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ミッション 精霊と話せ

既に騒ぎになっていたが、俺たちは兵士が来る前にズラかる事にした。マリリさんは採掘者たちを置き去りにする事には抵抗があった様だが、タリリと俺とで無理やり引っ張って来た。


「必要ならば戻ればいいので、1度戻りましょう。ミッションの件で心配してるはずですから。」


宿屋ではカレンとフランシスカさんが寝ずに待っていた。アルルちゃんとミカンちゃんは、もう夢の中だ。


「そう、スリを捕まえろと争いを止めろってミッションが失敗したのね。」


「ああ、花瓶はマリリさんが防いでくれたから。

最後のミッションでスリのナイフをギリギリ避けれた。」


「で、アンタはコインの入った袋をすられた挙句、死にかかったんだ。」


カレンは腰に手を当て、かなりのご立腹だ。4人の採掘者がそのスリに瞬殺された事を伝えた瞬間からこの調子だ。


「もうバカじゃないの。本当にバカよ大馬鹿よ。」


「それにしても、そのスリは只者では無いようですわ。」


「そうよ、アンタの護符はマリリさんが買ってくれた護符と同じ奴なのよ。それが一撃で無効にされてるのよ!」


「もっと気を付けてよ!心配させないでよ!」


カレンの慟哭は次第に、涙声に変わっていく。マリリさんの護りの護符を1撃で無効にさせた相手を俺たちは覚えている。ダンジョン詐欺師だ。


親切なおじさんのパーティ9人で倒した凄腕の詐欺師だった。その時は詐欺師の一振りでカレンの護符が使い物にならなくなった。あの時の恐怖はいまだ忘れられない。


今回はただミッションに従って反射的に行動していただけの事もあり、ケガをハッキリとは認識できてはいなかった。


今となって震えが襲ってくる、あのミッションが無ければ確実に死んでいた。あの4人の採掘者の顔が今更ながら鮮明に思い出される。あのナイフがフラッシュバックしてくる。


「アンタ、大丈夫?」

「あ、ああ。ごめん。」


俺の顔面は蒼白なんだろう、心配そうにカレンが覗き込んで来ると俺は堪らなくなり彼女を抱きしめた。


「もう、大丈夫よ。みんないるから。」


「大丈夫よ。私が守ってあげるから。」


きっと俺は年甲斐もなくブルブルと震えていたんだと思う。ただただ怖くて、ただただ恐ろしくて。


そんな俺をカレンは強く抱きしめ返してくれていた。


翌朝、俺はいつの間にか寝ていたようでベッドで目を覚ました。横にはカレンが1人で寝ている。ミカンちゃんはアルルちゃんと一緒のようだ。


カレンの寝顔を見ていると、昨夜カレンに抱き着いた事が思いだされ居ても立っても居られなくなった。


「うががぁああー!やっちまったー!」


頭を掻き毟り、ベッドの上をゴロゴロと転がり叫ぶ。穴があったら今すぐにでも駆け込んでいる。


「煩いわね。」

「煩いですよー。」


そんな俺に枕が飛んでくる。ジェシカさんは枕で直接殴って来た。ポスポスと殴られるが寝ぼけているようで、全く痛くは無い。


「勝手に取らないでよ、ヘンタイ。」


カレンは投げつけて来た枕を取り返しに来ると、再びベッドに横になった。まだ眠いのだろう、昨日の俺はどれだけ迷惑を掛けたのだろう。本当にすまない。



その後、俺たちは朝食を取ると、街の市場で食料を買い込むと直ぐにイーリスの街を出立した。スリの報復を警戒して早めに出る事にしたのだった。



今日の御者は俺だ。気分転換も兼ねてタリリの指導を受けている。簡単に見えて中々難しい物で集中したいのたが、車内から妨害が入る。


「怖いよー。抱っこしてー!カレンママー。」

「ミカンも抱っこしたかったです。よしよしです。」

「いいなーアルルもカケル兄ちゃんを抱っこする!」


ジェシカさんが人形を抱いて、あやしながら裏声で抱っこ抱っこと連呼している。それを聞いたミカンちゃんとアルルちゃんは真似をしている。


俺も恥ずかしいが、きっとカレンも真っ赤なんだろう。爆破する前にマリリさんかフランシスカさんが止めてくれるだろう。


「あーもう!アンタの所為よ。」


カレンは車内に居づらくなり、御者台に移動して来た。俺は2人の先生から指導を受けている状態だ。

交互にに叱責が飛んでくる。


「馬が無理してないか良く見なさいよ。」

「そんなの分からないって。無理だ。」


全身にウロコを纏った馬もどきの無理か無理じゃないかなんて見て分かる訳もない。お手上げだ。


車内ではジェシカさんとフランシスカさんとマリリさんが昨晩の事をまだ繰り返し話している。静かになると耳に入ってくるので俺もカレンもいつもよりも大袈裟にはしゃいでいる感じだ。


「なあ?この辺でホームポイント欲しいよな。」

「え、ホームポイントって何よ。」


「カレンの腕輪で跳べるダンジョンって事だ。リーリオに行く時にリーリスに戻って来れたら楽だろ?」

「確かにね、けど分かりづらいからダンジョンって言いなさいよ。カッコつけたって無駄よ。」


カレンの勝ち誇った顔がムカつく。昨日の俺の根性を叩き直してやりたい。タリリのラウンドシールドを回してみても時間は巻き戻らない。



「カケル何をしてるんだ。」

「いや、意味は無い。」

「真面目にやらないと馬も怒るわよ。」


カレンは全面の窓を開けると、頭を突っ込んだ。


「ねぇ、この辺りってダンジョン無いわよね。」

「ラヴァンドの町も、リーリスの町も街道沿いの宿場町ですから、この近くには有りませんわ。」


カレンは頭を抜くと左右に振る。


「ほらね、無かったわ。もし有ったとしてもアルルちゃんを優先するわ。」

「了解。」


「分かったなら、きちんと走らせなさい。」


そうして再びスパルタ訓練が開始され、2人からの口撃が休憩地点まで続いた。


リーリスまでは2日必要で、今夜野営すれば明日にはリーリスを通過できる予定だ。そうすればラヴァンドの町まで2日も有れば到着する。


今夜は川の畔に広場を見つけると、そこに小屋を設置した。


「ジェシカさん、もうちょっと手前に。」

「はーい、これぐらいですかー。」


カレンとジェシカさんは小屋の周りにエリアセンサーを設置している。


「マリリさん、このぐらいで宜しいのでしょうか?」

「はい、もう少し多めにお願いします。」


フランシスカさんとマリリさんは魔物避けの薬を小屋の周りに撒いている。多少の無駄になっても効き目が無いよりかは安全を優先しての指示だろう。


ミカンちゃんとアルルちゃんとタリリは風呂の準備をしている。タリリからは暫く俺は小屋に入るなとキツく命令された。バタバタと3人が走り回っている音がしているが、まさか全裸で追っかけっこをしている訳では無いと思いたい。


俺は夕暮れの中、川面を眺めている。流れの中には魚影が見えるので今夜のオカズを1品追加する予定だ。


「バンバンバン」


水面には波紋も立たないし、魚も相変わらず優雅に泳いでいる。屈折でもしてるのか全く、当たる気がしない。


「塩焼きが食べたいんだ、俺は。」


位置をズラして色々試すがカスリもしない。もしかして当たっているけどダメージが無いだけかもしれない。


久しぶりに精霊さんに聞いてみよう。


「あの、精霊さん」

「見てたからわかるよー。」


「それじゃあ!」

「お願い聞くから、お願い聞いてー。」


「お願い?」

「そう、お願いー。名前で呼んで欲しいのー。」


「名前?」

「そうー。」


「さあ呼んでー。」

「いや、名前なんだよ?」


「真名を当ててねー。」

「そこからかよ!」


「光だから光、ライト、あかり、ともしび。」

「外れー。」


「キラキラ、ピカピカ、ギラギラ、ピカーン」

「外れー。」


思いつくそばから、口にだしていくが当たらない。


「ヒントくれ、ヒント!」

「やだー。ダメー。」


「ルミナス、ルミネ、イルミネーション、イルミ」

「もうちょいー。あと少しー。おしいー。」


「どれだ?イルミネーションか?」

「ああー。時間切れー。おやすみー。」


彼女の声が聞こえなくなると、辺りは暗闇に覆われていた。魚影も見えなくなっている。賑やかな声の代わりに虫の鳴き声が聞こえている。


振り返ると小屋の窓に明かりが灯っているのが、暗闇の中浮かんで見える。それを頼りに戻っていく。


「ただいま。」

「アンタ遅いわよ。もう夕食は作ったから、さっきと座りなさい。」


確かにいい匂いがしている。俺は皆の待つテーブルへと向かった。


「カケル何してた?」

「ごめん、ミカンちゃん。川で魚を採ってたんだけど。」

「採れたです?」

「採れなかった、ボウズだ。」

「ボウズです?」

「ああ、毛のない人をボウズって言うんだ。」

「つるつるです。」

「つるつるー。」


ミカンちゃんもアルルちゃんも坊主の意味が分かって無い様だが、何故か大ウケして2人して大笑いしている。




男は机の上に金貨を山の様に盛り上げると、今まで何回もしてきた事を繰り返す。一心不乱に祈り、欲望を呟いている。しかし最期の最期になって男の望みは叶わない。男は再び金貨を手に取り数え始めた。

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