ミッション 新たな仲間
「もう、草だからって油断しないわ。全力でいくわ。」
カレンはミカンちゃんを心配し、今日の所は引き返す事を提案したがミカンちゃんに反対された。
「帰らないです。やられたらやり返すです。」
ミカンちゃんは意外と過激だった。その意気込みに俺たちは根負けし、探索を再開したのだった。
それからのカレンは燃えていたし、燃やしている。
その後姿には炎のオーラが見えても不思議では無かった。
「ファイア!」
ホウセンカが燃え尽きる。この植物モンスターも種を飛ばしてくるタイプだ。
「ファイア!」
ハエ取り草の群生地だったが、今燃え尽きた。
「ファイア!」
ウツボカズラも今燃え尽きようとしている。蔓の先端に消化液を湛えた捕食袋で採掘者を溶かして捕食する3メートル近い植物モンスターも一瞬だ。
豪華な扉を抜けたカレンの目の前には魔法陣の上に根をはる草が生い茂っている。直径は5メートルぐらいありそうだ。その植物から白い煙が立ち上っている。
「ボスのヘンプよ、あの煙を吸い込むと幻覚などの精神異常や仲間同士の殺し合いが起こるみたいだから注意してね。ファイア!」
葉の形からヘンプとは麻の仲間なんだろう、あの煙は大麻とかマリファナの強力なやつなんだろう。良くは知らないが。
「ファイア!ファイア!」
既にボスは燃え尽き、コインの生成を始めていたが、カレンは魔方陣の周りの煙に向けて連発している。
「レンちゃん、もう大丈夫です。」
「そ、そうね。」
カレンはミカンちゃんの声で、我に返って魔法の行使を中断した。
「銅貨でしたー。」
ジェシカさんは魔方陣の上から3枚のコインを拾い上げると高らかに宣言した。
「赤字ね、大赤字よ。」
「採掘だけが目的ならそうだな。」
「ミカンちゃんがあんな目に遭ったのよ。」
「ごめんなさいです。」
「え?ミカンちゃんは悪くないわ。悪いのは草よ。草!」
カレンはジェシカさんが戻ってくるのを待つと2階層への階段を降りて行った。
みんなの見てる前でカレンの姿が一瞬だけ消えた。
「転移できるわ。帰りましょ。」
どうやらカレンはその場で転移を実行し、フロースのダンジョンへの転移が可能となっているか確認を終えたみたいだ。
今の時刻は夕方の5時ぐらいだろう。俺たちはダンジョンを出て宿屋の1階でテーブルを囲んでいる。
「お風呂が欲しいわ。お湯で拭くだけじゃ疲れは取れないわ。」
「ふーって言いたいです。」
「お風呂っていいですよねー。王都に戻ったら買うんですよね、テントとか色々とー。」
女性達は風呂に入りたいらしいが、このダンジョン周辺には無い。宿屋があるだけでも十分凄いと思うが。
「1部屋銀貨2枚もするのに、お湯も別料金なのよ。ぼったくりよ。」
「しかも1パーティ2部屋までって、どこで寝るのんですかねー。」
「この夕食も1人前で銅貨5枚と高価なのは、フロースのダンジョンを拠点とする採掘者は優秀な方が多いって事なんでしょうか。」
大赤字で不満が残るカレンと床で寝ることになるかもと心配なジェシカさん。マリリさんは2人とは考え方が真逆で採掘者を称えている。うん、マリリさんは天使だ。
食事を終え部屋に戻るとツインベッドだった筈の部屋に小さなシングルベッドが追加されていた。
「私の分までありますー。ありがとうございます。」
「ミカンはレンちゃんと一緒でも良かったです。」
「ふふ、ありがとミカンちゃん。」
深夜、ふと目が醒めた。目が闇に慣れてくると目の前には緑の髪の少女がニヤニヤと笑いながら、ヨダレを垂らして寝ているのが見えてきた。
「何を夢見てるんだか。」
俺はそう呟くと、その少女の尊厳のために寝返りをうち背を向けた。
「ぶっ?!」
カレンにミカンちゃんが抱き着いているのだが、カレンの着ている猫耳パーカーがミカンちゃんの頭で胸の上まで押し上げられている。
辛うじて下着は無事のようだが、目のやり場に困る。もう少し見ていたいが自分の毛布をカレンに掛けてやる。
再び中央のベッドに寝転ぶとわずかに見える天井の年輪をボーっと眺める。ふと、入口のドアが気になり視線を動かした。
「ぴろりろーん!」
(ミッション 暗殺者を撃退しろ。 制限時間 30)
「…?!」
声が出そうになるのを我慢して、ドアノブを凝視した。音をたてずにゆっくりと回ると、少しづつ開いていく。
「カレン、ミカンちゃん、ドアだ!暗殺者だ!バンバンバンバン!」
俺はドア越しにレーザーを乱射する。倒すほどの威力は期待していない、牽制出来れば十分だ。
乱射しながらも、ジェシカさんのエプロンのポケットに手を入れてダンジョンの扉を取り出して、窓に立て掛けた。念のために窓からの襲撃対策だ。
「何よ?」
「暗殺者だ。ドアの向こうだ。」
隣の部屋のドアが開くと、マリリさんとタリリの声が聞こえる。
「何者です?」
「カレン!大丈夫か!」
まだ暗殺者はいるらしい。俺はカレンと目配せをすると入口のドアを収納して廊下に躍り出る。
そこには全身真っ黒な格好で頭巾を被った男が1人でタリリとマリリさんに対していた。その手には黒い刃物が握られていた。
「マリリさんこっちは大丈夫です。相手は1人ですか。」
叫びながら視界の右上に表示されているカウントが残り5秒を残して停止しているのを確認したが、暗殺者がそこに居るのに既に停止している事が少しだけ気になった。
暗殺者の背後の階段から、12人の男達が武器を構えて上がってくる。
「何、勘付かれてんだ。まあ、いい油断しなければ負ける訳ねェからな。」
そう言うのはタルナードだ。青いフルプレートを着込み大剣を担いでいる。
「お前らを片付けたら、ランク3の奴らも纏めてあの世に送ってやるから。先に行って待ってろ。」
タルナードは口元に薄っすらと笑みを浮かべながら近づいてくる。暗殺者もタルナードと合流すると、口に歪な笑みを浮かべている。暗殺から強盗に変更したと言う事か。
「カレン。」
俺はカレンに右手を差し出した。それを見たカレンは左手でそれを握りしめた。
「どうしたポーターさんよ。手なんか握って。怖いのかい。ヒヒヒヒ。」
タルナードは俺が素手なので余裕なんだろう。
油断と暗さから俺のウエストバッグに結いつけられ、足元に不自然に伸びるロープに気づいていないようだ。そのロープの端はジェシカさんの足首に結ばれている。
「鍵いっぱいの部屋な」
「了解よ。ジェシカさん、お願い。」
タルナードはその瞬間、己の肩に何かが触れた気がしたが、その時には既に宿屋から消えていた。
「なっ?」
驚く男達にジェシカさんが両手で触れていく度に、ドンドンと男達が消えて行く。半分送った所で半狂乱になった男達が武器を闇雲に振り回し始めた。
「ぐわぁ!」
「テメエ、なにしゃがる!」
見事に同士討ちを始めている。ジェシカさんは俺の所まで下がると様子を見守っている。俺はショートソードを抜くとジェシカさんの足首のロープを切るとカレンに持たせる。
「じゃあ、あと5人頼んだ。」
「気を付けなさいよ。」
俺は手前にいる革の鎧の男へショートソードを振り下ろした。革の鎧の男はそれに気付くとシミターを合わせて防御した。革の鎧の男達はその瞬間に消えた。
「バンバンバン」
残りの男達へレーザーで牽制しながら、剣を合わせるだけで次々と転送されて行った。
「うわー!」
ここになって漸く、最後の1人が逃げ出そうと踵を返した。
「ストーンウォール。逃がしませんよ。」
俺が振り下ろすショートソードを最後に残った暗殺者は短剣でガードするが、それで決着はついた。
「貴方で最後よ、頑張って生きなさいね。」
暗殺者はカレンの言葉を聞いただろうか、せいぜい頑張って欲しい。朝まで生き残ればクブルムの採掘者が見つけてくれるかもしれない。
「お疲れ様、奴らも無理に進まなければ大丈夫だろ。まあ、進めないと思うが。」
「誰か1人は進めるんでしょ?」
「え?」
「え?」
「鍵の部屋だろ?」
「鍵は通路じゃない、部屋じゃないわよ。」
「どこだ?」
「スケルトンがいっぱい、いたところよ。」
「ああ、殺しあって1人残るところか。」
「そうよ。」
「まあ、いいか。」
「運が良ければ、他の採掘者が開けてくれるわよ。」
俺が通路と部屋を間違えたばかりに、タルナード達の運命はよりハードモードになったようだが、命を狙って来た代償としては安いものだろう。頑張って生き抜いて欲しい。ノーランカーが出来たのだからランク5なら楽勝だろう。
「アイツらは次はエルザさんって言ってたわね。心配だから、見に行きましょ。」
「宿屋は覚えてますよー。」
ジェシカさんの案内でエルザさんの宿屋についたが部屋までは分からない。どうしたものかと下の酒場で立ち尽くしていたら、魔法使いのシャルルが階段から降りて来た。
「あ、カレンさんなの。こんな時間にどうしたの?」
「シャルルさん、大丈夫?エルザさんはどう?」
こんな夜更けに訪ねてくるなり、心配されてシャルルさんは同じ質問を繰り返した。
「こんな時間にどうしたの?」
カレンは宿屋がタルナード達に襲撃を受けた事をした。すると、シャルルは慌てて2階へ駆け上がり、自分の部屋を開け無事なのを確認すると、隣のドアを叩いた。
「何?」
寝ぼけたエルザさんが、大剣を引きずりドアから顔を出した。シャルルさんはドアに手を掛け、中を覗き込むと安堵の表情を浮かべた。
「どうしたのシャルル、こんな時間に。」
「ごめんなさいエルザさん。私がお願いしました。」
とカレンは頭を下げて、シャルルさんの前に出て行く。エルザさんは俺たちを部屋に招き入れると、カレンの話を聞いてくれた。
「私達は女ばかりだからな、基本宿屋でも見張りを立てているんだ。この時間はシャルルだったか。」
「エルザ、無理なの。ランク5が13人もいたら無意味なの。」
カレンは他の人を起こさない様に、小さな声で喋っていたが、エルザは襲撃の史実に興奮したのか自然と声が大きくなっている。
「運が良かったのよ、コイツがたまたま起きてたみたいでね。」
「エルザー、カレンさんとの契約が切れたら、このポーターさんと契約してみるの。」
「お、おい。お前が男は嫌だと言うから、契約して無いんだぞ!」
「男は嫌だけど、優良物件なの。多分訳ありなの。」
カレンは慌てて俺とシャルルさんを見る。
「こ、コイツはあげられないけど、リーリオまで来たら少し貸すわ、少しだけね。」
「お、おい?」
「いいの?」
シャルルさんはカレンの手を握りしめて、目を輝かせている。
「女ばかりって直ぐに虫が寄ってくるのよ。それを払う力貸してあげて。」
カレンは手を握られたまま、顔をこちらに向けてそんな事を頼んで来た。
「んー、あっちのが12でこっちが6か…。魔法使いには絶壁の呪いでもかかってるのか。」
俺は周りを見渡した後、カレンとシャルルさんの呪われた身体の一部を憐れんだ目でみると、強く生きろと心の中で祈っておいた。
「カレンさん、あのポーターさん何を言ってるのか分からないけど、とても不愉快なの。」
「ええ、不愉快だけど、シャルルさんが仲間で安心したわ。」
「え?え?」
カレンは握られていた手を握り返すと、新たな仲間に向けて微笑んだ。




