ミッション テントから小屋へ
その男は重厚な机の上で金貨を数えている。
男の夢、それは野望とも言える物であり、その為には、この田舎町など自分を縛る邪魔な物でしか無かった。
リーリオへ旅立つにあたってテントを購入するかの話をしている。王都で購入したテントは6人用だ。カレン、ミカンちゃん、マリリさん、タリリ、ジェシカさん、フランシスカさん、そして俺で合計7人だ。
「見張りが必要だから6人用でも問題は無いのよね。」
「ベットが欲しいですー。私持ちますから。」
「そんな大きなテント売ってなかったわ。」
「そうなんですよねー。」
「それでしたら、離れの小屋を改装させますので、それを使いましょう。」
「騒ぎにならない?」
「お父様に許可を頂いてしまえば、屋敷内の事なので問題有りませんわ。」
その日のうちに王都まで、乗合馬車を貸し切って帰って来た俺たちは貴族街の家具屋で7人分のベットと寝具を買い込んでいた。
「小屋の前に買ったけど、大丈夫よね?」
「はい、お父様は何でも聞いて下さいますから。」
アザリアの時もそんな事を言っていたから、きっと公爵様はフランシスカさんには甘々なんだろう。
「あらカケルさん。それは勘違いですわ。お父様はカレンさん達を自分の派閥とアピールするつもりなんですから。ですからわたくしをリーリオまで同行させる事でより堅固なものにしたいのですわ。」
フランシスカさんは読心術のスキルでも持っているのかと思うぐらいの正確さで、俺の考えを否定して来た。
「ですから、お父様には色々とお願いを聞いてもらいますわ。」
フランシスカさんは、ふふふと小悪魔の様な仕草を振りまいている。俺も小悪魔に魅了されたのか、この子の為なら全財産を投げ出しても構わないと思えた。
案の定、公爵様も小悪魔には勝てなかった様で、その日の内に小屋の改装が始まった。外装は木の外壁の上に鉄板を貼り付けている。内装はキッチンと小さな風呂とトイレを新しく追加していた。
俺はカレンとフランシスカさんと外装の補給工事を離れた場所から眺めている。
「鉄板なら矢ぐらいなら、防げそうですね。」
「いえ、あれはアダマンタイトとミスリルを重ねていますので矢も魔法も防ぎますわ。」
フランシスカさんの何でもないと言う感じの言葉の中に気になる名称が2つも有った気がする。
「ア、アダマンタイトにミスリル!あ、アンタ、ミスリルよ!」
カレンも動揺しているから聞き間違いでは無い様だ。王都の名店ドワーフ&ドワーフでもミスリルやアダマンタイトの武器は見なかった。
「ミスリルってそんなに凄いんですの?このレイピアも確かミスリルでしたわ。杖の代わりに精霊石を嵌め込んだ剣をお父様にお願いして、作って頂きましたの。」
そう言ってフランシスカさんがレイピアを鞘から少しだけ抜くと、フランシスカさんの周りを風が周りだし、落ち葉を巻き上げていく。
「凄いわ!精霊石なんて初めて見たわ。」
興奮状態のカレンの肩を捕まえる。
「カレン、精霊石ってなんだ。凄そうな雰囲気は分かるが。」
「え?魔法石にはね、下から魔鉱石、魔石、加護石、精霊石ってランクがあるの。」
興奮冷めやらぬカレンは口早に説明していく。
「魔鉱石は原料となる石ね、効果は無いわ。魔石は魔鉱石に精霊が力を出す為の環境を封じた物ね。水の精霊には水の環境をね。加護石は精霊の力を封じた魔鉱石ね。」
「加護石?」
「ドワーフ&ドワーフの剣の硬度上昇効果がそうよ。精霊の力が大抵1つ封じてられているわね。そして最後が精霊石よ。精霊の力ではなく、精霊そのものが宿った石なのよ。精霊石だけは創り出すことは出来ないからとても高価なのよ。」
「加護石で金貨30枚から上は200枚だったから、その以上なんだろ。幾らなんだ…。」
「知らないわよ。」
「すみません金額は確認していませんので。」
美術館で飾っている宝剣を振り回している感じに、俺がビビっているとフランシスカさんは申し訳なさそうに答えてきた。お父様、娘の為なら本気だな。
この小屋の改装工事はあと、3日程で終わらせるらしい。フランシスカさんが1日でも早く出発したいらしく王都の職人さん達を総動員しているらしい。流石公爵家。
「それではお父様行って参りますわ。」
「うむ、気をつけるのだぞ。」
正確に3日後、フランシスカさんの父親、ロドヴィック公爵と使用人達の見送りを受けて、公爵家から馬車は出ていく。
目指すはイーリスの街、ここより3日の距離だ。タリリとカレンが交代で御者を務めている。今の御者はカレンで両隣にはミカンちゃんとフランシスカさんが座っている。
「カレンさん達はどうしてリーリオの街へ?」
フランシスカさんの質問を予見していたカレンは、ジェシカさんに続いて2度目となる説明を始めた。
「サイリサスの伯爵がね、自分の奥さんに似ているからって理由だけで子供たちを監禁してたから、屋敷に乗り込んで助け出したのよ。相手は伯爵でしょ、だからお咎めなしって訳にはいかずに、その代償としてマリリさんが教会を転勤させられたのよ。」
「許せませんわ、サイリサスは確かソウロム伯でしたわね。出掛ける前ならお父様に頼んで取り消させたんですけど。もっと早くお聞きするべきでしたわ。」
フランシスカさんは拳をググクと握りしめて、悔しそうにしている。その様子を嬉しそうにカレンは見ている。
「うん、私も最初は伯爵には腹が立ったわ。馬車はお尻が痛いし、盗賊は襲ってくるしね。だけどアザリアから出たから、ジェシカさんとも会えたし、こうしてフランシスカさんともパーティを組んで旅ができると思うと、それで良かったかなって思うのよ。」
フランシスカさんは握っていた拳を、開いて口に持って来ている。その瞳はうるうると滲んでいる。
「カレンさん…。」
「ぴろりろーん!」
(ミッション 商人を助けろ 制限時間 1800秒)
「え?」
「きゃあ?!、何でしょうか。」
「カケル何です?」
御者台の3人はミッションの発令に驚き、それぞれが声を上げる。俺はミカンちゃんに答えるべく馬車の前面の窓を開けた。
「商人を助けろ 。残り1785秒」
「商人ね、分かったわ。」
「あの、カレンさん。これは?」
「秘密その3よ、この前説明しようとして忘れてたわ。」
「これもこの7人にしか見えないんですよね。」
「そうよ、この読めない文字はアイツの国の文字らしいのよ。アイツ以外読めないわ。」
フランシスカさんは顔を傾けたりして、文字を横から見ようとしているが上手くいってないようだ。
「これはね、私たちに危険が迫ったり、良くない事が起こる前にそれを回避する為の方法を教えてくれるの。それをいつ迄にやる必要があるのかもね。」
フランシスカさんは口を閉じて少し考えている様だ。
「これは予言の様な物と考えても良いのでしょうか?」
「そんな凄い物じゃないと思うけど、何度か命を救われた事もあるわ。」
そこまで説明したところで、正面に土埃が立つのが見えて来た。馬車が勢いよく走ってくるのが明らかになってくる。
「馬車が追われているわ。追っ手は2人よ。」
幌付きの馬車が2人の騎乗した男達に追いかけられている。今にも追いつきそうだ。
「追っ手を倒すか?」
「アンタ出来る?」
「ああ、いける。」
俺は向かって右側の追っ手に右手の人差し指を伸ばして照準を合わせる。さてどこを狙うか。人か馬か。
「馬は悪くないよな。人だよな。肩でいいか。」
揺れる馬車の窓から肩に狙いを絞る。すると馬車のドアが開くと少女が顔を出した。直ぐそばの追っ手を見つけると少女は手を伸ばしたが、何者かに少女は馬車の中に引っ張り込まれると扉が閉められた。
「おい、カレン見たか。」
「女の子よね。」
そうしている間に馬車が迫って来ている。カレンは街道を逸れ向かってくる馬車をやり過ごそうとした。馬車の御者と目が合う。薄汚れた革の鎧を着込んだ2人組みだった。馬車の窓からは中の様子は見えなかった。
「お嬢様ー。」
騎乗の2人の男達も革の鎧だったが、こっちは清潔感があるし盗賊らしく無い。
「アンタ、馬車を止めて、早く!」
「ヘンタイさん、馬車です!」
カレンとフランシスカさんの声が目標を告げるが、俺は馬車の扉を開け放ち、上半身を乗り出して既に狙いは付けていた。
「バン、バン」
指先から放たれた光線は、俺の掛け声とほぼ同時に馬車の車輪を破壊した。右側の車輪を全て無くした馬車は急激に傾きつつ地面に衝突すると思われた。
「ハーちゃんです。」
馬車の前方に突如出現した猫の人形型のゴーレムが馬車を受け止め支えた。ハーちゃんは強く踏ん張る事はせずに勢いに任せ馬車が止まるのを待った。
「ミカンちゃん、ナイス!」
「カケルもナイスです。」
俺たちは声を掛け合うと方向転換中の馬車から、飛び降りて走り出す。直ぐ後ろにはフランシスカさんとタリリとマリリさんも来ているのが分かっていた。
御者台の2人はミカンちゃんに任せる。2対1だがミカンちゃんなら大丈夫だ。馬上の男達が馬を寄せ、降りようとしているが気にしている暇は無い。
馬車のステップに乗り窓から、少女の頭の位置だけを確認するとレーザーを扉越しに乱射した。
「ごめんな。」
ドアをレーザーで焼き切って開けると、2人の盗賊と1人の少女が蹲っている。男達へ更なる追撃を浴びせて抵抗が無いのを確認すると、少女を抱きかかえて外へ出た。
「動くな!」
馬上にいた男の1人が剣を俺の顔元へ向けている。俺はその剣を頭上からのレーザーで根元から切断するとマリリさんの元へ走り出した。
「なっ?!まっ待て!」
「止まれ!」
俺とすれ違う様にタリリとフランシスカさんが剣を構えて2人の男と相対する。
「貴方達はどちらでしょうか?」
フランシスカさんは男達に問いかける。
「どちらとは?」
「貴様等こそ何者だ!」
4人は剣を構えたままで動かない。しかし男達の1人は剣を破損しているし、タリリもフランシスカさんも剣の周りに風を纏わせており、緑色に輝いている。こちらが圧倒的に有利に見えるが男達は引かない。
「商人か盗賊かのどちらかと聞いています。」
「通り掛かりの採掘者だ。」
フランシスカさんとタリリさんは男達の質問にそれぞれが答えている。
「フランシスカさん、タリリ。女の子は無事だ。」
俺の声で男達2人が先に声を上げる。
「お嬢様は無事なのか!」
「お嬢様ー!」
マリリさんの横で手で補助されながらも、立ち上がる少女が男達の名前を呼んだ。
「デイビスさん、スミスさん。」
タリリとフランシスカさんが剣を下ろすと2人の男達は少女へと駆け出した。




