ドールのダンジョン1階層を攻略せよ。
「おはようございますー。」
「おはようございます。」
「お、おう。この前はありがとうよ。1人銀貨1枚だ。まけてやりたいが済まんな。」
このダンジョン警備の兵士さんはカレン達の顔を覚えていた様だ。
「いえいえー。」
「大丈夫よ、稼いでくるから。」
「それはそうか、頑張れよ。ああ、一応ランクを確認させて貰うぞ。」
そう言って兵士はカレンの顔を見た。
「ん?どうした。」
「無いわ。ノーランカーなの。」
カレンは兵士に両手を広げて見せている。
「本当か?ノーランカーなら最高でも19階層までしか勧められないんだが、あの手際の良さを見たらなあ。気を付けろよ。」
「ありがとう、けど予定は日帰りなの。そんなに深くは行かないわ。」
兵士に見送られながら、入口をくぐってダンジョンに入っていく。
ここはリーリオの街の北にある、ドールのダンジョンだ。北門からダンジョンの入口は見えている程の近場にある。
ダンジョンの入口に入ると、円形の部屋になっていた。その床は白と黒の床板が交互に並ぶ市松模様になっている。
ボフンと言う音と共に、煙の中からタキシードにシルクハットという出で立ちの等身大の人形が現れた。その木で出来た顔には棒状の鼻だけが付いていた。
どこからとも無く、オーケストラの演奏が聞こえてくるとタキシードの人形がお辞儀をした。
「ようこそいらっしゃいました。おや初めてのお客様ですか。」
のっぺらぼうなのに笑った気がした。
「そんなお客様でも、喜び、驚き、楽しんで頂けるアトラクションを多数ご用意いたしております。」
シルクハットを右手にくるりと一回転すると
「さあさあ、皆さまご遠慮なく、お楽しみ下さいませ。もちろんお代は満足されない場合には頂きません。どうぞ安心してお進み下さいませ。」
左手を伸ばして、シルクハットを前に持ち再びお辞儀をするとカタカタとその場に糸の切れた人形の様に崩折れるとボフンという音と共に現れた煙が部屋に充満した。
「うわぁ、凄い煙ね。」
「なにも見えませんねー。」
俺たちはそのまま煙のが引くのを待っていたら、2組程のパーティはその煙の中進んで行った。
「チッ、ファーストだったか。」
「ドールかよ、ついてないな。」
それぞれのパーティからはそんな言葉を投げかけられた。
「あの人形がドールらしいわね。」
「はい、あれが50階層のボスのドールですね。」
「あれ、ファイアで瞬殺出来そうだよな、わざわざ50階層まで行かなくてもいいかもな。」
「アンタは又そんな事ばかり、よく考えつくわね。」
しかし、マリリさんは首を横に振っている。
「先程の言葉から推測すると、ダンジョンに初めて入る時にだけ、あのドールが挨拶の為に現れると思われます。」
「それなら、街の人でも何人か集めればいけるだろう。」
「その都度、入場料が必要になりますけれど。試してみますか?」
「いや、マリリさん達が仕事の時にカレンが1人でやるそうですよ。」
「やらないわよ。ほら、先いくわよ。」
通路も市松模様だ、目がチカチカしてくる。そんな床の上に木製らしき操り人形か立っている。天井から糸で吊るされている様な動きで近づいてくる。その足元は床から20センチほど浮いている。
「タリリ、パペットの上を切ってくれ。糸はあるか確認したい。」
「タリリ、エアリアルスマッシュ。」
ショートソードから緑色の風が刃となってパペットの頭上を抜けていく。しかし、パペットは浮いたままだ。
「糸は無いようだな、そんな弱点あるわけで無いよな。」
そんな事を言ってると、パペットの茶色の目がこっちを見ると、パペットの前方に3個の石飛礫が出現すると勢いよく飛んで来た。
「タリリ、シールド!」
タリリが全ての石をラウンドシールドで避けた、ただそれだけだ。ラウンドシールドが光っていたなどと言う事は全く無い。
「フランシスカ、エアリアルスマッシュ。」
中衛のフランシスカさんはレイピアを突き出した。
その緑色に渦巻く風はパペットに当たると、パペットを粉々に粉砕した。
「なっ?!」
もちろん、驚愕の声はタリリだ。そこに新たなパペットがやって来た。走り込むのはミカンちゃんだ。
「ミカン、エアリアルスマッシュです。」
「なあっ?!」
パガンと音を立てて、黄色と水色の光が混じったメイスがパペットを粉砕した。
俺たちはタリリの驚きはそのままにして、通路を進んでいく。
次の部屋は四角形の部屋だ。出口近くの壁には1人の採掘者が足を押さえて蹲っている。
「おい。」
ファイアを唱えようとした猫の頭をポンと叩く。
「おい!」
レイピアを鞘から抜いたご令嬢の頭もポンポンの叩く。
「お前もか!」
箒を持ったジェシカさんの頭を手刀でチョップする。
「ちがうー。私もポンポンしてー。」
いや、俺はまだ字が読めないからダメージは無いが、この採掘者が無事が確認する為に、顔を覗き込むとそこには「見たらバカ」と言った悪口がマネキンの何も無い顔に書かれているらしい。
しかもこのマネキンがトラップのスイッチになっているらしく、少しでもさわると出口がしまり、10体のパペットが天井から落下してくると攻略の冊子に書かれていた。
もちろん、わざと手を出そうとした3人を阻止するとトラップを作動させる事も無く先に進んだ。
次の部屋は1メートルぐらいのデフォルメされたかわいいクマのぬいぐるみと30センチのクマのぬいぐるみがそれぞれ3体づつ、床に座っていた。
「デカイ奴は普通に力に注意、小さい方は爪と噛み付きに注意しろって。」
「はーい。」
「ファイア!」
「ぎゅっと。」
「ストーン。」
この一瞬でデカイぬいぐるみが焼却、圧縮、圧殺された。
しかし、ここではミカンちゃんが涙目になっている。
「タリリするです。ミカンはしないです。」
「フッ!」
「バンバン。」
ぬいぐるみを叩く事を拒否したミカンちゃんの分をタリリが奮闘しているので、レーザーの魔法でサポートしておく。
「タリリ、エアリアルスマッシュダブル!」
タリリのショートソードが子グマのぬいぐるみを立て続けに切り裂くと合計6枚の銅貨が回収できた。
ミカンちゃんに多大なダメージを与えた敵はたった3000円の価値しか無かった。
その後、操り人形と銅貨18枚分遭遇して辿り着いたのは、これまた市松模様の両開きの扉の前だ。
「1階層 ボスの部屋って書いてあるわ。」
そう、扉には大きな文字でご丁寧にもボス部屋と説明書きが有った。
「アンタ、説明して。」
パラパラとボスのページを開いて読み上げる。
「マリオネットが1体だけで、ボスの周りに天井から見えにくい細い糸が何本もぶら下がってる。それに触ると操られて仲間で同士討ちの危険性があるから、注意してくれって書いてある。」
「タリリ、聞きましたわね。」
心配そうにマリリさんがタリリに聞く。
「ああ、ボスが1体だけなんだろ、直ぐに切り捨ててやるぞ。」
「違います、天井からの糸に触らないで下さいね。」
「そうなのか、カケルめ肝心な事を説明しないとは。」
「すみませんね。」
タリリに代わってマリリさんが申し訳なさそうに謝ってくる。
「いえいえ、マリリさんはきちんと確認してくれてますから。」
「どうしてマリリが謝ってるんだ?」
1人だけ状況を把握出来ていないシスコンがいた。
「開けたら、燃やすから。準備をお願い。」
カレンの声でタリリと俺は扉に手を掛けて、カレンを見た。パーティのリーダーは頷いた。
ボス部屋は大きな部屋で、中央には色を失った魔方陣が鎮座していた。
その魔方陣の上には剣を構えた、騎士の人形がいた。剣を持たない左手は手のひらを上にして、こちらを招いている。
この挑発を受けて、斬りかかると上からの糸で操られる訳か。良く出来ている。
「ファイア」
そんな敵の苦労も知らずに、リーダーはファイアの一声で天井を焦がす炎を上げ、操り人形を消滅させた。
コインの回収を終えた俺たちは2階層への階段を降り始めた。この強さならしばらくは大丈夫そうだなと考えながら。
「聞いてたぜ、ノーランカーみたいだな。このダンジョンも初めてなんだろ。」
2階層の始まりの部屋には、煙の中俺たちを追い抜いて行った2パーティが待ち構えていた。
「俺たちが手取り足取り教えてやるから、有金全部出せ。武器までは取らないで置いてやるぞ。俺たちの為に死ぬ気で稼げよ。へへへ」
男達は全部で11人。既に武器を抜いている。
「カレンさん、どうしましょう。あんな風に固まっていらっしゃると手加減ができませんわ。」
「私も手加減は苦手なのよね。」
「跳ばして来ましょうかー。」
「それは最終手段ね。」
「じゃあ、ミカンがするです。」
そう言うと、ミカンちゃんは俺たちを階段の上に上がる様に言った。
「ストーンウォールです。ウオーターです。」
たったその言葉が終わると、出口をストーンウォールで塞がれた始まりの部屋に水が天井まで満たされた。
何人かがミカンちゃんの足元まで泳いで来たが、水面に出る前にモグラ叩きの様に殴られて沈んで行った。
「ミカンちゃん、死なないかな?」
「知らないです、アルルちゃんの人形は渡せないです。」
タンク職などは装備の重さから、浮いて来れないのもありそろそろ限界だろう。後衛はほぼ全員叩かれ沈んでいる。
「ミカンちゃん、そろそろ終わりにしましょうか。」
マリリさんがミカンちゃんの肩に手を置き、そう告げるとミカンちゃんは水を消し去ったあとで、ストーンウォールを解除した。
「武装解除しますねー。」
俺とジェシカさんは男達の意識が戻らない内に、収納で下着だけの姿にしていく。その後、マリリさんが眉間に皺を寄せながらヒールしていく。
「ごめんねマリリさん。」
カレンがマリリさんに謝っている。どうやらマリリさんは濡れた胸毛が駄目な様で、目を背けながらしている。
「カレン燃やせ。」
「え、分かったわ。けど、こんな事を精霊にお願いしていいの?ファイア。」
マリリさんが次の採掘者の治療へと腰を下ろそうとした時に男の胸元にボッと炎があがり直ぐに消えた。
「おお、脱毛成功ですー。」
その様子を見たマリリさんは少し楽そうに、治療を続けた。
「意識は戻っていませんが、そのうち目が覚めると思います。」
「待っていても仕方ないし、このままにして先に行きましょう。」
部屋に横たわる大量の男達をその場に残して、俺たちは2階層の探索を再開した。




