ミッション 打ち上げをしろ
その日はアルルちゃんの家に泊まらせて貰った。パテルさんも、もちろん一緒だ。パテルさんは身の危険を感じたので騎士が常駐する教会で寝泊まりしていたらしい。
本当は家族水入らずの3人で過ごさせたかったが、アルルちゃんがミカンちゃんをどうしても招待したと不慣れな料理を頑張って作り始めたので、疲れているマーテルさんの代わりに俺たちが料理を作るのを手伝う事にした。
「ヘンタイお兄ちゃんの作る唐揚げ、とっても美味しいんだよ。」
「アンタ、唐揚げだけは天下一品よね。」
「だろ、2度揚げを極めた俺に勝てる奴はいない!」
「美味しいです。」
「ミカンちゃん、このサラダ食べて!私が作ったんだよ。」
「美味しいです。カケルのサラダより美味しいです。」
「そんなに美味いのか?どれ。」
「アンタのサラダは腹ペコな青虫しか食べないわよ。もう少し味を付けなさいよ。」
「減塩だ。減塩。」
「ふふふ、こんな事もあろうかとお爺様のワインをお借りして来ましたわ。どうぞ。お父様、お母様。」
「「あ、ありがとうございます。」」
アルルちゃんのお父さんとお母さんが飲んでいるワインは超高級ワインだ。お値段なんと金貨20枚、日本円で200万円もするらしい。俺たちは値段を聞いて気を失いかけたし、カレンは空のボトルを虚ろな目でずっと眺めていた。
「お父さん、お母さん、カレンお姉ちゃん凄いでしょ?私の言った通りでしょ?」
「そうだな。凄いな。」
「けど貴方、ダンジョンを発見した採掘者さんなんて、今は時の人ですから、忙しくて相手にされなかったらアルルをどうするつもりだったんですか!」
「クブルムまで行って会えなかったり、話を聞いて貰えなかった場合は護衛に孤児院に連れて行って貰う話は付けて有ったんだ。」
「貴方、本当ですか?」
マーテルさんは酔っているのか、目が座っている。
「レンちゃん。」
「あ、これお返しします。」
カレンは両親の話を遮り金貨を返す。手紙に同封されていた物だ。
「いや、これは今回の御礼として」
「要らないです。お友達からは貰えないです。アルルちゃんは友達です。勇者友達です。」
見るとミカンちゃんはお姫様の人形をアルルちゃんは勇者様の人形を持っていた。
「今度来る時まで交代したです。約束したです。」
いい話だなと感動していると、ミカンちゃんがこっちを向いた。
「カケル、明日の朝までにダンジョンを見つけるです。早くするです。」
アルルちゃんにいつでも会える様にと考えた事だとは思うけど、そんなの無理だ。
「ヘンタイさん、わたくしはクブルムの時はいませんでしたから、是非立会いたいですわ。朝までにお願いしますね。」
「カケル、私も腕が鈍りそうだ。早くしてくれ。」
「カケルさーん。がんばってくらはいねー。ヒック!」
「アンタ、これだけ期待されてんだから、死ぬ気で探して来なさいのよ。探せなかったら死よ。死。」
まさか酔っ払いの話だろうと思ったら、素面のミカンちゃんの手で寒空の下追い出された。
「マジか…。」
仕方なくグラスを片手に、馬車の扉を開けてシートに横になる。
「まぁ、ダンジョンがあれば楽なんだけどな。そう簡単にって言うとフラグが立ったりして。」
「ぴろりろーん!」
(ミッション ダンジョンの扉を使え 制限時間600秒)
「本当にフラグが立ったのか?!、まあ行くしかないか。」
俺はフラつく足をなんとか進めて、ジェシカさんのいるアルルちゃんの家の扉に手を掛けた。
「レンちゃんの言う通りです。来たら駄目です。」
「お姉ちゃん達は今はお母さんのモデルさんだから、出て行って!」
しかし、扉を開けるとミカンちゃんとアルルちゃんが腕を組んで睨んでいた。
「え??いや、ミッションがダンジョンの扉を使えって」
「そうなんですかー。じゃあ、ダンジョンの扉を置いて行って下さいねー。あとはやっておきますからー。それともミッションをダシに覗きに来たんですかー。このエロオヤジ!」
酔っ払いの幽霊はタチが悪い。俺はエプロンポケットに手を入れさせて貰うと、ダンジョンの扉をその場に置き、そそくさと馬車へと引き返した。
(ミッション ダンジョンの扉を使え。 制限時間296秒)
視界の隅の残り時間は刻々と減っている。どんなペナルティがあるのか知らないが、もう知らん。
それから5分後、カウントが0を刻むと、赤いミッション失敗の文字が表示されたが俺は既に夢の中だった。
翌朝、馬車から降りると凝り固まった体をほぐしながらアルルちゃんの扉をあける。
「あー飲み過ぎたわ。」
「わたくしもですわ、何故か頭痛がしますの。」
「ふふ、ヒールしますね。」
カレンとフランシスカさんはゾンビの様にフラフラと洗面所にやってきた。そこには既に身なりを整えて2人が来るのを待っていたマリリさんは手際よくヒールの魔法で彼女たちの二日酔いを治していく。
「仕方ないですよ、フランシスカさんのお酒が本当に飲みやすくて、美味しいかったですからねー。」
前髪を整えながらジェシカさんが、二日酔いをフランシスカさんのお酒の所為にしている。
「お姉ちゃん達、おはよう!」
二日酔いとは縁のない元気なアルルちゃんの挨拶が部屋に響く。それだけでも頑張って良かったと実感できて、顔を見合わせて笑い合った。
マーテルさんの事情聴取や馬の暴走の後片付け、しばらく閉店していたランジェリーショップの開店準備を手伝って、今は16時ぐらいだ。
「「本当にありがとうございました。」」
「ミカンちゃんバイバイ!お姉ちゃん達ありがとう。」
「バイバイです。また来るです。」
「例の商人がまた悪さをする様でしたら、詰所まで連絡をお願いします。警備を厳にするように指示はしましたが、遠慮なく頼って下さいませ。」
「アルルちゃんは良く頑張ったわ。これ私からプレゼント。」
カレンはそう言って杖を渡そうとしている。その杖は昨日も使っていたメインウエポンだ。とても大事にしていた物だ。
「ううん、要らない。私ミカンちゃんみたいになるの!」
しかしその好意は無邪気な笑顔で打ち砕かれた。
「え??」
カレンは開いた口が塞がらない。外野としては可哀想だが込み上げる笑いを我慢するのが大変だ。横を見ると、マリリさんもフランシスカさんも俯いて肩を震わせている。
ここで動いたのはマーテルさんだ。母は強かった。
アルルちゃんをしっかりとした声で叱りつけたのだ。
「アルル、キチンと御礼を言って頂きなさい。」
「え、お母さん?」
「皆さんにサインを頂いて、お店に飾れば良い宣伝なるわ、分かった?」
「うん、分かった!」
「はい…。分かりました。」
マーテルさんの言葉でアルルちゃんとカレンは対照的なトーンで返事を返していた。
「カレン、だけど杖無くて大丈夫なのか?」
「え、ええ。だ、大丈夫よ。フランシスカさんのレイピアなら有るのと無いのでは全然違うけど。」
カレンはマーテルさんから渡されたペンで杖に名前を書きながら
「この杖は魔石なんて付いてない普通の木よ、アリサがローブを買った時にオマケで付けてくれた奴なの。」
「けど大切に使ってたよな。」
「当たり前じゃない。採掘者始めた時から一緒だもの愛着ぐらいあるわよ。はい、アンタも書きなさい。」
そう言うとカレンは杖とペンを渡して来た。
杖がリレーのバトンの様に手渡されていく、いまサインはフランシスカさんが書いているところだ。
「あら?これは本当に普通の樫の木なんですね。」
「そうよ、アリサさんの手作りだもの。」
「私の様に魔石が入っている物は主に人間や獣人やドワーフなどが好んで使いますが、エルフはこの様な植物をそのまま使った杖を好みます。」
「エルフですか?」
「樹齢何百年と言った木には精霊が宿ると言われていますから、精霊石よりも高価ものが多いですわ。」
「これも、もしかして…。」
カレンが俺の気持ちを代弁してしている。
「いえ、先程も申しました通りに普通の木ですわ。ただハイエルフが持つと言われている世界樹の枝を使った杖など城が買えると言われていますし、そこから得られる魔法の力も飛び抜けていると聞いていましたから。」
「そうよね。ははは」
「カレンさんの魔法の威力から、もしかしてと思ったんですけど。」
フランシスカさんはすこし申し訳なさそうにしている。
「よし決めた。代わりに俺が新しい杖をプレゼントするよ、一生モンになる奴を。」
「アンタ、お金無いくせに。この前スられたんでしょう。」
「あっ?!」
「約束よ、期待してるから。」
あと30分もしないうちに日が暮れて、門が閉まってしまう。だから今度こそお別れだ。アルルちゃんはカレンの杖を両手で持って頭上で振っている。
「じゃあ、行こっか。」
その声に合わせて馬車を走らせる。東門を抜けてリーリオまでの街道を真っ直ぐに。




