ミッション ドールのダンジョン9階層を攻略せよ。
第8階層は蛇のステージだ。30センチぐらいから3メートル以上はあっただろう長さのヘビがごちゃ混ぜに出てきている。
「カレンさん!」
「ファイア、ファイア」
「カレンさんー。あっちにも!」
「ファイア!」
フランシスカさんとジェシカさんが必死になって、指差しているのは通路の遥か遠方のヘビだ。気持ち悪いかどうか分かる以前の距離だ。
それでも市松模様の床に違和感を見つける様に、どんどんと探し出して殲滅していく。そんな彼女らには塵ほどの隙すら見当たらない。
俺はただ歩いていくだけのダンジョン探索を続けながら、横を歩くマリリさんに声をかける。
「マリリさんは大丈夫なんですか?ヘビ。」
「好きでは有りませんが、タリリが子供の頃良く捕まえて見せに来ましたから、もう慣れましたわ。」
「なっ?!マリリが喜んでくれるから、触りたくも無いヘビを捕まえて来たんだぞ!」
「え、そうだったんですか。」
こんな所で姉妹の長年の勘違いが露見しているが、その為に姉妹の会話がヒートアップして完全におれは会話の外に置かれてしまった。
だから次の獲物を求めて、歩く速度を緩めて後衛へとスライドして行った。そこには両手で巨大な盾を構えて歩くエイミーさんとヨナーちゃんがいた。
「ヨナーちゃん、疲れて無い?」
「大丈夫、荷物無いから。」
「そう?」
本来なら王女様なのだから、「ちゃん」じゃいけないのかもしれないが、もう呼び慣れてしまった。しかもハムスター族という獣人の所為なのか12才にも関わらず見た目は6才児ぐらいに見えるから仕方ない。
彼女も俺と同じポーター扱いで、手には俺と同じラウンドシールドを持っているが、サイズ感的にまるで別物の様に見える。
基本的に彼女は静かだ。ミカンちゃんといる時に喋っているのを見るぐらいだ。彼女は会話には興味が無いのかそれ以降は黙って歩いている。
「エイミーさん、さっきは助かった。」
「エヘヘ、そうですか。」
「ああ、あれを防いでくれなかったらやばかった。」
「いえいえ、そんな。」
「カケル、私も褒めて。」
違ったようだ。ヨナーちゃんが珍しくそんな事を言って来た。しかし困った何を褒めるべきか。
「ヨナーちゃんは、私よりずっと凄いよ。こんなに小さいのに偉いよ。」
俺より先にエイミーさんが褒めているが、その褒め方だと俺の入る隙が見当たらない。しばらく悩んだ結果同業者としての話題を振る。
「ヨナーちゃん、コイン何枚拾った?」
「5枚。」
「お、俺は3枚だ。頑張ってるな。」
このパーティにはコイン拾い要員だけで3名もいる。最近はジェシカさんが率先して拾いに出ている為に俺たちはこんな数しか拾って無い。寧ろなにもしていないとも言う。
「もっと褒めて。」
「んー、そのコインだって俺やジェシカさんは暗くてつい見落としてしまったのだろ。それが見つけられるって凄い事だぞ。」
「みんな出来てた、凄い事?」
「ああ、俺たちには灯りが無いと見えないんだ。ヨナーちゃんは凄いぞ。」
「良かった。」
「ヨナーちゃんは十分役に立ってる。」
ちょっとだけホッとした様子のヨナーちゃんを見ていると前方から声が掛かった。
「ボス部屋よ!準備して。」
「ああ、今行く。」
豪華な扉には「8階層 ボス部屋」と書かれている。その前に集まったみんなを前に攻略本を読み上げる。
「ボスはヒュドラだ。頭は全部で4つの場合が多いって書いてある。」
「ヒュドラってヘビよね?」
「いや、トカゲだろ?」
カレンは八岐大蛇を想像して、俺は4つ首のドラゴンを想像している。このダンジョンは人の予想を覆してくるから案外イソギンチャクのヒドラを出してくるかもしれない。
「どっちでもファイアで燃やしてくれ。奴の首は切っても叩き潰しても再生するはずだからな。」
「そうなの?そんな事書いてなかったわよね。」
確かに攻略本には首を切り落としたら、傷口を火で焼いて再生するのを防げとは書いてなかった。今もう一度、カレンと確認したから間違いは無い。
「まぁいいわ。やる事は同じよね。」
「そうですわね。」
「今後の為にも、先ずわたくしがしましょうか?」
「首が増えて、強くならないか?」
「それも含めて確認致しませんか。」
皆が頷くのを見てカレンは決心したようだ。
「フランシスカさん、お願いね。」
「はい、承りましたわ。」
そしていま俺たちの前には、ギュッと圧縮された木塊が転がっている。それを俺は靴の裏で押すように蹴っている。
確かに火を使わないで倒しているが、まさか首を切り落とさないとは思わなかった。これは検証になっているのだろうかと疑問に思わない訳でもない。
「問題無しね、フランシスカさんありがとう。」
「いえ、このくらいどうって事は有りませんわ。」
どうやら俺以外は納得している雰囲気なので、空気を読める俺はヒュドラだった木塊を力を込めて踏みつけた。
9階層へ続く階段を降りながら、攻略本を読み伝えていく。
「9階層は腹話術の人形で、言葉に惑わされるなと注記があるな。」
「腹話術ってなんですかー。」
「腹話術ってのは、人形使いの人がさも人形自身が喋っているようにする技術だな。」
「じゃあ、人形と人形使いの人形が出て来るんですかー?」
「もう、何が何か分からないわね。」
そして良く分からないまま、9階層に足を踏み入れた。相変わらず白黒の通路を進むとローブを来た猫耳で赤い髪の人形が歩いて来た。
「アンタ、大好き!みんなもだーいすき!ファイア、ファイア、ファイアー!」
「ぎゃああああー!」
「え?」
「ストーンウォールです。」
「ストーンウォール」
ファイアとは名ばかりのファイアボールが3発飛んで来たが全て岩の壁に遮られていた。
「アンタ…。」
再度、声が聞こえ掛けたがゴウと火柱が上がり腹話術人形を灰に変えていく。ハアハアと顔を真っ赤にしているのはウチのパーティの猫耳の魔法使いだ。見た感じはかなりのダメージを受けている。
「タリリは騎士なんてふざけて無いで、もう少しお淑やかになってくれませんか。」
「レンちゃんなんて嫌いです。ベタベタしないで欲しいです。」
「カケルさんてエロイ癖にヘタレですよねー。」
「そうですわね、ヘンタイさんの癖に肝心な所で手を出さないなんて、返って失礼ですわ。」
ヤバイ、俺たちのパーティもどきがどんどんとやって来た。喋らす前に倒さなくては精神的にやられる。
自称騎士なんて、その場に跪いて動けないでいる。
ミカンちゃんはカレンに必死に違う事を両手を振って意思表示をしている。それを見ているカレンの目が滲んでいるのは、どちらのミカンちゃんの所為なのか分からない。
「あれ?あの私、間違ってませんねー。」
「わたくしは婚約者がいる身ですから、手を出されると困ってしまいます。できれば他の方にして頂ければ…。」
「カ、カレン!燃やしてくれ。奴らにこれ以上喋らせるな!」
「え、分かったわ。」
腹話術の人形は4体だった筈だか、火柱は10本ほど乱立していた。多少狙いは外れていても残っている人形は存在しなかった。
「厄介ね。」
「ああ、これは絶対に腹話術じゃない。ボス部屋に入る前に1つだけ頼みがある聞いてくれ。」
俺はみんなに説明をすると、ボス部屋を目指した。
この後も精神的なダメージを受けながらも9階層のボス部屋に辿りついた。
「ボスは案山子の大が1で小が3だ。床に落とし穴、壁からは矢が飛んでくるから注意が必要らしい。」
「案山子ね、腹話術の人形じゃないのね?」
「そうらしいな。けど言葉に惑わされるなと注記があるぞ。」
「まあ、いいわ。行くわよ。」
タリリと俺は扉を全開に開け放った。
(みんなその場で動かないで、小さい奴から倒すわよ。)
(はいー。)
(ストーンです。)
(ストーン!)
(フランシスカ、エアリアルスマッシュ)
(ファイア)
(このままで倒せそうね。)
「みんな、残りは直接叩くわ、行くわよ、遅れないで!」
カレンの声が響くとエイミーさんとヨナーちゃんが駆け出して行く。
(え?!)
(あの2人には聞こえていないのでは!)
少し走って誰も来てない事に気付いた2人がボス部屋の中で振り返るがその足元からカチッと音がしている。
(ストーンウォール、ストーンウォールです)
(アースステップ、アースステップ)
正解はミカンちゃんだったようだ。左の壁から飛び出して来た矢は壁に弾かれて床を転がっていった。
「戻って来て!さっきのはアイツの言葉よ、騙されないで!」
その言葉で彼女達は顔を見合わせた後に、通路へと引き返して来た。
(アンタ、ジェシカさん、その子達を捕まえておいて!)
(了解でーす。私エイミーさん取った。)
ジェシカさんはそのままエイミーさんにガバッと抱きついた。エイミーさんは突然身動きが取れなくなって焦っている。
仕方ないので俺はヨナーちゃんの手を握った。ヨナーちゃんはじっと俺の顔を見上げてきた。
俺たちが2人を確保すると、部屋の中に魔法が乱れ飛んだ。可哀想なぐらいに案山子の人形が千切れ飛んでいく。
「ごめんなさい。」
カレンは2人に謝っている、もちろん俺もだ。
「いや、俺の説明が悪かった。2人にも伝わっているものだと思っていた。」
俺の先の説明では、ボス部屋では喋らない事。指示は口頭では行わない様にとお願いしていた。もちろん口頭以外のテレパシーでと言う意味だったが使えない2人には正確には伝わらなかった。
「カレンさん、10階層の始まりの部屋でこの件について話合いの必要が有りますわね。」
「そうね、ジェシカさんの事もきちんと説明したいしね。」
ボスを倒した事で全ての落とし穴と矢が一気に作動しており現在は安全だ。ただ、接近戦で倒していた時には矢が四方八方から一斉に飛んでくるのでボス戦よりも場合によっては負傷者が出そうだと思いながら10階層への階段を降りて行った。
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