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ミッション ベリス辺境伯に会え

時刻は昼過ぎ、それぞれの役目を終え新居に集まり簡単な食事を取ろうかとしていた時だった。

まるで監視されていたかの様に、全員が商店街の家に集まった瞬間にそれは始まった。


「カレン並びにパーティ一同に告ぐ、国家反逆罪の疑いにより強制的に連行する。出てこない場合には命の保証は無い。」


「え?!」


タリリが咄嗟に窓辺に走り、声の主を覗き見ている。その眉間には深いシワがあった。


「駄目だ、包囲されてるぞ。」


「どうして先手打たれるのよ?」


「あの情報提供者でしょうか。」


「あの方には領主相手と伝えていますが、金づるのわたくし達を売りますでしょうか?」


「そうね、領主がそれ以上の報酬を弾めば分からないわね。」


「おい、そんな話をしてる余裕はないぞ!」


ドンドンと扉が破られようとしている。どうする?強行突破するか?


「カレンさん、辺境伯相手に出し惜しみは出来ません。ここはドールへ跳び、領主邸を強襲致しましょう。」


フランシスカさんはカレンへそう提案する。エイミーさんなどはこの状況に戦々恐々としている。ヨナーちゃんはミカンちゃんに連れられて部屋に戻った様だ。


「みんな、集まって早く!」


「はーい!」

「はいです。」


「フランシスカさんの案で行くわ、跳んだら直ぐに辺境伯を目指すから離れないで!」


今頃、兵士達は扉を破って侵入している頃だろう。ただ全員が入ったのを確認して突入したにも関わらずもぬけの殻の為に地下室や屋根裏まで捜索するだろう。


「あの兵士達、あんまり部屋を荒らさないでくれますかねー。」


「はいです。」


「私はこれね。」


「わたくしは特にありませんわ。」


ドールのダンジョンを出て、領主の元へ走りながらもジェシカさんのポケットにそれぞれの荷物をしまっていく。


ミカンちゃんはアルルちゃんのお姫様の縫いぐるみだ。ヨナーちゃんもクマのぬいぐるみを渡している。カレンは日記だ絶対に開くなと言われた。


一番大事な物は持ってきたようだが、それでも私物は部屋に残して来ている。みんなそれが心配のようだ。


息を弾ませながら領主の屋敷の門が見える所まで来た。後は門までは一呼吸程度の直線だけだ。


「止まって!」


「ご安心を、争うつもりは御座いません。当主より丁重に案内せよとのご命令です。」


カレンの制止に従って立ち停まると、建物の陰から執事が現われて行く手を遮られた。後ろを振り返ると見張られていたのか民家からゾロゾロと兵士が出て来る。


「完全に囲まれましたか、自由を奪うつもりは無いようですから、ここは従いましょう。」


確かに兵士達は拘束する訳でも無く、遠巻きに包囲しているだけだ。カレンも含めて皆がフランシスカさんの案に従い執事について歩き出した。エイミーさんはもう真っ青な顔をしている。


「こちらの馬車にお乗りください。お屋敷までご案内致します。」


執事の目の前には2台の馬車があり、それに分乗するように準備がされていた。俺たちが徒歩でここに来る事がまるで分かっていたかの様に。



俄然連行中の馬車での会話だ。


「丁度良いわ、あんな所まで走って行ったら戦う前に疲れちゃうから。」


「カレンさん、随分と余裕ですわね。」


「フランシスカさんもですよ。あ、ありがとうございます。」


ジェシカさんはフランシスカさんの提案で、エプロンのポケットから取り出した水筒から紅茶を注いで回っている。


こっちの馬車はそんなかんじだが、向こうは大丈夫だろうか?


「ど、どこまで行くんですか?」


「上です。」


「だ、大丈夫ですよね?」


「ミカンと私から離れるなよ。後はカレンが集まれと言ったらどんな状況でもカレンの元へ走れ。」


「はい。」


「分かった。」


こちらの馬車にはタリリ、ミカンちゃん、ヨナーちゃん、エイミーさんが乗っている。最近はミカンちゃんがカレンから離れ2人の面倒をよく見ているらしい。


馬車は木々の間の石畳の道を進んでいく。特に襲撃を受ける事も無く進んでいるのが逆に心配になるが、この馬車の女性陣は図太いのか未だに寛いでいる。


「そろそろね、ジェシカさんありがとう。」


「ご馳走さまでした。」


馬車が屋敷の前のロータリーに到着すると、ゆっくりと止まる。そこにも兵士の姿は見られずに先程の執事だけだ。その男の先導で屋敷の中を進んでいく。


無表情で歩くヨナーちゃんの横でキョロキョロと不安げにしながら歩いているのはエイミーさんだ。


そうして俺たちは長いテーブルの有る食堂に案内された。その再奥席にはベリス辺境伯がシャツにスラックス、胸もとに大きめのリボンの様なタイをつけて座っている。


「さあ、席に着きたまえ。」


「失礼します。」


ここでの話は領主とフランシスカさんで進んで行っている。領主の元にワインが注がれ、それがフランシスカさんにも注がれていく。


そして領主がエルフにも関わらずに、肉を使った前菜が運ばれて来る。


そのどちらにも領主以外は手を付けない。タリリですら神妙な面持ちで領主を見ている。


「フランシスカ嬢、そのヨロイは気に入ってくれたかな?」


「はい、大変良いものを頂きました。」


ヨロイの胸元を見て、ハハと乾いた笑いをした領主は俺たちを見渡した。


「皆さん、緊張されているようだから。要件を言おうか。」


「申し訳なかった。」


思わず耳を疑ってしまう。今彼女はなんと言ったのか?申し訳なかったと言わなかったのか。その驚愕は俺以外にも確実に伝わっていた。


「はい?」


「我を忘れてしまったんだ。君らも経験者なら分かるだろう。」


「経験者とは?」


「君らはこの力を移動に使っているんだろう?昨夜は王都の近くに居たのに今はもうここにいる。試しに君らの屋敷を包囲させたよ。50人の兵士に周囲を見張らせてね。」


「ああ、安心してくれて良い。屋敷の中は荒らすなと指示してある。」


フランシスカさんの視線をマトモに受け止めたままで彼女は言葉を紡いでいく。


「それなのに君らはここに居る。どう言う事だろうね。それは私のチカラと同じなんだろ?」


「…。」


フランシスカさんはジッと見つめたままで、自らは訂正しないようだ。


「フッ、沈黙は肯定と取らしてもらうとしよう。」


「例の物を」


領主の言葉でメイド2人が木製の箱を持って来た。

小さな箱から並べられていくのは黒い魔石だ。

大きい箱から取り出されているのは黒い腕輪だ。


魔石が10個に腕輪が5個、フランシスカさんの前に並べられた。


フランシスカさんは姿勢を保ったまま、ジッと領主を見つめている。


「それで全部だ。好きに処分してもらって構わない。もっとも腕を通しても保障はしないぞ。ハハハ。」


しかし、その笑いに釣られて笑う者はいない。


「で、私はもう実験もしないし、精霊石も作らない。約束しよう。」


「精霊石も作らないと?」


「ああ、そうだ。そこのエイミーだったか、母上の事、誠に済まなかった。スラムでの亡くなった者達にもそれ相応の処置はする。」


「あ、いえ。そんな。」


エイミーさんは突然、振られた謝罪態度もあやふやになってしまっている。


フランシスカさんは膝の上で手をぎゅっと握ったままで、彼女を見つめている。


「領主様、1つだけ宜しいでしょうか?」


「構わない。」


「どのようにして、わたくしが王都にいるとお分かりになったんでしょうか?」


「風の精霊の帰りが遅かったからな。何処へ行っていたのかと聞いただけだ。」


「それで…。」


おかしい契約で話せない筈だ。それぐらいは大丈夫なのか?しかし、フランシスカさんとカレンの様子が変だ。


「頑なに口を割らないから、精霊石で強引にな。4個も使ったよ。」


フランシスカさんは少し震えながら口を開く。


「それでその精霊は?」


「ああ、彼女は親切に君たちのその腕輪の事や私の精霊石の事を全部話してくれたよ。もう彼女はいないがね。」


「契約の事は精霊は言わなかったんですか!」


「いや、契約を破って喋ったら消えてしまうと訴えて来たな。」


「それなのに!」


「ああしかしだな、私以外にこのチカラに気付いている者についての情報には変えられないよ。まあ、風の魔法が使えなくなったのは君らの希望でもあっただろ?」


「そんな事で精霊を?」


「私の物なんだから、そう感情的にならないでくれないか。」


「…申し訳ありません。」


「これでも私は君らに感謝しているのだよ。君らが隠しているそのチカラで気付かせて貰ったからね。」


「何を…。」


「おい、ここへ。」


執事とメイドか台車を3台押して入室してくると、領主の横に置いた。そして覆っていた赤い布をそれぞれが取り、畳んで持ち帰っていく。


そこに残されたのは山の様な黄金に輝くコインと所々に見える白色は白金貨だろう。


このコインの意味を正確に理解していないのは、エイミーさんとヨナーちゃんだけだろう。俺たちはそのコインの量で領主が途方も無い奇跡を叶えようとしているその事実に驚いていた。


「コインのチカラは精霊石如きを作る為の小さなチカラでは無いんだろ?まさにどんな奇跡をも叶えられる神からのギフトだったわけだ。」


領主は椅子から立ち上がると、部屋に響く声で高らかに宣言する。


「フランシスカ嬢、本当に感謝している。君らギフトマインナー、コイン採掘者は最高だ!」

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