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ミッション エリスを救え

その少年の家と言うか、住処は家と家の細くジグザグとした隙間をしばらく進むとあった。


薄い板の壁を立て掛け住処を直している小学生以下の小さな子供が5人いた。男が2人で残りは女の子だ。奥から少し背の高い少女が出てくると、少年の名前を呼んだ。


「アラン!」


「「アランにいちゃん!」」


その声に先導する少年に子供達が駆け寄ってくる。

俺たちがいるせいか、すこし遠巻きに見守っている。


「これで全員ですか?」


「ああそうだ。」


マリリさんは手で俺たちを少し退がらせる様に合図をして、独りで子供達の方へ歩いて立ち停まる。


「すみません、先程の男性が乱暴を働いたようで申し訳ありません。治療しますのでそちらへ行ってもよろしいでしょうか。」


「アランにいちゃん、その人大丈夫なの?」


「分からない、けど俺を治してくれた。」


「じゃあ、やる!」


男の子が手を挙げるとほぼ全員がマリリさんの前に集まってヒールの魔法を受けだした。


マリリさんは1人目の治療が終わると、カレンを見て頷いた。


「はい、きちんとケガを治した子にはご褒美が有るわよ。はいどうぞ。」


少年はカレンから袋に包まれたハニーロールを渡された。


「あっ!これっ?!」


それ以上喋るのも、もどかしそうに乱暴に包みを広げるとかぶり付いた。


「なんだこれ腹が膨れないぞ?けど甘くて美味え!」


その感想に治療待ちで並んでいる子達に響めきが起こる。


「沢山あるから大丈夫よ。慌てないで。」


居た堪れない表示をした女の子もいる。きっと食べた事が無いんだろう。その目が少年の口元から離れない。


「はい、アランアンタも。」


カレンはここまで案内してくれたアランにもハニーロールを渡している。それを旨さの余り一口で食べてしまって、再びカレンを見た。


「猫のお姉ちゃん、シスターのお姉ちゃんありがとう。」


「どう致しまして。」


「どう?美味しいかった?」


それぞれが満面の笑みで回答してくる。


「それじゃあ、お姉さんのお願いを聞いてくれないかな。」


「何?」


「辞めろ、聞くな!」


素直な女の子がその子よりも小さな男の子に注意されている。


「教会の孤児院で暮らすつもりは無い?、ご飯もお友達もいっぱいいるから。」


「これからの季節とても寒くなります。教会には毛布も暖かい服も有ります。」


「牢屋に入れられない?」


「奴隷にされない?」


「ご飯たべられるの?」


「辞めろって、駄目だって!エリスお姉さんみたいになるぞ!」


「じゃあ、エリスお姉さんも治して貰おうよ。だってあのおじちゃん、エリスお姉さんと同じだよ。」


小さな男の子が俺を指差していう。


「何が同じなのですか。」


マリリさんが会話を少しでも繋げて、打ち解けようと男の子の話を拾っていく。


「腕輪!」


「あ、ほんとだ!黒い腕輪だ。」


今度は俺たちが驚かされるとは思わなかった。


「どこ!!その子はどこ?」


カレンは目の前の子供の肩を掴むと、焦る余りに力が強くなる。


「お姉ちゃん痛いよ。」


「あ、ごめんなさい。」


「エリスお姉さんはあっちの子たちのお姉さんなの。」


そう言って1人の少女が指差す方向を見る。子供達の説明によると指差す方向にこの子達とは別の孤児たちの集まりがあり、そのグループの面倒を見てるのがエリスという名らしい。


グループ同士で仲が悪いと言う事は無く、エリスはたまにこちらのグループも様子を見に来ていたらしい。


「貴方達を教会に連れて行くのは後にするわ、今からエリスさんの所に行くから案内して。」


「治せるのかよ。」


「必ず治すわ、任せて。」


カレンは6人の子供達を引き連れ、エリスさんの元へ急いだ。闘鶏で賭けをしている広場を抜け、昼間なのに街角に立っ女性達の前を進んだ先にエリスさんの住処は有った。


スラムにしては珍しくまともな2階建の建物の脇に彼女達の小屋があった。それは大きさだけは広いが屋根もちぐはぐで壁の無いところがある。床は土の上に何処からか拾って来たシートが1枚敷かれているだけだ。


そんな小屋の1番奥に彼女は寝ていた。


「アランのにいちゃん、どうしたの?」


「おう、エリス姉さんはどうだ?お前ら飯食ってるか?」


アランは出迎えた少年の頭に手を置いて問いかける。その少年は置かれた手を乗せたまま、何回も頭を横に振っている。


「エリスお姉ちゃん起きないから、ご飯食べてない。」


少年の横に並んだ少女が少年の代わりに返事をした。


「アンタ、ナポリタンいける?」


「ああ、全部出すぞ。」


「お願い。」


俺は小屋の片隅のシートをめくり、土を出すとその上に携帯用のカマドを出して湯を沸かしていく。

背負い袋からパスタの束と俺自家製のトマトケチャップの瓶をだす。このケチャップに使っている砂糖と胡椒が少々値がはる。ただ胡椒と金が同じ値段とか言う事は無い。ちょっとした贅沢品程度だ。


茹で上がったパスタにケチャップを混ぜていく。もちろんタコさんウインナーも忘れない。


バレない様にジェシカさんから木皿とフォークを人数分受け取ると盛り付けていく。その最中に通行人が香りに釣られてのぞき込んで来たが、俺たちに気付くと出て行った。


「おかわりもあるから、ゆっくり食べるのよ。」


「アンタ、ミカンちゃんとヨナーちゃんにも上げて。」


「ああ、すまん。」


「カレンさん、わたくし達はエリスさんを見て参ります。」


フランシスカさんとマリリさんはタリリを伴って奥に入って行った。


「そこで寝てるのがエリス姉さん。前は起きれたんだけど。これ美味いな。」


アランは小皿いっぱいのパスタを頬張りながら、彼女達を案内している。


「エリスさん、エリスさん。」


マリリさんが肩を叩いて呼び掛けるが、返事も無く目も開かない。しかし呼吸は弱いながらもしっかりとしている。


「それでは失礼します。」


マリリさんはエリスさんの腕を捲り上げて、腕輪の存在を確認した。それは左腕の二の腕にはまっていた。外そうと力を込めたが外れない。


「ヒール」

「キュア」


「マリリさん、壊してしまいましょうか?」

「意識が戻ったようなので、理由を聞いてからにしましょう。」


「エリス姉さん、目が覚めた?」


「アラン?どうしたの。」


「姉さん、ずっと目が覚めないってガキどもが心配してたぞ。」


「え、いつから?」


「1にち!」


いつの間か寝床まで来た少女の1人が彼女が寝た切りだった時間を教えてくれた。


「初めまして教会から来ましたシスター、マリリです。今しがた回復の魔法を行使させて頂きました。」


「あ、ありがとうございます。」


「単刀直入に聞きます。その腕輪は誰から譲り受けましたか?」


「え?」


「貴女の体調不良の原因はその腕輪が原因です。何か心当たりは有りませんか。」


「別に有りません。」


「それでは仕方有りません。腕輪を壊させて頂きます。」


マリリさんの言葉で彼女は腕輪を守る様に身体を丸めると嫌々と首を振り続ける。


「ダメ!ダメよ!取ったらダメなの…。」


「取らないと貴女死にますわ。そうよね風の精霊さん。」


「ふわー。おはよう。」


「それを見て頂けるかしら。」


「えーと、うわぁ?大丈夫?ねえ大丈夫なの?」


「何が大丈夫なんですの?」


「この闇ちゃん、この人の命食べてるよ。」


「それも呪いでしょうか。」


「男の子に触った分だけ、食べられる。」


「聞こえたでしよう。」


「でも、これをあと2週間着けておかないとみんなが。」


「皆さんがどうなってしまうのですか?」


「税金を払って無い子供たち全員を牢屋に連れていくって女の人が。」


「どの様な女の人でした。」


「綺麗な馬車に乗った使用人です。」


「マリリさんどうしますか?」


「彼女の事を考えれば今すぐに外すべきとは思いますが、子供達考えると教会に避難させてからが安全と思われます。」


「異性への接触さえ防げは、危険は避けられそうですが。何事も完璧はありませんので心配です。」


「みんなを助けて下さい。お願いします。」


そこへジェシカさんがやって来た。


「私がここで見てますよー。」


「それでは私は今日から毎日、回復魔法を掛けに来ます。」


(もしもの時はポーションでの回復をお願いします。)


「了解ー。」


「では、エリスさん苦しいとは思いますが、この腕輪を取る事は致しません。その間に孤児達を教会へ避難させていきます。それが完了次第貴女を保護することでよろしいでしょうか。」


彼女は強く頷くと目を瞑った。その苦しみから耐えるために。


「辛いでしょうが、栄養と水分補給をして下さい。

ハニーロールを置いておきますのでお召し上がり下さい。」


ジェシカさんへポーター用の背負い袋を渡すと、俺は彼女から離れナポリタンのお代わりを作りに戻った。


「アランさん、くれぐれもエリスさんに男の人や男の子を触れさせない様にお願いします。そして他の子供達は教会へ向かいます。」


「エリス姉さんは独りなのか?」


「貴方と私達のパーティメンバーが1名だけ着きます。貴方にもこれを渡しておきます、くれぐれも他の人に見つからない様に。」


マリリさんはアラン少年にポーションを2瓶預けると彼を残して教会へ向かった。


俺たちは彼女が呪いに負ける前に、孤児達を探し出し教会まで保護する必要がある。あとは時間との勝負だ。ジェシカさんには再度彼女の意識が無くなった場合には問答無用で腕輪を即時破壊するようにマリリさんが念を押していた。

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