ミッション 公爵
フランシスカさんが返事をするよりも早く、その人物は1人の供を従い入室してきた。
「まぁ、お父様。それとイヴァン様まで。」
俺たちは立ち上がろうとするが、フランシスカさんの父親らしき人に止められた。
「寛いでいるところ済まん、ダンジョン発見者が来ていると聞いてな。」
年は50前だろうか、肩幅も身長もある金髪で碧眼の紳士だ。瞳の色はフランシスカさんは茶色なので母親に似たのだろう。
「はいお父様。こちらの方々がクブルムでダンジョンを発見された。カレンさん達ですわ。」
「初めましてカレンと言います。お嬢様にお招きいただいております。」
カレンが挨拶するのに合わせて、みな御辞儀をしている。もちろんジェシカさんもだ。
「イヴァン、例のアザリアの件で世話になった者達で相違ないか。」
「は、テオドルス伯爵の件でしたらまちがいありません。」
公爵様はイヴァンさんに確認を取ると、こちらのメンツを眺めている。
「このお転婆娘が世話になった礼を言う。そなたらを知らぬ者は初心者パーティが偶然見つけたなどと言っておるが、私は娘の急激な成長を目撃しておるからな、実力は疑ってはいなかったが。」
公爵様はなんとも微妙な表情だ。
「お父様、カレンさん達はカレンさん達なんですよ。初心者の様な装いは世間を欺く、仮の姿なんですよね?カレンさん?」
フランシスカさんは公爵様に話していたかと思うと、いきなりカレンに矛先を変えてきた。
「え?」
カレンは自分のローブを見下ろすと、タリリ、ミカンちゃんへと視線を滑らせていくと、慌てだした。
「フランシスカさん、どうしょう。王様の謁見もこの服だったんだけど…。」
「そうなんですか。予めお話しを頂けたらご用意も出来ましたけれど。」
「それでか納得した。城内での噂話の出所は。」
カレンの心細そうな独白を横で聞いていた公爵様は独りで納得されていた。
「フランシスカ、カレン。リーリオへ到着後、その足でベリス辺境伯へ赴き、この箱と手紙を手渡してくれぬか。」
俺たちが公爵様の様子をじっと伺っていると、公爵さまはお茶を入れてくれと言った感じの軽い口調で
依頼をして来た。もちろん俺たちに断る術はない。
「お父様?私もでしょうか。」
フランシスカさんは聞き間違いかと、聞き返している。
「フランシスカ、行ってくれるか?」
その言葉でフランシスカさんはカレンを振り返る。
「はい、承りました。お嬢様をお預かり致します。」
「お父様、ありがとうございます!カレンさん!」
そこには笑顔が咲いて、今にも飛び立ちそうなフランシスカさんがいた。
公爵様は話が終わるとイヴァンさんやメイドさんたちを引き連れて退出して行った。
「カレンさん、お父様の急なお願いを引き受けて頂きありがとうございます。それで…。」
フランシスカさんの視線はカレンに無く、右上を見ていた。
「先程カレンさんが承諾された瞬間に、文字の様な物がここに。」
フランシスカさんが指差すものは未完のミッションの表示だろう。パーティメンバーとして認識したから見える様になったんだろう。
「カレンこの際だ。腕輪もポケットも良いんじゃないか?」
「そうね、フランシスカさんはもう十分に仲間よね。みんないい?」
「はーい!」
ジェシカさんが1人叫んでるが、他のメンバーは真剣な表情で頷いている。公爵家の娘にバラすことは秘密を守る上では危険であるが、フランシスカさんを仲間と認めているし、万が一時には腕輪の力が必要になるかも知れないので、その時知られるよりは今がその時と判断した結果だ。
「あ、あの。ヘンタイさんはこれ以上の秘密がお有りになるんでしょうか。」
「そうよ。内緒にしてもらえるといいんだけど。」
「お父様にもですか?」
「そうね、出来ればね。」
「分かりました。」
流石フランシスカさん、いつも決断が早い。今回も躊躇無しだった。
「では、1番ジェシカ、手品やりまーす。ささ、助手君早く早くー。」
ジェシカさんが立ち上がり、俺を助手君と呼んでいる。その笑みをたたえた口は手品で流れるBGMを口ずさんでいる。不思議だ。
ジェシカさんはエプロンのポケットの口を摘み、フランシスカさんに膝を少し曲げたお辞儀をすると、くるりんと背を向けた。ジェシカさんはただ立っているだけの俺に小さな声で囁いてきた。
「早く、扉とか大きい物を出して下さいよ。」
「え?その辺の椅子とかは。」
「駄目です。手品はインパクトなんですー。」
俺がジェシカさんのエプロンに手を入れ、取り出すとドスンと鈍い音と共に2メートル近いダンジョンのトビラが現れる。俺はそれが倒れない様に支えた。
「まぁ!」
フランシスカさんの感嘆の声が聞こえ、俺もジェシカさんも振り向いてしまう。そこには口を手で隠して目を逸らすフランシスカさんがいた。
既にフランシスカさんは驚いてしまった様だ。ジェシカさんはどうするつもりなんだろうか。
「えーゴホン、この何処にでもあるダンジョンの扉が消えてしまいます!」
ジェシカさんは何事も無かったかの様に進めていく。ただ顔が赤い、耳まで真っ赤だ。
「3、2、1 ハイ!」
ジェシカさんは掛け声と共に、エプロンのポケットの口を扉に触れさせると、そこにはスカートを摘んでお辞儀をするジェシカさんだけがいた。
ジェシカさんは顔を上げると、カレンの元へ駆け寄ってくると床に膝をついてカレンを手を取った。
「くぅ〜、失敗しましたー!カレン師匠不甲斐ない弟子のカタキをー。」
「え?私もアレを?」
「カレン師匠、どうぞこちらのステージへ」
狼狽えるカレンに俺は声を掛けて、フランシスカさんの前に誘う。
「2番カレン、手品します。」
とカレンは俺を手招きする。ジェシカさんはテーマソングを口ずさんでいる。
「このヘンタイポーターが消えて、明日までに帰って来る手品よ。アンタ頑張りなさいね。」
「ちょっ?!」
カレンが、がっしりと両手で俺の手を握った。ミカンちゃんが何かを言っていた気がしたが、既に俺はフロースのダンジョンだ。
「どうすんだよ。マジで跳ばしやがった。」
ウエストポーチにポーションが数本と革袋にコインが何枚か入ってるだけだ。もちろん武器なんて無い丸腰だ。
「バンバンバン」
さっきから視界の端にいる、ハエトリ草に光魔法のレーザーを撃ち込んでいるが一向にコインに変わらない。
「MPの制限無いし、いつか死ぬだろ。バンバンバン」
俺は土の上に胡座をかいて、壁にもたれかかり魔法を連射している。しかし、いい加減飽きてきた。
足を投げ出し横になり魔法を放っていく。
「ファイア。」
聞き慣れた声が聞こえると、ハエトリ草は炎の柱に包まれた。
「アンタ!大丈夫?!」
「カケルさん!ヒール。」
カレンとマリリさんが地面に横になっている俺の元へ走って来るが、ケガが無いのを確認すると紛らわし事をするなと2人からお叱りを受けた。
「もう、ここがフロースのダンジョンなんですか。」
青いドレスのままで、左手には鞘に収められたレイピアを持ったフランシスカさんもそこにいた。
俺がカレンに叱られているとミカンちゃんは頰を膨らませてやってきた。
「あの、ごめんなさい。」
「そうです。レンちゃんが悪いです。」
頰を膨らませたミカンちゃんと肩を落としたカレン
が対照的でつい笑みが零れた。
その後はカレンのファイアで発見即消滅を繰り返して10分もしないうちにダンジョンから出ることが出来た。
陽の光を眩しそうに目を細めて見上げ、本当に王都では無い事が確認できると、溜息まじりに呟いた。
「これはお父様にも言えません。わたくしはお友達を兵士などにはさせませんわ。」
「え?兵士?」
「そうですわ、補給部隊も必要なく神出鬼没な兵士など、どこの軍隊も放っておくわけがありません。いきなり敵の懐に大軍を送る事が出来るのですよ。」
フランシスカさんは流石、公爵家の長女だ。考え方が採掘者とは違うなと感心してしまう。カレンはただただ唖然としている。きっと移動が簡単になってラッキー程度だったんだろう。
「フランシスカさん、そんなに凄く無いわよ。ダンジョンに行くのか少し楽になるぐらいよ。」
カレンは俺の想像通りの回答をしている。そんなカレンをフランシスカさんは少し困った顔で見つめている。
「わたくしも絶対にこの事を口外しません事を誓います。ですからカレンさんもこれ以上は誰にも話さないと約束してもらいます。」
フランシスカさんの真剣な眼差しにカレンは頷いている。
「約束するわ。だけどサイリサスの子供達やドラゴンなんとかってランク5のパーティも跳ばしちゃってるし。」
カレンは俺を見る。多分言いたい事は同じだろう。
「フランシスカさん、それでも多分俺たちは困ってる人や俺たちの安全を優先しますよ。なるべく知られない様にしますが。」
フランシスカさんはもう1度大きく溜息をつくと、目頭を手で覆った。
「とんでもない秘密を共用する事になってしまいました。ああ、これでお父様への秘密が又増えてしまいます、お父様ごめんなさい。」
言葉と裏腹に口調は軽く、こちらから見える口元は笑っているように見えた。
「フランシスカさん、なんかごめんなさい。」
「いえ、カレンさんはわたくしを信用して、こんな重大な秘密を教えてくださったですから、謝る必要はありませんわ。」
そう言ってカレンの両手を握ると、自分のドレスを見回して言った。
「本日の装いではお見せできませんが、わたくしにもヘンタイさんに教えて頂いた魔法で、お父様にも内緒の事が有りますのよ。機会を見てお教えいたしますね。」
うん、フランシスカさんは既にこのパーティメンバーに染まっている。父親に秘密にする様なヤバイ魔法を自己流で生み出すくらいに。俺の周りの女性達は人に言えない秘密が多過ぎると思う。
そんな気も知らず彼女達は、リーリオへの旅路について話題を変えている。その顔には不安のカケラも見られなかった。まるでたわいも無い世間話の様に。




