ミッション ドールのダンジョン5、6階層を攻略せよ。
「今からの5階層はパペット型モンスターの総集編だ。全種類が纏めて出てくるらしい。」
「アンタは無理しないでよ。」
「ああ、そうするよ。」
そう言う俺はショートソードは鞘に入れたまま、右手にはラウンドシールドを持つようにした。攻撃よりも防御を優先した。
盾2つ使い、二刀流にしてみたが、咄嗟のポーションやレーザーが出来なくなるデメリットのが大きく断念した。いや、させられた。
「残念な格好だから辞めなさい。鎧も重鎧だったなら偶にはタンク専用の採掘者でいるから止めないげど。」
「来たぞ!」
タリリが敵を見つけた。等身大のデッサン人形が両手にハンドパペットを嵌めて歩いてきている。その数4体。いや、12体なのか?
デッサン人形は挙げていた腕をこちらに振ると、ハンドパペットを投げつけて来た。ハンドパペットは歯をギラつかせながら次々と飛んでくる。
「ストーンウォール」
「ストーンウォール」
「ファイアウォール」
通路を塞きとめる用に3枚の壁が出来た。運悪く右の炎の壁に当たったハンドパペットは床で燃えている。
「エアリアルプレス」
「ファイア」
「ストーン」
「ストーン」
「確認するから、私のだけ消すわ。」
盾を構えたタリリの後ろに、カレンが隠れながら敵の残数を確認する。
「ファイア、ファイア」
「ファイア、ファイア、ファイア」
ハンドパペットが散乱していたらしく、意外にも多くのファイアを唱えていた。
しかし、次のパペットは更に大変だった。ハンドパペットを飛ばしてくるまでは同じだったがらハンドパペットの口の中に指人形が3体づつ咥えられていたのだ。
結局は3枚の壁に遮られ、こちらまでは飛んで来ないが下に落ちた指人形は小さくて見えにくく、討ち漏らしがあり、冷やっとさせられた。
今も俺の靴の下には指人形がいる。
「カケル、準備はいいか?」
「頼むぞタリリ、3からカウントするぞ。」
「ああ。」
「3、2、1…。」
ゼロと言おうとしたら、既に1の時点でタリリがショートソードを振り下ろしていたので咄嗟に足を上げた。
指人形はコインに変わっていくが、もう少しで俺の右足もコインになるところだった。
「そうか、0もあるのか。」
「いや、今度からはキチンと言うから。」
想像と違うモンスターの連携攻撃に戸惑いながらも、5階層のボス部屋に着きガイドブックを読み上げた所だ。
「ボス全部って書いてあるから、デカブツもいると考えていくわ。最初は開けると同時にウォールを展開して様子を見て攻撃よ。」
「ストーンウォール」
「ストーンウォール」
「ハーちゃんです。」
「ファイア」
「フランシスカ、エアリアルスマッシュ。」
巨大なデッサン人形が両手にハンドパペットを嵌めて、殴り掛かって来たがストーンウォールに阻まれている。動きを止めたデッサン人形にハーちゃんが攻撃していく。
別働隊の60体の指人形は大半がファイアによって焼失していた。中央にいた操り人形は空気の渦に巻き込まれて粉砕されていった。
ハーちゃんを退却させた後は、魔法の連打による暴風が吹き荒れた。5分後には既にモンスターの姿は無く銀貨と銅貨が床に散らばっていた。
「もう、4、5階層には来ないわ。」
「ああ、そうだな。」
「アンタ、デカイの見て顔引き攣ってたわよ。」
「クッ」
咄嗟に顔を背けるが、ニヤケているのが雰囲気で分かり腹が立つ。
「そこー。真面目にコイン拾って下さいよー。戦闘では役に立って無いんですからー。」
「ぐぬぬ」
「見せてやるよ!コイン拾いの真髄を。」
「ハイハイ、遊んでないで拾って下さいねー。」
今は6階層だ。目の前にはオークがいる。豚の顔に腹の出た人間の身体のオークがいる。装備は胴体のみのプレートアーマーを着て、手にはグレートソードを片手で持っている。
「どう見てもオークだよな。パペットじゃないよな。」
皮膚の色も感じもオークだ。木製には見えないし、目も鼻も口も牙もあるし、威嚇もする。
「ガアアアア!!」
人間なら両手で持つ必要がある剣を軽々と片手で振りかぶるとタリリ目掛けて振り下ろしてきた。
タリリは剣を頭上で左斜め下に切っ先を向け、オークのグレートソードをショートソードで受け流している。
オークの体勢がグズれたのを感じると、タリリは一歩踏み込むと、オークを袈裟斬りにした。
オークの上半身が床の上に落ちるが、下半身はそのまま立っている。
俺はオークが動かなくなったのを確認すると、下半身の切断面に手を当てて感触を確かめる。
「やっぱり木なんだよな。どうなってるんだ。」
オークの前にゴブリンやコボルトもこの階層には現れた。行動パターンも声も質感も全て俺のしっているオークだったり、ゴブリン、コボルトなのだが倒すと木製の人形になる。
もう、ドッキリかと言うぐらいに驚いたし、今もなお、信じられないでいる。
「この階層のボスはオークジャイアントだったわよね。」
「ピンポーン、正解です。」
「何よそれ、そのジャイアントはサイリサスのダンジョンの最下層のボスよね。」
「ピン」
「うるさい、初級ダンジョンの10階層のボスが6階層で出るって事からやっぱり中級ダンジョンって実感するわね。」
「カレンさん、どこまでにしますか?」
「そろそろいい時間よね、このボスで終わりにしましょう。」
「はーい。」
「了解ですわ。」
「了解です。」
このボスで終わりと決めた途端、ボス部屋までなんの障害も無くアッサリとついてしまった。まるで早く帰れと言われているかの様に。
「オークジャイアントが一匹、糸や指人形などのトラップも無し、いいわね。」
「ああ。」
「よろしいですわ。」
「ぴろりろーん!」
(ミッション ボス部屋の中の人を助けろ。 制限時間160秒)
「え?」
「カケル、早くです。」
「「ボス部屋の中の人を助けろ。」って内容だ。」
「ぐっ、先客がいるのは間違いないな。」
タリリが扉を開けようと、体重をかけるがビクともしない。
「どうする?収納を使えば、多分開られる。」
「けど、特別な力があるとバレるわね。」
「それは極力避けたい事例ですわ。」
「おっさんなら助けない、女性なら助ける。」
「アンタは欲望に正直でいいわね。」
「女の子だよー。おっさんは死んじゃったー。ポーターの女の子が1人だけー。」
精霊さんが俺が一番聞きたかった事を教えてくれた。
「良し全力で助ける!ジェシカさん頼んだ。カレン、フランシスカさん後始末は任せた。」
「え、ちょっと」
「お待ち下さい。」
「いつでもどうぞー。」
「収納」
ボス部屋と通路を隔てていた扉は消失した。その瞬間に壁際に追い詰められていた少女はこっちを見て、信じられないという表情をしていた。
「もう、アンタは! ファイアウォール。」
「お待ち頂こうと…。エアリアルプレス。」
オークジャイアントと少女の間に炎の壁が立つと、オークジャイアントは数歩後ずさる。
その隙をフランシスカさんは見逃さない。オークジャイアントは見えない力に両手で対抗するが先ず頭が潰れると、抵抗出来ずに30センチ程の肉塊になった。
その少女は壁際に座り込みガタガタと震えていた。
ボロボロのローブを着て頭までフードを被っている。
カレンが声を掛けようと近づくと、その少女は声を張り上げた。
「ああああああー!!」
そして採掘者の1人に駆け寄ると、その肩を必死に揺さぶった。
「ううああああー。」
今度はもう事切れている男の指を握ると、自分の首へ近づけていく。空いている左手で乱暴に首に巻いていた布を解く。
そこには魔石が7つ光る、奴隷の首輪がはまっていた。少女はその石に何度も男の指を擦り付けるが、首輪には変化が見られない。
カレンは彼女に駆け寄ると、膝をつき背後から抱きしめた。
「落ち着きなさい!」
「ああああああー」
「大丈夫だから、絶対に助けるから!」
「もう、時間が無いの!今日の夜で1週間だから!」
「大丈夫、ほら外れたから。」
「え?…。」
「カレンさん…。」
「良くやった。」
「ふふふ。」
呆気に取られる少女の前には、カレンによって外された奴隷の首輪があった。
「うわわああああーん。」
少女はカレンの抱きしめている両手を握り、顔を埋めると堰を切ったように再び泣き出した。
「あれ?」
俺は視線を上げた途端に声を出してしまう。
「どうしました?あら?」
俺が視線を上げていた事で、フランシスカさんもミッションの残り時間を見ようと視線を上げると、ミッションが完了していたのが確認出来た。ただし、残り2つ全てが。
「みなさん、時間の確認をお願いします。」
「ええ?」
「その子が?」
カレンも目を見開いて驚いていたが、少女が落ち着くまではそのままの姿勢でいた。
「タリリ、ミカンちゃん。準備して。リポップだ。」
俺の声にカレンとフランシスカさんを残したメンバーが魔方陣の前に集まるのに合わせて、魔方陣の光が最大に達する。
「ゴオオオー!」
普通のオークよりも2倍近いオークが雄叫びと共に現れた。その手には身の丈以上の巨大な棍棒が握られている。
「タリリ、エアリアルスマッシュ!」
「ミカン、エアリアルスマッシュです、です。」
「ストーン、ストーン、ストーン。」
「バンバンバン」
「ブターブーター!!」
タリリのショートソードがオークジャイアントの胸部のプレートアーマーを切り裂く。
ミカンちゃんのメイスが両脚を左右から粉砕し、膝から下を失ったオークジャイアントはうつ伏せに倒れ込む。
留めはマリリさんの尖った巨岩が3本、オークジャイアントの頭部へ突き刺さり、重さで押しつぶした。
俺のレーザーの魔法とジェシカさんの悪口は、既に木製のオークジャイアント人形に戻った後で追い打ちをかけていた。




