パーティで秘密の会議をしろ
よろしくお願いします。
「カレン、俺たちもランク上げないか?」
「バカな男達が絡んでこないように?」
「そうだ。抑止力って奴だな。」
俺たちは教会の食堂でテーブルを囲んでいる。夕食にはまだ早く、マリリさんとタリリはこの場にいない。
「どのランク位から絡まれなくなるのかしら。」
「ランク3で中堅、ランク5でベテランってとこか?」
「はい、一般的な認識ならそう聞いていますわ。」
「イヴァンさんはいくつなの?」
カレンの質問にフランシスカさんは誇らしげに答えを返して来た。
「イヴァン様からはフロースのダンジョンの52階層の氷の部屋まで行った事をお聞きしておりますので、ランク5はあると思いますわ。」
「イヴァンさん、やっぱり凄いわね。」
誇らしげにしているフランシスカさんも、凄いと感嘆しているカレンも確実に攻撃力では自分達の方が上だろうにと思う。確かに経験は全く足りないが。
「まあ、50階層となれば強さだけで無く、こっちも必要だろうけどな。」
俺は親指と人差し指で輪を作って見せた。
「そうね、お金も時間も必要よね…。」
「マリリさんもそんなには、時間とれなそうですよねー。」
「アザリアよりも確実に忙しそうにしてるわ。」
そんな話をしていると、オレンジジュースを一気に飲み干したミカンちゃんが会話に参加してくる。
「ぷはー。レンちゃん、最初は跳べるようにするです。アンナちゃんに会える様にです。」
「そうね。まずドールのダンジョンで様子を見ましょう。」
「はいです。」
「分かりましたわ。」
「了解ー。」
俺は何処へでもついていくぞと頷いた。
その後、ドールのダンジョン攻略用に保存食や必要な道具を買い出しをしているとマリリさんの仕事が終わる時間になった。
俺たちは西門が閉まる前に、街の外に出ると街道から外れ、人通りのない場所にコテージを建てた。どうやらフランシスカさんは忘れていなかったようだ。
コテージで夕食を済ませ、入浴まで完了すると全員がソファに腰掛けている。
「カケルさんの恥ずかしい秘密暴露大会ー!」
パチパチとジェシカさんとミカンちゃんだけが拍手をしている。
「「ジェシカさん…。」」
カレンとフランシスカさんが別々の意味で突っ込んでいる。
「カケルさんだけに強いるつもりは有りません。ではわたくしの秘密をご披露いたしますわ。くれぐれもご内密に。」
そう言うフランシスカさんは、毅然とした態度で話始めた。
「公爵家の長女として、わたくしには婚約者がおりました。フロース王国 第1王子のアインハード様です。」
「カレンさんに会うまでは、お父様のお言葉通りにアインハード様と結婚するものと思っておりました。」
第1王子が相手なら、フランシスカさんは次期王女様か凄い事だ。カレンもマリリさんも驚いているが、ジェシカさんは瞳をキラキラとさせ、うっとりとした表情をしている。
「ですが、アインハード様はダンジョン探索は男の仕事だ。女如きができるわけが無いと仰られたので、つい…。」
「え、つい?」
「つい、 カレンさんとのモンスターハウスでの話をしてしまいました。それでもアインハード様が納得されない様でしたので。」
ここは王城内のガゼボと呼ばれる庭園内の屋根付きの休憩所で、アインハードとフランシスカさんがそれぞれの付き人を連れてお茶を嗜んでいる。
「フランシスカ嬢、そのカレンとか言う採掘者が如何に凄いとは言え所詮、アザリアのダンジョンなのだろう。」
「王都にはもっと優秀な採掘者がごまんといるぞ。ただし、王城まで名が上がってくものには女はいないがな。」
「そもそも、そのカレンとは臆病者で有名な赤猫族と聞いているが。違ったのか?」
「確かにアザリアのダンジョンに1年も掛けるのは、慎重過ぎとは思われますが、彼女には並外れた実力が有りますわ。」
「怪しもんだな、それは。」
どうしても恩人であるカレンさんの事を、王子に分かってもらいたいと思い、わたくしは王子にある提案を致しました。
「いえ前人未到のフロースの52階層を攻略するのは、彼女になりますわ。その彼女に教え頂いた技の一端をお見せいたしますわ。」
そういって立ち上がりますが、王子の目は疑心暗鬼に溢れています。それでも王子はわたくしの側までお越しくださいました。王城内は不思議な事に王族の方の魔法の威力が上がり、それ以外の方は下がってしまう結界の様な物が有ります。
通常ならば精霊にどれだけ頼んでも、そよ風程しか起こせません。しかしわたくしにはカレンさん直伝の技が有ります。
目の前には緑に生い茂る立ち木があります。その根元に立つと風の精霊にゆっくりと話しかけます。
「渦巻き、舞い上がりなさい。其方達の力強さと素早さを知らしめるのです。ウインド。」
イタズラ者がわたくしのドレスの裾をはためかせます。それをそっと左手で抑え、王子へと振り返ります。
もちろん王子は驚愕されていましたわ、わたくしの後ろの木には1枚の葉も残されていませんでしたから。
根元からグルグルと回り始めた風達は落ち葉を巻き込んで上昇していきます。その風達は幹を登り、枝葉の高さまで辿り着くと枝先まで包み込むように広がりますが、そのスピードはドンドンと増していきます。精霊さんが頑張ってくれているのが分かります。
そうして全ての葉を毟り取った風は木の高さを超え、ぐんぐんと高さを上げていき王城の尖塔よりも高く高く舞い上がるとパッと飛散しました。
王子がまだ驚きから覚めえぬまま、こちらを凝視されていますが王子の肩にもパラパラと緑の葉が落ちて来ます。わたくしはそれを避けるようにガゼボへと王子の手を引いて避難いたしました。
「カレンとやらはもっと凄いのか?」
「はい。」
「カレンは52階層を超えられるのか?」
「はい。」
「俺も弟子にしてもらえるか?」
「はい?はい。」
「せめて追いつかねば、俺の矜持が納得せぬのでな。しばらく時間をくれぬか。」
「はい、お待ちしております。」
少し肩を落としになった王子はお供の方を連れて、ご公務へとお戻りになりました。
「わたくしはカレンさんのお陰で、自由な時間が少しだけ増えましたわ。それがわたくしの秘密でございます。」
みんな呆気にとられている。カレンは頭を抱えてテーブルに突っ伏している。
「52階層…王子を弟子に…無理よ無理よ…。」
ブツブツと独り言が聞こえるがそっとしておこうと思ったら、腕をガッシリと掴んできた。
「アンタだけが頼りになんだから、どこにも行かないでよ。連帯責任よ!」
「じゃあ、俺の秘密を話すから逃げ出すなよ。」
「う、うん。分かったわ。」
そうして俺の番になった。カレンはまだ俺の腕を握ったままだ。スマホを取り出すと写真と書かれたアイコンをタップする。
様々な写真が4列になって並んでいる。それを指でスクロールさせながら、旅行に行ったときに駅ビルの中から外を写した写真を拡大させる。
「住んでた所はもっと田舎なんだけど、俺の世界の街はこんな感じだ。この1つ1つが家の集まりで何十人、何百人と生活してるんだ。」
次は前の車で事故を起こした時の、ドライブレコーダーの動画を出す。もちろん事故直前に動画を停止した。その動画には片側2車線の道路で前の車でと、対向車とのすれ違いを映している。
「これが俺たちの世界の馬車、自動車だ。馬は必要無くなっているな。馬車5倍の速さは出る。」
次は地元の空港の動画だ。だれの見送りかは忘れたが、ジャンボ機が離陸していく様子が撮られていた。
「これ、飛んでるの?飛ぶの?」
「ああ、100人近い人を乗せて飛ぶぞ。速い物は音の速さの2倍で飛べるな。」
「動画は無いけど、月や空のもっと遠くの星まで行く事も出来たな。」
「これが俺の世界だ。」
「え、炎の虎は?ドラゴンは?ゴブリンは?」
「ビルより大きなトカゲはいるんですよね?」
「ゾンビはいたです。みんな襲われてたです。」
誰だミカンちゃんにホラー映画を見せたやつは、ジェシカさんはどんな特撮を見てたのか。
「ゴブリンもドラゴンもいないし、魔法も無い、もちろん精霊もいない。その代わりに科学という技術が魔法の代わりになっている。」
「精霊もいない大陸なんてどこなのよ、少ないところや、いない場所があっても大陸全部にいないなんであるわけ無いわよ!」
カレンが慟哭する、信じられないが、その意味は想像つくのだろう。
「そうだ、この世界の大陸では無い。たぶんこことは別の世界か別の星だと思う。」
99.999%異世界だと思うが、地球以外の星でこんな星が無いとも言い切れないので保険を入れておいた。
「魔王です!カケルは魔王様です!」
ミカンちゃん、なんだそれは。魔王と言うわりに嬉しそうなリアクションに戸惑いを隠せない。
「お姫様が大精霊を呼ぼうとしたら、他の世界から魔王が来たです。それと一緒です、カケルは良い魔王です。」
「いやいや、エロ魔王ですねー。」
そんなジェシカさんのおちゃらけに、だれも反応を示さない。
「うそ!うそよね!」
「けれども、お会いした当時は本当に何も知らない様子でしたのは、覚えていますわ。」
「コインすら見た事なかったぞ、カケルは。」
「精霊さんもいなかったです。」
俺と会った当時の事を思い返しているようだ。そんな時に頭上から澄んだ声がした。
「もうーー!注目ーー!」
そこには1人の金色のドレスを着た5センチぐらいの少女がいた。彼女は羽根もないのにふわふわと浮かんでいる。
「精霊さんです!」
「まあ。」
「凄いー!」
「え?!」
精霊はカレン達をその小さな指で順に指していく。
「あ・な・た・た・ち、聞いてるよー。渡し者だって!あの大きいのもいってたよねー。」
クブルムのダンジョン攻略時に確かに聞いた記憶がある。
「アンタ、ミカンちゃんの質問にローレンシウムに渡って来たって…!」
「ああ、他の世界からな。嘘は言ってないだろ。」
「最低!」
カレンはそう言うと顔を背けた。そこにフランシスカさんが一石を投じて来た。




