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ミッション ジャイアント・アリゲーターを退治しろ。

国境の街リーリオ。王都と並ぶ3つのダンジョンを持つ街だ。フロース王国の北東に位置し、ティグリス帝国との防壁となっている堅固な城郭都市だ。


辺境伯 ベリス・ベラルーニが領主として治めているこの都市は上級者向けのダンジョンを2つと中級者向けダンジョンを1つ要している為に、この都市に席を置く採掘者は王都よりも全体的にランクが高い傾向がある。


その為に粗暴で自分の欲求に正直な採掘者も多数存在し、それを取り締まる騎士団や兵士の質も他の街とは比べ物にならない程の強さと練度を有している。


「どうにか着いたわね。長かったわ。」


俺たちの馬車は西門から入る馬車の列に並んでいる。左手には東西に流れる大河が車列と並行に流れている。この大河フィリーアが国境となっている。


「逃亡奴隷ってこんな幅の広い川を泳いでくるのか?年間1人ってのも多く見えるぞ。」


軽く見積もっても対岸まで2キロメートルはある。もちろん橋なんて無い。船か泳いで渡るしか無い。


「何日も掛けてここまで逃げて来て、最後にこの試練かよ。しかも首輪が取れるかは運だろ。普通は逃げ出す気も起きないな。」


そんな独り言を呟いていると、マリリさんが頷きながら同意して来た。


「ですから、教会も首輪の解除に必死なのかと思います。」

「その人のここまでの努力を無駄には出来ないよな。」


ここでフランシスカさんも加わってくる。


「その辺の話はお父様もしていました。たしかドールのダンジョンの詰所の騎士団には2つの任務が有ると。」


「2つですか?」


「はい、1つはダンジョンの管理。もう1つは川面の監視です。対岸に逃亡奴隷が入った場合、川の中央まで船を出して待機します。逃亡奴隷が帝国兵士に捕まらずにこちら側に入った段階で救助すると聞いていますわ。」


聞けば聞くほど脱出難易度が上がっていく。それなのに逃亡奴隷が増えていると聞くと帝国での生活がどれだけ過酷なのか想像も出来ない。


「良し、カレン橋を架けるぞ。」


また何を言い出したのかとジト目を返してくる。


「じゃあ、地下にトンネルを掘るか。」


フランシスカさんもジト目になった。


「真ん中に島を作ろうと思う。」


ジェシカさんは首を傾げている。


「それ船で良いですよね?」


俺が奴隷だった場合に何があれば助かるのか、現代人の知恵と知識を総動員して考えろ。シミュレーションだ。


「首輪が有るから、自分で解除出来ない限り人のいる所に行くしか無い訳か。」


「それも最長1週間と言うタイムリミットも有る訳だから、あまり遠くには行けない訳で、川幅の狭いところや監視の薄い所まで行けない可能性もある。」


「ならどうするか、誰か1人でも助かればと言う事で何人、何十人の仲間と1度に、この街の対岸から飛び込んであとは必死に泳ぐ。兎に角真ん中まで必死に泳ぐ。」


「駄目だ、これじゃあ今と変わらん。」


「では季節によって流量や川幅は変わるのか?酸素ボンベかシュノーケルでは?もうヘリで救助して貰えばいいか。」


あ、駄目だ口に出てた。みんなジト目になっている。


「酸素何?シュノーケル?ヘリ?何よそれ。説明しなさいよ。」

「酸素ボンベです。」

「そうそれよ。」


仕方ない、説明だけしよう。


「酸素ボンベは簡単に言えば、水の中では息が出来ないだろ?」

「え?出来るわよ。風の魔石でそんなの有ったわよね。」

「はい、水没した階層を持つダンジョンも珍しく有りませんから。」

「ぐっ!」ね


「シュノーケルは筒だ。その風の魔石が手に入らない時に筒の先を水面に出して息をするんだ。」

「ふーん。じゃあヘリは?」


「ヘリは空を飛ぶ乗り物だ。飛び回ったり、空中で留まる事が出来るんだ。」

「竜騎士の何とかってので良いじゃない。」

「ワイバーンです。」

「そのバーンよ。」


「そうだな…。」


カレンに完全に論破された精神的なダメージが大きく、考える事を放棄して空を眺めた。泣いてなんかいない。


現実逃避をしていると、検問の順番が回って来た。最後の所で左右2列に別れていた。俺たちは右側に案内された。


「ランクカードの提示を。」


兵士の指示にカレンは驚き聞き返していた。


「え、ランクカードですか?」

「この街のダンジョンは上級者向けだからな、初級クラスの採掘者が来ると高ランクの奴らの食い物にされたりするからな。」


「ランクの確認をして近寄っては行けない場所とかを教える必要があるからな。」


兵士は親切な性格らしく、カレンにきちんと説明してくれている。


「あの、アザリア教会から転勤で来たのでランクは未だ有りません…。」

「そうか。初級クラスでも無く初心者か。」


カレンと兵士の会話を耳にしていた採掘者が騒めく。


「おい、アイツらノーランカーだってよ。」

「そんなのが知れ渡ったら、この街では生きていけねぇのにな。」


「赤髪の獣人とシスターさんと金髪の姉ちゃんが2人と子供とヒョロい男が1人か、顔を覚えておこうぜ。へへへ。」

「ん?何処かで聞いた気がするな。」


兵士にも他の採掘者の雑談が聞こえたようで謝って来た。


「済まない、声が大きかったようだ。」

「いえ、事実ですから。」


「カレンさん申し訳有りません。こちらで入れば良かったですね。」


そう言うフランシスカさんの手には短剣が握られていた。


「今回は緊急じゃないから、少し遅れてるけど…。」

「街で絡まれるなら、教会から出なければ問題ないぞ。」

「そうですわね、私達ならそれも可能ですか。」

「カレンさん、早く進めってー。」


ジェシカさんの言葉で兵士に先を促されていたのに気付くと馬車を城壁の中に進めた。しばらくは農地の中を進んでいく。新しい街では城郭内部には農地を持たない所も多くある。この街はモンスターが外界を徘徊していた時代の名残を多く残している。


そんな農地と城郭とに挟まれた僅かな隙間に、雑多な壊れかけた小屋が立ち並んでいる。中には壁もない日除けのタープだけの場所もある。いわゆるスラム街と言われるものだ。平民が暮らす街とは農地で隔てられていた。


遠くに見えるスラム街をカレンとマリリさんは真剣な眼差し眺めている。孤児達の事を思い描いているのだろうか。


農地を抜け、平民街に入るとタリリは馬車を北へ向けた。フィリーア川のある方向だ。


しばらく馬車を走らせるが教会は未だのようだ。街の中心部には小高い山があり、その頂に領主の城が見えている。明日はフランシスカさんとあそこ迄いく必要がある。そんな事を考えているとタリリが首を傾げている。


「タリリ、教会の場所は分かりますか?」

「門を入って左と聞いているぞ。」


マリリさんの確認にタリリは自信を持って答えている。


「ん、どの門だ?左って門によって変わるぞ。」

「そうですねー。王都から来るなら南門ですから反対方向?」

「カケル、ジェシカ何を言ってる?」

「いやいや、タリリさんこそ何を言ってるんですかー。」


タリリはマリリさんにコイツら大丈夫かと、視線で訴えている。いやお前が大丈夫か?


「タリリ、その左ってのはさっきの門番に聞いたのか?」

「そんな訳無いだろ!アザリアの教会を出る時にキチンと聞いて来たぞ!」


タリリは何故か、お怒りになっている。どこか気に触ったんだろうか?


「タリリさん!了解ですー。」


ジェシカさんはそう言うと、「一周すれば着きますよ」と他人事のように俺にささやいて、車内の井戸端会議に戻って行った。


ああ、最後の最後でこんな無駄な時間を過ごす羽目になるとは。その後北門の側を通過する時に農地の先の更に門の先にフィリーア川が見え、その川岸に塔のような建物が見えた。あれがドールのダンジョンの詰所件、川面監視用の建物なんだろう。


あと270°かまだまだあるな。残り3/4もある。ピザなら6ピースだ。それにしてもタリリは凄いな。引き返す事も、脇道に入る事もしない。あれ?無いなと思って不安にならないのだろうか。


「ぴろりろーん!」

(ミッション ジャイアントアリゲーターを退治しろ 制限時間 2時間)


「ぴろりろーん!です。」

「ジャイアントアリゲーターを退治しろ。残り2時間。」


「モンスターよね?パーティ名じゃないわよね。」

「どこだ?」


カレンはフィリーア川を見て言う。


「泳いで渡る川にモンスターなんていないわよね。」


流石のタリリも一旦馬車を止めて、御者台に立ち上がり周囲を見渡している。


「ぴろりろーん!」

(ミッション 北門を抜け出せ。 制限時間30分)


「追加だ。残り30分で北門から抜け出せ。」


「タリリそこの門です。急いで下さいね。」

「了解だ、マリリ。」


北門に向けて農地の中の道を馬車は疾走する。ダンジョン帰りの採掘が歩いているのとすれ違うが、皆何事かと一様に振り返って俺たちを2度見している。


門まであと少しと言うところで、川面に動きがあった。ザバァと巨大なワニがこちらの岸に上がって来たのだ。


ドールのダンジョンの門の前で休んでいたり、採掘者向けの屋台の商人や客や兵士が息を飲んだのが分かった。


20人程のその人々はワッと一斉に逃げ出した。例外は兵士が1人と採掘者が5人と屋台の商人が4人その場で動けないでいる。


採掘者の5人は同じパーティメンバーだろう。武器を構えて迎撃態勢を取っている。見張りの塔の上にも兵士が見えるがワニを指差して何か話しているだけだ。


「タリリ急げ。出られなくなる!」


北門には比較的審査待ちの馬車は少ないが、それでも10台程の馬車と何十人かの採掘者が並んでいたが、逃げてくる人々を見て起きている事も把握せずに門の中へ逃げ込もうと門へ殺到していく。


「待て!不法入市は厳罰だぞ。待たぬか!」

「門を閉めろ!だれも中には入れぬな!」


慌てた兵士達は門を閉じようと声を上げている。門の内側にいた馬車や採掘者がこちらに雪崩のように駆けてくる。


幸い俺たちの馬車は予め最高速度で疾走状態だった為、いま門の中にいる馬車や人には避けて貰えそうだ。タリリが注意の為に声を張り上げている。問題は門の向こう側だ。パニック状態では公爵家の御印の有効性も疑わしい。


水から上がったジャイアントアリゲーターは10メートルは優に超えるその巨体を屋台の方に向けた。臭いに釣られたのか、逃げ遅れた商人を見つけた為かは分からないがもう猶予は無い。

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