ミッション 孤児をさがせ
リーリオの街のスラムは城壁と農地間の僅かな場所にあり、その大半は南門と西門の間に存在している。前回マリリさんと捜索したのは西門の周りだ。
ニーがいるのは南門だ。こちらは王都とリーリオを結ぶ主要な街道と繋がっている為にそこを通る旅人を良い意味でも悪い意味でもスラムの人々は狙っている。
翌日エリスさんを見舞ったあと、西門から離れ南門へと来ていた。この街道は馬車の通りも多く街中へ向かう馬車は城壁内とは思えない速度をだしている。
西門とは違い農場を貫くこの道の両側には屋台が立ち並んでいる。ここの屋台の内で平民街に住む人が商っている所は開門と同時に始めて、日が沈み閉門となると屋台の台車を引いて平民街へと帰っていく。
そのまま帰らない屋台がスラム街の営む屋台だ。尤も屋台を準備出来る人は未だ良い方だ。一般の家庭の主婦は肉の切れ端や廃棄間際の野菜を安く買い、それを調理して大皿やボールに盛り付け、軒先で取り分けて売り、小銭を稼いでいる。
小学校高学年ぐらいの少女は男から木製のコップを受け取ると大皿から、取り分けて男の客に渡している。男は鉄貨を渡すと料理を食べながら去っていく。
「はい、どうぞ。」
「おお。」
母親が下の子を面倒見ている時は、替わりに子供も軒先で手伝いをする。そんな光景が良く見られる。
カレン達は街道沿いの屋台をすり抜け、スラムへ入っていく。朝が早い事があり、各家庭の軒先屋台も結構な数が出ている。
そんな中に幼い子供達が3人並んで店番をしている軒先屋台をカレンが見つけて、テレパシーで話し掛けて来たので接触する事にした。
「こんにちは1杯貰えるかしら。」
カレンはそう言うと腰にぶら下げているコップを差し出した。
「鉄が1つ。」
「はい、どうぞ。」
「ん?」
スープを注いでいた少女が怪訝な顔をする。
「どうしたの?」
「スープを渡す時に必ず鉄を貰う。渡した後だと鉄くれない人がいる。」
カレンがここでの常識外れなスープを貰う前に、代金を支払うという事をした為に少女はどうしていいか戸惑っているようだ。
スープを渡すタイミングが分からず、おずおずと両手で渡してくる。カレンはそれを受け取るとグイッと飲む。
俺はこんな何が入っているか分からないスープなんて絶対に飲みたくない。頼まれてもしない。
薄らと塩味がするだけの、僅かに野菜クズが浮いたスープをカレンは笑顔で飲み干した。
「うん、美味しいかったわ。」
「お姉ちゃん、ありがとう。」
「ううん、みんなはお父さん、お母さんいるの?」
「え?いないよ、ラカカおばちゃんだけ。」
「ラカカさん?」
「うん!」
「アンタ何の用だい?」
すると腰を屈めて会話していたカレンの頭上から、声が浴びせられる。そこにはお玉を持った巨人族の50才近い女性がいた。
「教会から孤児達の保護に来ました、カレンです。」
「後ろはお仲間なんだろ?話を聞きたけりゃ飲みな。」
マリリさん、タリリ、ミカンちゃん、ヨナーちゃんはスッとコップを出したが、フランシスカさんはコップを持ったまま震えている。俺はコップも持たずに固まった。
「そこのお嬢さんはどうしたんだい?」
「わたくしは先程食べて来ましたので、わたくしの分はこちらの男性が2人分頂きます。」
(え?)
(ごめんなさい、カケルさん。)
(お、おう。ちょうど腹減ってたし、サンキューな。)
俺がコップを差し出すと、並々とほぼ透明な液体を注がれた。
代金はマリリさんが纏めて支払っている。
「美味しい。」
「…。」
ヨナーちゃんは奴隷時代の食生活が想像できる感想を述べている。ミカンちゃんは無言を貫いている。
「ご馳走さまです。」
「運動した後には丁度良いぞ。」
なんだタリリその感想は只の塩水って事か?最悪マリリさんのヒールとキュアの世話になろうと覚悟を決めて一気に煽る。
「美味しい?」
飲みかけている時に売り子の少年が、上目遣いで俺を見つめている。その目は薄い塩水を売ってボッタくろうとしている目では絶対に無かった。
あの目は俺も良くする、腕によりを掛けて作った料理をカレンやミカンちゃんに食べて貰う時だ。
うん、味は塩水だ。集中すれば野菜を感じられる程度だ。だけど彼は自分も満足に食べられていないのに我慢して彼らのできる最大限のスープを作っているのだろう。
「ああー、飲んだ。美味かったぞ。」
3人の子供達にグッと親指を立てて称賛してやる。
すると、子供達は空になった鍋を持って奥に消えて行った。
マリリさんが代表して会話を始めた。
「貴女が子供達の面倒を?」
「ああそうだよ。みんな親の無い子でね。」
「この子達を教会の孤児院に預けられませんか?」
「好きにするがいいさ。」
「出来れば、あ」
きっとマリリさんは貴女も一緒にと言い掛けたのだろう。しかしそれは目の前の女性の手で遮られた。
「およし、そんな事したら収拾が付かなくなるよ。」
「…。」
「アンタは私の心配に加えて、この子らがついて来るのか不安なんだろ。この子らはそんな柔じゃないね。」
「…。」
マリリさんの悲痛な表情は変わらない。しかし巨人族のラカカはマリリさんを目を細めて見つめている。
「どうせね、ダンジョンや魔物がこの世から無くならない限り親を失う子は無くならないよ。だから私はここで今まで通りにやって行くよ。」
「申し訳有りません…。」
「アンタがそんな気を使う必要は無いよ。まあ、その気が有るならちょくちょく様子を見に来てくれれば助かるよ。アンタなら預けられそうだ。」
「ありがとうございます。」
「ここまで入って来たのは、聖女様とアンタ達だけだよ。いつもは外から眺めているばかりだからね。」
「ウル、ジナ、リリ、ユナ、ラッシュ全員来な!」
「なぁーに?」
「今日からアンタ達は教会で暮らしな、私は疲れたからね。もうアンタらの事なんて知らないよ。ホラ行った行った!」
「「え?」」
「捨てられるの?」
「ラカカおばちゃん?」
「…。」
突然の事に最年長のラッシュ以外が火が付いた様に泣いている。カレンとマリリさんはそれでも手を繋いでスラムの外へと歩きだしていく。
後には俺とフランシスカさんが残った。
「さて、本題に入らせて頂きます。」
「急になんだい?」
先程までのカレンとマリリさんとは雰囲気が変わりラカカは慌てている。
「西門の孤児を纏めていた、エリスという少女がいます。彼女はある人物から装着すると死に至る魔道具を渡されました。」
「自分の命欲しさにそれを外したらこの街の孤児全員を税金未納の罪で捕らえると脅されています。」
「貴女は大丈夫ですか?このスラムから出られない本当の訳をお話し下さい。」
(え?エリスさんの話だけじゃない?)
(フランシスカさん、それって?)
「先程の話は本当だよ、この腕輪が無くてもここから出るつもりは無いよ。」
「風の精霊さん!どんな呪いか教えて下さい。」
「おはよー。」
風の精霊は風に乗ってどこかへ飛んで行った。
「あら?」
「それなら、光よ出番だ!」
「おはよー。その呪いだよねー。」
「「ここから離れたら駄目な奴ー。」
「私の見てたー?あそこまでだよー。」
どうやら風の精霊さんは、この呪いで移動できる範囲を教えてくれていたようだ。フランシスカさんは素直に謝っている。
「ごめんなさい、てっきり遊びに行かれたと。」
「もう、フランシスカはー!」
風の精霊は腕を組んで怒っていたが、仕方ないなと言い残してまた飛んで行った。今度はフランシスカさんはその姿をじっと追っていた。
「ありがとうございます。」
そうしてフランシスカさんはラカカに向き合うと
「使いの者が出した条件はなんでしょう?」
「そんな事まで分かってんのかい。スラムはこの街の景観を損なうから無くしたいんだとさ。それでこの腕輪を外したらスラムが火事になるかも知れないって言われたよ。」
「ラカカさん、私達に出来るのは孤児達の救出だけです。」
「ああ、分かってるよ。」
「ですが、こんな密集地で火の手が上がれば、親のいる子もいえ、この地の住人全ての命に関わります。」
「ああ。」
「わたくしにはその腕輪の呪いを解く力が有ります。ですが貴女にもエリスさん同様ギリギリまで犠牲になって頂きます。」
「綺麗な顔が台無しじゃないか。」
「申し訳有りません、ごめんなさい…。」
フランシスカさんは泣いてはいないものの、その悲痛な表情は彼女の心を表していた。
「孤児を見つけたらここに匿うか、エリスさんのところに行かすよ。それでいいね。」
「はい、よろしくお願いします。」
フランシスカさんと俺は教会への道すがら、テレパシーにてラカカさんの状況を報告した。
「腕輪いくつあるんだよ。」
「こんな数の精霊石がある事自体が異常な事です。」
「精霊石1つで金貨100枚だろ?見つけただけでも300枚だ。金持ちだな。」
「すみません、情報を集めて頂いている方に追加で依頼しますので寄り道をお願いします。」
俺とフランシスカさんは金貨を渡して孤児を探してもらっている男に会うために再度スラムへ向かった。
「おう、約束は明日だぜ。」
「はい、追加で調べて頂きたい事が有ります。」
「急ぎか?」
「緊急かつ、内密に。」
「どんな要件だ?」
「この腕輪と同じ腕輪をエリスさんとラカカさん以外で誰が所持しているのかを調べて下さい。」
「危険性は?」
「バレた時はここは火の海でしょう。くれぐれも慎重にお願いします。」
「脅すのか?」
「いえ、ラカカさんから伺った事実です。」
「マジなのか。」
「最前は尽くしますが、敵は領主ですので悟られたら終わりですわ。」
「おい、おい。マジかよ。お前ら何者だよ。」
「ただの採掘者ですわ。」
「俺はただのポーターだ。」
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