく長物のようなものが、一振り、二振り。マサシにはその軌道は見えなかったが、近くから鈍い音がした。打ち据えられたのだろう2人の男が、床へ倒れ込む。ベッドを突いた者達が、こっちは違うと叫んだ。


伝達した声を聞いた者が認識する1秒の間に、更に2人が叩きのめされた。間髪入れずに何かが投げられる音と、窓ガラスの割れる音が部屋に響き渡った。


「に、逃がすな!」


「ちっくしょう、気づいてやがった!」


マサシ達が叫ぶが、目標の男はよろめきながらも窓の近くに辿り着いていた。カーテンに隠れていた金髪の女の子が飛び出す。すかさず、目標の男は女の子を抱きかかえながら後ろ向きに窓から外へ出ていった。


「……くそっ、ボーナスがパァだ!」


「いや、まだ分からねえぞ」


「ああ、ガスを少しは吸い込んだみたいだ、俺達にもチャンスはある!」


下にも仲間はまだまだ居る、追撃戦が始まってる音もする。久しぶりの高い酒のために絶対俺が仕留めてやると、男たちは鼻息も荒く部屋から出ていった。



















走る、走る、走る。居住区の中を、越えて外を。廃墟の中を走り続けるデンスケに、アーテは心配そうに尋ねた。


デンスケは無言で頷いた。


一方で、アーテは大丈夫ではなかった。先程の襲撃を思い出し、口をきつく閉じた。あれほどまでに問答無用だとは思わなかった。何より、あの襲撃の夜の恐怖を思い出してしまった。大切なものを奪われる感触がフラッシュバックし、アーテの身体は小さく震えていた。


「……大丈夫だ。今のお前は、昔とは違う」


障壁を展開すれば、木っ端な使い手など物の数ではないだろう。だが、問題はそこではないとデンスケは告げた。


デンスケが何事かを告げ、アーテの顔が驚愕に染まった。


そんな2人を、大勢の男たちは剣を片手に追い詰めていった。
















「よ、ようやく観念したみたいだな……!」


少し大きめのビルの中で、マサシ達はようやく目標を補足していた。半包囲する形で部屋の端に追い詰めている上、後ろには窓しかない。


ここは7階、無色の心石使いが飛び降りて無事に済む高さではない。だというのに取り乱さない男に、マサシが苛立ち紛れに声を上げた。


「てめえ……何を気取ってやがる?」


「ぴーぴー泣きわめくもんだろ、こういう時にはなぁ」


次々に汚い言葉がかけられる。


一方でデンスケは落ち着いていた。冷静な目でマサシ達を見ずに、その背後にある何かを見ていた。


「て、てめえ……まさか」


「な、仲間を潜ませてんのか?」


マサシ達は怯えた声で、周囲を見回した。まさか自分たちはハメられたのかと、慌てた汗を流しながら。


だが、一向に仲間は現れない。居るのは、下の階に待機している協力者達だけだ。マサシ達は安堵の息を吐くも、馬鹿にした様子でこちらを伺うデンスケの顔を見た途端に頭へ血を昇らせた。


「っざけてんじゃねえぞぉ!」


「バカにしやがって……!」


マサシ達は得物を片手にじりじりと間合いを詰めていく。総勢で13人、斬り刻んで叩き殺すには十分な数だ。


デンスケは心石を剣に変え、アーテを後ろに庇う形で構えを取った。


両者の視線が交錯する。デンスケは慣れた様子で、息に乱れはない。


襲撃者達は対人戦という慣れない状況に、息を乱していた。それでも、数の差という優位は絶対である。そう盲信した男達の戦意が高まった所だった。


「な――があっ?!」


襲撃者の一団の、後ろに居た者達が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。まさか、と振り向いた男たちは、見た。協力者の筈の一団が、自分たちに襲いかかっている様子を。


「な……え?」


何が起きて、どうして裏切ったのか。マサシの頭の中に混乱が陣取り、身体は戸惑いの余り動かない。その停滞が、致命的だった。


瞬く間に襲撃者を蹴散らした者達は、先頭に居たマサシを一撃で殴り倒すと他の者達と同様に猿ぐつわを噛ましていった。


マサシは混乱したまま、協力者の顔見知りを見上げた。襲撃には参加していなかった男だが、打ち合わせの際に2、3言葉を交わした記憶があった。これはどういう事か、とマサシは視線で訴えるが、返ってきたのは侮蔑の視線だけだった。


「この―――悪党が。こんな子供を大勢で囲むなんて、恥を知るがいい」


死刑さえ生ぬるいぜ、と吐き捨てられる。マサシは、混乱したまま自分の仲間と、協力者達を見た。皆が同じように喋れなくされた上で、捕縛されていた。


そこで、マサシはようやく悟った。直後に、決定的な人物が場に現れた。


デンスケはまさかの顔見知りに、声を上げた。


「あんたは……試験官の。たしか、ヤスヒロさんだったか」


「おっ、覚えていてくれたのか」


名前を聞いて、マサシ達は恐怖に震えた。試験官という役目は受付の代行的なものだが、信頼できる者にしか任されない。


終わった、と泣き始める者まで居た。


「そりゃ、威力不足とまで言われたからには」


「いつかリベンジを、という訳か。男の子だな、うむ」


ヤスヒロは軽く言葉を交わした後、協力を感謝するとデンスケに告げた。


「この者達は強盗、強姦の常習犯でな……少なくない数の使い手が犠牲になっていたんだ」


マスクをした黒尽くめの男達。その一団らしき者が動くという情報があったという。以前から自分と仲間達で網を張っていた、とヤスヒロは怒りの顔で襲撃者を睨みつけた。


「これでようやく、組合としての面子を守ることが出来る……君たちには囮のような真似をさせてしまったな」


「いえ……実害は無かったし」


「こちらも、間に合ってホッとしたよ。それとなくだが、副長から君たちのことを頼まれていたからね」


「……あのオッサン。あの老け顔で照れ屋かよ」


似合ってねーの、とデンスケが苦笑する。


ヤスヒロも苦笑を返し、そういえばと顔を上げた。


「副長から、言伝があってね……個人的なものだから、少しこっちに」


真剣なヤスヒロの表情にデンスケは頷き、隣の部屋へと移動した。デリケートな情報のため、仲間であっても聞かれる訳にはいかないと階下へ移動する。


4階まで降りたヤスヒロは、ここでならと立ち止まった。


デンスケも同じく立ち止まり、ヤスヒロの顔を見て訝しげな表情になった。


何かとんでもないものを見た、という表情と視線がヤスヒロの顔に浮かんでいたからだ。それが自分の背後に向けられていたことから、デンスケは咄嗟に振り返った。


だが、そこには何もなく。


改めて向き直ったデンスケは、自分に向けて振り上げられた巨大な戦斧を見た。



「―――砕けろ」


















項垂れていたマサシ達は、驚きにうろたえた。ビルが大きな衝撃を受けて揺れ始めたからだ。


部屋の中には、2種類の者が居た。地震かと思い焦る者と、口元を緩ませる者。それが3種類となったのは、揺れが収まった直後のことだった。


「……どういうつもりかな、お嬢さん?」


アーテは答えない。無言のまま、心石による障壁を全方位に展開していた。


ドーム状になった白い光の中心で、アーテは男たちを真っ向から睨み返していた。

















「……回避される可能性は考えていたよ」


優しい声でヤスヒロは言う。それも無駄だがな、と笑いながら。余波で舞い上がった埃の中を、迷わず前に歩く。


「商店街で……よりにもよってあいつらに喧嘩を買った時は焦ったが、収穫もあった。それなりに体術が優れているという情報だ」


ヤスヒロは奇襲の一撃を回避された時のことまで考えて、対策をした。床に打ち据えた戦斧が爆発し、周囲を余波で薙ぎ払う。これで、弱い障壁しか張れない者が無事でいる手立てなど皆無。


予測の通りだと、ヤスヒロは隣の部屋まで吹き飛ばされ、血まみれで壁に背を預けているデンスケの姿を見下ろした。


「……遺言があるなら聞いてやる。せいぜい(さえず)るがいい」


「どうして……アンタが、オレを」


「決まっているだろう。資源は有効に活用されるべきだからだ」


簡単なことだ、とヤスヒロは言う。無能は灰に、有能は輝くべきだと。


―――故に30も過ぎて狩場に留まっている邪魔者は排除する。


―――故に無色で将来性もない者は打ち砕く。


―――故に素晴らしい資質を持ち、人品卑しからぬ女児は仲間にする。


簡単なことだ、とヤスヒロはデンスケに嘲笑を浴びせた。


「心配はするな。あの子は俺が大切に育ててやる。あれだけの素質、普通に成長をすれば地区内に名前が轟くだろう」


「そのために、オレを殺して奪うのか……幼い女の子を囲うために」


「害獣に恐れて逃げたお前の代わりにな。素直な子だ、まず疑わんだろう」


そういう事になるから心配はするな、と言わんばかりにヤスヒロは語った。心優しく素直だが幼い、日頃から感謝されるように仕込めば、という所まで。


そこに、アーテを慮る色はなかった。ただ、自分の役に立つことがこの上ない幸せになると確信している口調だった。


「それに……無能のお前にコキ使われるよりは、マシだとは思わんか?」


実際の所はどう思う、とヤスヒロが言おうとした時だった。


デンスケが立ち上がり、心石を剣の形に変えたのは。


呼応するように、ヤスヒロも心石の戦斧を大剣に変異させた。


「無駄な足掻きだ、貴様程度の力で俺の障壁は抜けんよ。ガスも少しは吸ったんだろう?」


ヤスヒロがすぐに仕掛けず、長々と話をした理由だった。勝ち誇った顔で、ヤスヒロの口元を緩っていく。


「それで、だ。先に質問に答えて欲しい所なんだが? ――分かりきっている勝負を始めて、お前が物言わぬ肉片になる前に」


大剣を構えたままヤスヒロが問いかけるが、デンスケは無言のまま答えなかった

ただ、身体のあちこちから滴り落ちる血を気にせず、腰だめに剣を構えたまま微動だにしない。


答えるつもりはない、と察したヤスヒロはため息をついた。



ぽた、ぽた、と血が落ちる音が静かに響き渡る。



そうして、ヤスヒロが小さく息を吸ったのが開始の合図になった。


―――シュッ、と風まで斬る音と轟音が響くのは同時だった。


それはレベルにして合計4となる、剛力と剣術が合わさった一撃。成り立ての新人なら5人はまとめて薙ぎ払えるだろう、鋭い一閃だった。


斜め上から放たれたそれは、鉄筋コンクリートで出来た床ごと爆砕した。貫通し、破片が階下へとばらまかれる。その余波が長年の土埃を舞い上げ、部屋は白い煙で覆われていった。


数秒後、白煙が晴れた先には血を流している者達が居た。


デンスケは先程と変わらない血まみれの格好で、ヤスヒロの後ろ側に立っていた。


ヤスヒロは振り抜いた格好のまま、驚愕の顔で脇腹に出来た斬り傷を抑えていた。



「これが答えだ―――クソ野郎」



デンスケの剣についたヤスヒロの血が、振り払われることで地面に散らばり。



直後にヤスヒロが発した獣のような雄叫びが、殺し合いを再開する合図となった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ