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ミッション アルル

その少女の名前はアルルと言った。12才の赤髪の猫耳の女の子だった。カレンを小さくしてもこんなに可愛くはならないだろう。奴は凶暴だ。


「人攫いから助けて頂いて、ありがとうございます。」


少女は幼いながらも、フランシスカさんに御礼を伝えている。


「いえいえ、たまたま通りかかっただけですから、お気になさらないで。」


「いえ、このお礼は必ず。このままお嬢様が拐われていたら、お家の商会も危ない所でした。」


「我々からも御礼を申し上げる。お嬢様には過失は無い、有るとすれば守りきれなかった我々にある。」


俺が剣を切断した男が少女を庇っているが、少女も負けていない。


「私がクブルムへ行きたいとワガママをお父さんに言ったのがいけなかったのです。」


とあくまでも自分だけに非がある様に、2人の男達をかばっているが、俺たちが少女らの責任についてどうこう言うつもりは無い。


「フランシスカさん、クブルムにどうして行きたかったのか聞いてー。」


ジェシカさんの催促でフランシスカさんは少女の前で屈むと声を掛けた。


「どうしてクブルムに行きたかったの?」


「お姉ちゃんに会いたいの。カレンお姉ちゃんに!」


「え?!」

「えー!」

「まあ!」

「あらあら!」

「妹かよ。」


フランシスカさんだけでは無く、俺たちもつい驚きを口にしてしまう。カレンの実家は商会だったのか。カレンの昔の話は聞いたことが無いなと今更ながらに思った。


「みんな無事ね。商人さん達にもケガは無い?」


馬車をUターンさせ、1人遅れて戻ってきたカレンはメンバーと商人達の状況をその目で確認していく。


「カレン、妹さん無事で良かったな。」

「え、誰の?」


皆の視線がカレンを離さない。


「え?私の?多分いないわよ。」


多分って何だそれは。この子が可哀想だろうが!


「あ、あのカレンお姉さんですか?赤髪の魔法使いでダンジョン発見者の?」


「え、ええ。そのダンジョンがクブルムならね。」


カレンが言い終わるよりも早く、少女はマリリさんの手を離れて、馬車へとよろけながらも走り出した。


「ちょっと!大丈夫。」


カレンは馬車にブレーキを掛けると、飛び降りて少女の小さな身体を支えた。


少女はカレンにしがみつく様にしながらも、その顔を見上げ続けている。その瞳からは涙が溢れてきている。



「えーっと、カレンとそのアルルちゃんは姉妹では無いと。」

「そうよ。」

「はい。」


「アルルちゃんはカレンお姉ちゃんに会う為に、クブルムへ行こうとしていたんだ。」

「はい。」


「どうして私に?」

「私、赤猫って何時も男の子達に悪口を言われるし、私がお姉ちゃんみたいに強くなれば、お家のお仕事の迷惑にならないかなって。」


カレンはアルルのしがみつくその指先の力強さを感じながらも、憤りを感じていた。


「どうしてアルルちゃんがお家の迷惑になるの?」

「そ、それは。」


アルルちゃんは俯いて絞り出す様に、震える声を出していく。


「私が弱いから、お店にも嫌がらせされるの。この前も怖い人がお店にずっといたから、お客さんも買い物出来なくて帰っていくの。」


カレンはアルルの頭にポンと手を乗せると、アルルはカレンを再び見上げた。


「アルルちゃんのお店は何処にあるの?馬車が壊れちゃったから送ってあげる。一緒に帰ろうか。」

「カレンお姉ちゃん、お家に来てくれるの!」


アルルはまだ少し不安そうにしながらも、笑顔が戻って来ている。


「みんな、少し寄り道するけど良いわよね。」


その提案に意見する者はもちろん誰もいない、タリリなど目をキラキラとさせている。何を期待しているのだろうか。


フランシスカさんは2人の男達と話をすると、ジェシカさんから予備のショートソードを受け取ると1人の男に手渡している。


ショートソードを受け取った男達はアルルと馬車を残して踵を返し、街道を馬で走って行った。


「あの方達はアルルさんのお父様がお雇いになった護衛の方でしたので、先にお父様の元へ連絡する様にお願いしましたわ。」


「ありがとうフランシスカさん。で残りはコイツらね。」


既にハーちゃんの支えが無い馬車は斜めになっており、その先の地面には4人の盗賊達が横たわっている。


「ミカンちゃん、生きてるのよね?」

「ハイです、カケルがやり過ぎだったのでポーションかけたです。」

「ありがとね、ミカンちゃん。」


連れて行けば賞金が出る可能性はあるが、賞金首では無い可能性のが圧倒的に高いし、生きたまま連れて行かなければならずに食料やこちらの寝込みを襲われる危険性も増える。


「コイツらはここに置いていきましょう。アンタ写真撮っておいて。」

「ジェシカ、もう撮りましたー。」


ジェシカさんはスマホを片手にカレンに返事を返している。仕事が早いな。盗賊をそのままにして、馬車に乗り込もうとした俺たちにフランシスカさんから声がかかる。


「アルルさんはこの方達はご存知ありませんよね。」

「はい、見た事はありません。」

「では、直接のお伺いするしか有りませんね。どなたの指示でされたのか。」


フランシスカさんは盗賊達の前に行くと、優しく微笑んだ。


「誰からのご依頼かを最初にお話し頂けた方だけ、お命を差し上げますわ。他の方は残念ですがここまでです。」


だが盗賊達はフランシスカさんを一瞥はするものの無視を決め込んでいる。このまま放置される事が一般的だからとお嬢様然としたフランシスカさんを舐めているのだろう。


「さあ、早くお話しを。1人だけですわよ。」


フランシスカさんが盗賊の顔の前にレイピアを突きつけながらの催促にも盗賊は応じない。


「…。」

「…。」


フランシスカさんと盗賊の無言の睨み合いが続いた。


「ふぅ、変ですわ。我先にとお話しを頂ける物とばかりと思ってましたのに。」


溜息をつきながら、根負けしたフランシスカさんがレイピアを鞘に戻しながらトボトボと帰ってきた。


「アンタ、手加減しなさいよ。殺したらこっちが捕まるんだからね。」

「了解。多めにポーション使うから大丈夫だ。」


俺はウエストポーチから1本のポーションを取り出すと盗賊の見える位置に置く。


「ルールは今と同じ、先着1名だ。ただし制限時間はお前たち次第だ、頑張れ。」


俺はショートソードを引き抜くと、縛ってあるロープを傷付けない様に男達の足首を刎ねていく。


「ギャァ!」

「テメエ!」

「痛ぇー」

「あああ!」


当然、悲鳴があがるがこっちは真剣だ。予備のポーションを準備しつつ盗賊が出血多量で死なない様に4人の顔色に注目し続ける。


「だれも要らない様だな。」


早く切り上げる為に、ポーションを拾い上げ盗賊を揺さぶる。どれぐらいで致命的か分からないので心臓のドキドキが止まらない。早く白状してくれ。


「お、おれが!」

「メウナンだメウナン商会の!」

「テメエ!」

「娘を攫ってくるのが指示だ、早く薬を!」


1人が話し出すと、他も我先にと叫び始めた。


「他には?」


もう1本のポーションを出すと盗賊の前に翳す。


「娘以外は殺せとの指示だ。」

「ああ、クソ!俺の分も残しておけ!これは聞いた話だがこの娘の母親を殺したのもメウナンって話だ。」


予想以上に協力的になってくれて、ホッとした俺はカレンを見ると頷いていたので、足首にポーションをかけていくと傷口がみるみる塞がり、出血も止まった。


アルルちゃんは自分の事だけでは無く、母親の話まで出て来たので驚いて固まっている。その肩をそっとカレンが抱いている。


俺たちは車輪の壊れた馬車と盗賊をそのままにして、イーリスの街へ向けて馬車を進めている。今の御者はタリリが務めている。その横にはマリリさんと俺が座っているが、前面の窓を開けているので車内の会話には加わる事が出来ている。


「カレンお姉ちゃんに渡す様にってお父さんから。」


とアルルちゃんはカレンに封筒を渡している。それを丁寧に開けたカレンは10枚の金貨と手紙を手にしていた。


(カレン様。


見ず知らずの不甲斐ない父親からのお願いどうかお聞きください。我が商会はメウナン商会より様々な妨害を受けております。現在商会を畳む準備をしておりますが、先日妻が行方不明になり娘の身にも危険が迫っている事が確かな為、娘の希望に沿う形で貴女様の元へ向かわせました。


どうか、娘を安全な孤児院へとお連れ頂きたくお願い致します。

僅かですが、その費用として金貨を同封致しました。


パテル)


カレンはその手紙をフランシスカさんに手渡すと、静かに全員が読み終わるのを待った。


「世直しですよ!悪徳商人は成敗ですー!」

「そうね、孤児院の件は後回しで成敗しましょ。」

「懲らしめてやりますわ。」

「タリリ止めないでくれ!」

「もちろん、止めませんわ。欲に目が眩んだ哀れな罪人にはお仕置きが必要です。」

「アルルちゃんは守るです。」


カレンは最後に父親からの手紙をアルルちゃんに見せるとはっきりと宣言した。


「大丈夫。私がアルルちゃんとお父さんが一緒に暮らせる様にするから、任せてね。」

「はい、お願いします。カレンお姉ちゃん。」


アルルちゃんは自分が孤児院に預けられると知った事にも驚いていたが、カレン達全員がさっき知り会ったばかりの自分と父親の為に手を貸し、必ず解決すると約束までしてくれた事に、涙が止まらないでいた。



その小さな手はずっとカレンの手を握りしめて、離さないでいた。それは疲れて寝てしまってもそのままだった。まるでやっと掴んだ希望が泡の様に消えてしまわない様にしっかりと握られていた。

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