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ミッション メウナンを捕まえろ

俺たちは話をする為に教会の奥に通された。この部屋はアルルちゃんのお父さんが教会で仕事をする為の部屋らしい。


「私は妻とは別に教会の研究員をしていまして、ダンジョンについて書かれた書物の整理などしております。まあ、ほとんどはカウンター業務の手伝いなんですがね。」


研究用の机の椅子にはアルルちゃんを膝に乗せたお父さんが座り、フランシスカさんとカレンとマリリさんが来客用のソファに座っている。ミカンちゃんはカレンの膝だ。


俺とタリリとジェシカさんは入り口近くの本棚や壁側に立っている。特に警戒している訳では無い単純に部屋が狭く、椅子を置くスペースが無いだけだ。


「娘はイーリスの街を出てから、拐われたんですか?」


「それは分かりません。ただ私達が王都からイーリスへ向かう途中に娘さんの乗った馬車が何者かに乗っ取られていたのをお助けしたまでです。」


ただアルルちゃんは街の宿屋には泊まっていたらしく、多分イーリスを発った後で襲われたと考えるのが普通だと思う。


「馬車にはアルルちゃんだけでした。護衛の2人には先にここまで報告をお願いしましたが、途中で何者かの手で殺され、森の中にうち捨てられていました。」


「そうですか、御者と、もう一人護衛を依頼していたんですが…。」


アルルちゃんのお父さんは悲痛な面持ちで、それだけを答えた。


「この町で何が起きてるんでしょうか、ご説明頂けませんか。わたくしはアルルさんの為には力を惜しむつもりは御座いません。」


凛とした態度でフランシスカさんはアルルちゃんのお父さんに向き合うとそう宣言した。


「妻の店の他にこの町には7件の商店が有りました。ですがある時を境に不幸な事故が立て続けに起きました。」


「その結果、今はメウナンという男が営むメウナン商会だけが商売を続けている状態です。」


「それでご存知の通り、先日妻が行方不明になりました。兵士の方や教会関係者にも捜索頂いたんですが手掛かりは何も見つかりません。」


「カレンさん。」

「そのメウナンって商人が犯人なのは確かなのよ。アルルちゃんを拐った男たちに直接聞いたわ。」


「今から、アルルちゃんのお母さんの事も纏めて聞きにいくから、お父さんにもご同行頂いてもよろしいですか。」


「大丈夫ですわ、すぐ終わらせますから。」


俺たちがメウナン商会に着くと、そこには20名近い兵士が店を囲んでいた。


「うわー。なんか凄い事になってるねー。」


「包囲は完了しております。メウナンはこの中と思われます。」


1名いた騎士がフランシスカさんにそう告げると、フランシスカさんは頷いた。


「突入!」


騎士の号令で10人程の兵士が扉をハンマーでぶち破り商会の建物になだれ込んで行った。


僅かな怒声が上がっただけで20分もしない内に、6人の男達が縛られた状態で道端に転がされた。


「この男がメウナンでございます。」

「ありがとうございます。」


恐ろしい、公爵家恐ろしい。フランシスカさんには逆らえないな。どうやってメウナンを捕まえようかと考えながら商会までやって来たら、既にこの状態だ。


カレンやマリリさんも余りの手際の良さに、呆然と立ち尽くしている。


メウナンも余りの突然の出来事に呆気に取られていたが、アルルちゃんのお父さんの姿を見つけると狂った様に騒ぎ出した。


「パテル!何故だ何故貴様の店だけが潰れない!」


「なんの事でしょうか?私はもともと商店など営んでおりませんが。」


メウナンに呼ばれたアルルちゃんのお父さん、パテルさんは冷静に事実を告げた。


「何を言うか!下着屋!」


「いえ、あれは妻の店でして私には関係ありませんが。」


その言葉で顔を真っ赤にしたメウナンは笑い出した。


「ハハハハハ、あの女を始末するだけで良かったのか。もうこの町は俺だけの物だったのか。アハハハー。」


「黙れ!」


笑い続けるメウナンを兵士が殴りつけ黙らせるが、メウナンは兵士を見上げるとニヤリと笑った。


「いいでしょう。この町では失敗しましたが、やり方は分かりました。では、これで失礼します。」


兵士が何を言っているのかと危ぶんでいると、メウナンの懐が少し光を放ったかと思うと、野次馬から叫び声が上がった。


「暴れ馬だ!にげろー!」

「きゃあー!」


悲鳴が飛び交う中、何軒もの宿屋や定期馬車の停留所から馬が群れとなって俺たち目掛けて走り込んでくる。


「ストーンウォール!」

「ストーンウォールです。」

「はい、ダンジョンの扉ー!」


マリリさんとミカンちゃんの土の壁がくの字に合わさり、馬たちの暴走から俺たちを守っている。ジェシカさんは声だけだ。俺はそこまでの余裕は無かった。ストーンウォールの中へ逃げ込むだけで精一杯だった。


馬たちがどこかへ行ってしまうと、辺りにはケガ人が多数蹲っている。兵士もメウナン商会の縛られていた使用人達も奇跡的に命に関わるケガは負っていない。


「メウナンがいませんわ。」

「アンタこれ。」


縛られていたはずのメウナンだけがいないのだ。そのメウナンが倒れていた場所に落ちていた革袋をカレンが拾い上げると俺に投げて寄越す。


「さっき消えたんだな。」


逆さまににして何も無い事をアピールしておく。


「そうね、こんな偶然は有り得ないわよね。」


「カレンさん、これはシスターとしても放置できない案件となりました。報告はできませんが…。」


「カレンさん?」


「フランシスカさん、説明は後でするから治療を先にしましょう。」


マリリさんのヒールと在庫のポーションを大盤振る舞いでケガ人を治して行った。アルルちゃんも手伝いたいと言って来たので、ミカンちゃんと2人で比較的軽症者にポーションを持っていって貰った。


「この者達だけでも取り調べをお願いします。結果は王都までお願いしますわ。」


「ハッ、了解致しました。」


「残り半分は商会内の証拠の押収だ。取りかかれ。」


騎士の指示で商会の建物から様々な物が運び出されて行く。俺たちはランジェリーショップまで戻ってくると、アルルちゃんが正面入口を開け、中に案内してくれた。


「うわー、かわいいー!」


「うん、良いわね。」


「カレンさん、これは最近王都で流行りのデザインですわよ。」


「かわいいです。アルルちゃん羨ましいです。」


「えへへ、私のもお母さんが選んでくれたんだ。」


中にはカラフルな女性用の下着が所狭しと置かれており、目のやり場に困る。


「タリリはこちらのが合うかと。」


「わ、わたしはそんなフリフリは。」


「そうですか、せっかくのお揃いが…。」


「マリリ!?そうだな、たまには良いかもしれないぞ。」


そんな雰囲気の中、アルルちゃんが一言だけ呟いた。


「お母さん…。」と。


しばらく静寂が支配する。


「聞いてくるです。フランシスカ来るです。」


ミカンちゃんはフランシスカさんの手を取ると、メウナン商会に向けて走り出した。


2人が消えてから2時間ぐらい経ったその時だった。


ランジェリーショップの正面入口からミカンちゃんとフランシスカさんがアルルちゃんのお母さん、マーテルさんを連れて帰って来た。


「アルルー!」

「あ、お母さーん!」

「お、お前!」


アルルちゃんは目をいっぱいに開くと持っていた下着を握ったまま、お母さんに飛び込んで行った。



以下はミカンちゃんがランジェリーショップを飛び出してからの経緯をフランシスカさんがみんなに説明した内容となっている。




ミカンちゃんはアルルちゃんが殺されずに誘拐された事でお母さんも同じように誘拐されたのではと考えたようです。


騎士団の詰所に連行されていった使用人達はマーテルさんの誘拐の件はだれもご存知では無いようでしたが、商会には秘密の地下室があり最近はメウナンから近づく事を禁止されていたと供述されていました。


ミカンちゃんは、騎士団の詰所からメウナン商会へ取って返されて、もちろん、わたくしもついていきましたわ。しかしここでわたくしとした事が地下室の開け方を聞いてくる事を失念しておりました。


「どうやって開けますの、ミカンちゃん。」

「聞くの忘れたです。」


それはわたくしも同じです。時間の無駄では有りますが、一旦詰所まで、引き返そうかとも考えましたわ。


「入口はこのあたりとの事でしたわね。」

「えい、えいです。」


ミカンちゃんはわたくしの言葉など聴こえていないようで、メイスを石畳の床に何度も振り下ろしておりました。しかしその努力も虚しく弾き返されているだけの様に見えました。


ミカンちゃんはへの字口になりながらも、それでもメイスを何度も振り下ろす事を辞めませんでした。


「アルルちゃんが悲しむのは嫌です。イヤイヤです。」


「ミカンちゃん。」


眉間に皺を寄せ、目には涙目が溜まっているのが見えます。それでもミカンちゃんは諦めていませんでしたわ。


「ミカン、エアリアルスマッシュです。」


聞きなれない言葉をミカンちゃんが口にすると、右のメイスが黄色と水色のマーブル模様の光に包まれたのがハッキリと見えました。その刹那メイスは轟音と共に石畳に穴を開けたのです。その姿にわたくしは震える程感動いたしました。


「どうした?!」


商会内を捜索していました兵士から驚きの声が上がったのにも、ミカンちゃんは気にされずに、まだ埃の舞い上がっている地下へと続く階段へと歩みだされましたから、わたくしもすぐに後を追いました。


「なんだ子供か?デケェ音がしたかと思ったら。」

「えい、えい。」

「ぎゃあえ!」


荒くれ者が剣を肩に乗せ、階段の下からミカンちゃんを威圧しておりましたが、ミカンちゃんの左右から繰り出されるメイスで右腕と左肩を粉砕され、瞬く間に床に転がっておりましたわ。


そこへ、もう1人革鎧を着た男がナイフを片手に姿を現しました。今度はわたくしの番かと先程のミカンちゃんの勇姿を真似させて頂きました。


「えーと、フランシスカ、エアリアルスマッシュ!」


わたくしはミスリルのレイピアを引き抜くと掛け声と共に突き出しました。もちろん、精霊さんにお願いする事を忘れずに。するとレイピアの刀身から緑色の風が細く渦巻き、ナイフを持つ男の肘に吸い込まれていくのがスローモーションの様に見えました。やった出来ました。


「ぎゃあああ!」

「あら、いけません!」


ナイフを持った男の右腕の肩から先が粉々になって吹き飛んでしまいました。大変です。大惨事です。どうしましょう。


それを見たミカンちゃんはウエストポーチからポーションを2本取り出すと、1本は肩に、もう1本は悲鳴をあげる男の口へ差し込んでいます。


こんなに小さい女の子なのに、ヘンタイさんよりも何倍も頼りになります。


「行くです。」

「はい、ありがとうございます。」


ミカンちゃんの声で現実に戻った、わたくしはミカンちゃんについていく為に走り出します。


進んだ先には3つの部屋があり、捜索は最奥の部屋を残すのみとなっています。前の2部屋は木箱が置いてあるだけの倉庫でした。


「ここが最後です。」


ミカンちゃんは金属製の扉に2色の光を帯びたメイスを交互に叩きつけます。先程は右手の1本だけだったのに、もう2本ともミカンエアリアルスマッシュになっています。


その後も何回か打ち付けると扉が変形していき、強引に隙間が出来てきました。もう2、3回打ち付けた所で隙間が大きくなり通れるようになると、ミカンちゃんは大した確認もせずに中に入っていきました。


すこし狭いですが頑張ればわたくしも通れそうです。その隙間から中を伺うと周囲を石の壁で囲まれた最奥の大部屋には女性が3人と男性が1人閉じ込められている事が窺い知れました。


「アルルちゃんのお母さんはいるです?」

「は、はい。私ですが。あの…。」

「助けに来たです。」

「え?」


アルルちゃんのお母様と返事をされた女性は自分の娘と同じぐらいの歳の女の子が助けに来たと言われてもピンと来ていないようでした。


今自分自身に起きている事を考えて、どうするべきか戸惑いになっている様でした。


仕方なく髪に気をつけながら、肩を入れ扉の隙間に体をねじ込んでいきます。


「フロース王国 公爵家 フランシスカ アーホルンが皆様方の安全を保障いたします。先導しますのでご同行下さい。」

「はい…。公爵家のご令嬢様?」


「歩けない方はいらっしゃいませんか?」

「はい、大丈夫です。」


わたくしは扉を潜り前に出るとアルルちゃんのお母様達に公爵家の長女として、責任を持ってご家族の所までお送りする事を誓わせて頂きました。


アルルちゃんのお母様は比較的最近、ここに閉じ込められた様でそれ程まで衰弱はしておられませんでしたが、中にはかなりの間、閉じ込められていた為にフラフラとなりながら立ち上がる人もいらっしゃいました。


少し健康状態が心配ですが、もうならず者もいませんし地上には兵士たちもいますから、もう少しだけわたくしと頑張りましょう。今回はアルルちゃんの為に全力で行くと決めましたから。


そんな決意も虚しく30秒もしない内に兵士が駆けつけて来てくれました。荒くれ者の確保と長期間囚われていた2人に肩を貸すようにお願いしました。


わたくしとしては扉の隙間を直ぐに、広げた兵士に特別な報酬を贈りたいと思いましたわ。


「アルルちゃんのお母様はわたくしが、他の方も先ずは家族の所までお願いします。お話を伺うのは後日として下さい。」


わたくしは兵士にそう指示すると、3人でアルルちゃんの待つランジェリーショップへと並んで歩き出しましたわ。


「ざっとこんな所でしょうか、それにしてもあそこでアルルちゃんと遊んでいる女の子が、こんなにもステキな女の子だったなんて、このパーティの最高の秘密ですわね。」


「ええ、いざという時はミカンちゃんが一番頼りになるのよ。アイツの何倍も。」


「はい、それは先程実感致しましたわ。ふふふ」


とりあえずアルルちゃんの家族は元どおりになった。元凶のメウナンが野放しなのが心残りだが、アルルちゃんの家族に笑い声が戻ってから良しとしよう。おいカレンその下着はお前にはまだ大き過ぎるぞ。

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